富士通:自治体におけるゼロカーボンシティ施策の推進に向けた実証実験を実施、EV公用車の走行情報など多様なデータを活用しCO₂削減量を可視化

SBテクノロジー(SBT)と富士通は、福島県会津若松市、茨城県水戸市、岐阜県多治見市、兵庫県加古川市(以下、4自治体)において、環境省が主導するゼロカーボンシティを実現するための施策推進に向け、分野を超えてデータの発見と利用ができる仕組み「CADDE(ジャッデ)(注1)」を用いて信頼性が確保された多様なデータを収集し、CO2の排出量や削減量を可視化する実証実験を2021年11月から2022年2月まで行い、2022年3月に評価を行った。

「CADDE」は、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)注2第2期で採択され、SBTと富士通も参画している「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間技術注3」(管理法人:新エネルギー・産業技術総合開発機構)の研究成果である「分野間データ連携基盤技術注4」をもとに開発されたものである。

実証実験では、データの流通履歴を記録、管理する来歴管理システムと「CADDE」を連携させ、4自治体が保有するEV(Electric Vehicle:電気自動車)公用車の電力消費量やソーラーカーポートの再生エネルギー発電量などのデータを収集し、データ可視化ツール「IoT Core Connect(以下、可視化ツール)を用いて各車両のCO2排出量やガソリン車と比較した場合のCO2削減量をレポート画面で閲覧できるようにした。これにより、「CADDE」を用いて収集した多様なデータを活用できるようになり、EV移行の動機付け、職員の環境意識向上への寄与など、ゼロカーボンシティ施策の推進に効果があることが確認された。

図1.「CADDE」で収集したデータをもとに可視化されたCO2排出量や削減量のレポート画面

背景

2021年6月の改正地球温暖化対策推進法施行に伴い、全自治体にはCO2排出削減の計画策定と実施目標設定、また企業にはCO2排出量のデジタル化やオープンデータ化が求められ、カーボンゼロに向けた取り組みが加速し、関連データの可視化や活用がより活発になると見られている。さらに、環境省による2022年度予算案における地域脱炭素移行・再エネ推進交付金の計上や脱炭素先行地域の設定などが自治体の取り組みを後押しし、2050年二酸化炭素実質排出量ゼロに取り組むゼロカーボンシティを表明する自治体が増えている。

ゼロカーボンシティの実現には、自治体や企業、NPO、大学、市民といった様々なステークホルダーが相互にデータを共有しながら全体最適の視点で取り組みを進めていくことが不可欠であり、その際、データの信頼性の確保が大前提となる。

今回、SBTと富士通は、4自治体とともに、データの流通履歴を記録、管理する来歴管理システムと「CADDE」を連携させ、データの信頼性を確保した上で、多様なデータの収集から可視化までを行う実証実験が実施された。

実証実験の概要

SBTと富士通は、自治体が保有するEV公用車の電力消費量やソーラーカーポートの再生エネルギー発電量などの多様なデータを「CADDE」で収集し、可視化する環境を構築した。実証パートナーとして参加したトヨタコネクティッド、エナジー・ソリューションズ、OpenStreetは、EVやソーラーカーポートなどのデータ収集と、来歴管理システムを含めた各機能の有効性を確認した。4自治体は、「CADDE」で収集したデータの利活用によるゼロカーボン施策への効果について評価を行った。

実施目的

・「CADDE」によるデータ収集、来歴管理によるデータ流通状況の把握など各機能の有効性の確認
・自治体におけるゼロカーボンシティ推進施策への業務効果の確認

実施期間

検証:2021年11月24日から2022年2月28日まで
評価:2022年3月1日から2022年3月15日まで(実証結果に対するアンケートを実施)

各社と4自治体の役割

  • SBT
    実証環境の開発、データ可視化ツール「IoT Core Connect」の提供、「IoT Core Connect」と「CADDE」を用いた実証シナリオの作成および実証。
  • 富士通
    「CADDE」によるデータの流通履歴を記録・管理する来歴管理システムの開発。
  • トヨタコネクティッド
    車両位置情報収集デバイスと車両管理、運行管理を行うフリート管理サービス「G-Fleet」の提供、データホルダーの管理観点からデータ証跡の検証。
  • エナジー・ソリューションズ
    再生エネルギーEMSサービスと再エネIoT機器の提供、太陽光発電量、使用量、EV車両への給電回数などのデータ提供。
  • OpenStreet
    EV車両データ収集デバイスとマルチモビリティ(EV、電動アシスト付自転車)シェアサービスの提供、各地域のEV公用車利用状況などのデータ収集、自治体のゼロカーボンシティ政策に向けたデータ活用の検討。
  • 会津若松市、水戸市、多治見市、加古川市
    各自治体で保有するEV公用車の利用状況や走行データの提供(実証実験における利用許諾)、実証結果に対する評価。
図2.実証環境のイメージ

