MAZDA3のリヤサスがTBA(トーションビームアクスル)である理由。4輪駆動もTBA。マツダがレイアウトの工夫をしてまでTBAにこだわった理由は

Smallプラットフォームを採用した新世代商品群のマツダのリヤサスペンションは、トーションビームアクスル(TBA)である。アクセラがマルチリンクだから、TBAヘ「格下げ」されたと考える人もいるかもしれない。しかし、マツダは、「あえて」TBAを選んだ。4輪駆動(i-ACTIVE AWD)もTBAのままで作り上げた。その理由は?

TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎山上博也(YAMAGAMI Hiroya)/Mazda/Honda/OPEL

先代マツダ・アクセラのリヤサスペンションはマルチリンクだが、現行MAZDA3はトーションビームアクスル(TBA)を採用する。性能とコストのバランスから、セミリジッドのTBAは廉価版、独立懸架のマルチリンクは上級仕様のイメージがあるが、思い込みにすぎない。マツダはあえて、MAZDA3のリヤサスペンションをTBAにした。

TBAはトーションビームで左右輪間を接続しているので、横方向の入力に強い。その点を好ましく捉え(逆にいうと、左右が独立したマルチリンクは、現在の技術では強さを確保しづらい)、TBAを選択。バンプ/リバンプ時の変位を抑える特許出願中の製造方法を考案したうえで採用した。

現行MAZDA3のリヤサスは、トーションビームアクスル。アクセラのマルチリンクから、あえてTBAを選んだ。
 先代アクセラのサスペンション。リヤサスはマルチリンク式だ。

パワーパッケージを横置きに搭載し、前輪を駆動する(いわゆるFFの)MAZDA3にも4輪駆動のAWDが存在することがアナウンスされている。TBAのままAWDを成立させたとしたら、かなりレアだ。国産ブランドでは、ホンダ・ヴェゼルがTBAでAWDを成立させている。海外ブランドではオペル・モッカのAWDがTBAだ。

オペル・モッカ
オペル・モッカのAWD仕様のリヤサスはTBA。

「現行のCX-3やデミオもAWDはTBAですが、実は新型MAZDA3のAWDもTBAで成立させています。結構なチャンレンジでした」

と現行MAZDA3がデビューした際に説明してくれたのは、マツダで操安性能開発部に所属する梅津大輔氏だ。意のままに操れる人馬一体の走りを、車両運動統合制御システムで実現するのが、MAZDA3が搭載するi-ACTIV AWDのコンセプトである。具体的には、エンジンのトルク制御とブレーキ制御でヨーモーメントを制御し、ターンインでは曲がりやすくし、ステアリングを戻すときは直進への復帰を促進するGベクタリングコントロール・プラスと統合して制御する。

梅津氏も指摘しているが、「チャレンジのひとつはレイアウト」だった。TBAは左右輪間をトーションビームで接続するため、何らかの手を打たなければカップリングユニットとビームが干渉してしまう。

MAZDA3のAWD制御を載せた開発車のCX-3。CX-3のリヤサスもTBA。AWD仕様もTBAだ。
CX-3のカップリングユニットは、ジェイテクト製。ITCCと呼ばれる電子