実証実験の流れ

実施環境イメージの工程①~④の内容は以下の通り。

①データ収集

EV公用車やソーラーカーポートから下記のデータを収集する。

EVデータ電力消費量・走行距離・台数・バッテリー蓄電量・チャージ回数/電力量
移動データ車両の台数・利用回数・発着の利用地点・利用人数・利用時間
エネルギーデータ電力消費量・太陽光供給電力量・購入電力量・設置地点

②データ集約・可視化

①のデータをコネクタ(データの送受信を行うためのソフトウェア・ツール)経由で集約し、可視化するためのデータ処理を行う。

③データ閲覧

Webブラウザ経由で②にアクセスし、レポート画面でCO2削減量などを閲覧する。

④来歴管理

コネクタを経由して流通するデータの原本情報や送受信などの一連の履歴を記録することで、これまで困難だった組織をまたぐデータを追跡し、データの信頼性を確保する。

検証項目

上記①~④において、実証実験における「CADDE」の機能有効性、およびEV公用車から得られる多様なデータの活用による自治体のゼロカーボンシティ推進施策への有効性について検証を行った。

(1)「CADDE」の機能有効性

SBTと実証パートナー各社は、サービス開発・提供時における「CADDE」の各機能(データ収集・可視化機能、来歴管理機能)に対し、ソフトウェア利用品質ISO/IEC25023注5を参考にした評価項目に基づき、機能有効性の検証を実施。

(2)ゼロカーボンシティ推進施策への有効性

実証パートナーと4自治体は、CO2可視化サービスと来歴管理システムに対してアンケート形式による調査項目を設定し、サービス実効性の検証を実施。

結果

(1)「CADDE」の機能有効性

データ収集・可視化については、EV公用車およびソーラーカーポートから利用目的に応じたデータの収集から可視化するためのデータ処理まで、正しく機能することが確認された。また、来歴管理については、データの信頼性向上につながるユーザ車両データの追跡が可能となることが確認された。

(2)ゼロカーボンシティ推進施策への有効性

EV公用車ごとの移動データを随時取得することによる車両の稼働管理の効率化、ガソリン車と比較したCO2削減量を可視化することによるEV公用車への移行検討の動機付け、職員の環境意識向上への寄与など、ゼロカーボンシティ施策の推進につながるとの評価を得た。

今後の展望

 SBTと富士通は、今後も、今回の実証実験で得られた結果と評価をもとに、「CADDE」の社会実装に向けた検証を進め、データ利活用による自治体のゼロカーボンシティを促進する取り組みを支援していく。また、富士通は、実証実験に用いた来歴管理システムの実用化を目指し、さらなる要素技術の強化を推進していく。

  • 注1 CADDE (Connector Architecture for decentralized Data Exchange;分散型データ交換のためのコネクタ・アーキテクチャ;ジャッデ):
    分野を超えてデータの発見と利用ができる仕組み。アーキテクチャとして、各分野におけるデータ流通の仕組みを最大限尊重し、それらを各分野の特性にあわせて分散的に連邦化するビルディング・ブロックス型をとっている。データ交換はコネクタのネットワークを通じて実現される。分散的に存在するデータ提供者とデータ利用者はそれぞれの窓口となるコネクタを用意することで、このネットワークに参加し、データ交換を行う。コネクタ間のデータ交換においては必要に応じて、認証認可、契約管理、来歴管理などの機能が呼び出されて利用される。
    また、データ交換のプロセスだけではなく、データ記述語彙の共有からデータ発見、データ変換といった、データ利活用の一連のフェーズで必要となる機能を支援するツール・サービスも提供している。
  • 注2 内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP):
    SIPは日本の科学技術イノベーション実現のために創立された国家プロジェクトで、基礎研究から実用化・事業化に至るまでを見据えた取り組みを推進することを目的としています。第2期SIPでは、Society5.0を具現化するためにサイバー空間とフィジカル空間とが相互に連携したシステム作りが不可欠であるとして、テーマの一つに「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間技術」の研究開発が採択されました。
  • 注3 ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術:
    Society 5.0を具現化するサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合するサイバー・フィジカル・システムの社会実装に向けて、ビッグデータ・ AIに係る基盤技術として、ヒューマン・インタラクション基盤技術、分野間データ連携基盤技術、AI間連携基盤技術を開発。開発した基盤技術について、人工知能技術戦略産業化ロードマップで示された生産性、健康・医療・介護、空間の移動の重点3分野を念頭に、我が国が質の高い現実空間の情報を有する領域や我が国が解決すべき社会課題の領域における複数の現場等でのデータ収集、プロトタイピング、技術実証・評価を実施し、基盤技術の有効性検証と複数の実用化例を創出することで、ビッグデータ・ AIを活用した新たなビジネスモデルの誕生を促進する。
  • 注4 分野間データ連携基盤技術:
    国、地方公共団体、民間などで散在するデータを連携させてビッグデータとして扱い、分野・組織を越えたデータ活用とサービス提供を可能とするため、関係府省庁で整備が進められている分野ごとのデータ連携基盤やその他の様々なデータを相互に連携させる分野横断のプラットフォーム「分野間データ連携基盤」を実現するための技術。
  • 注5 ISO/IEC25023:
    システムおよびソフトウェア品質の測定を目的とした国際規格。

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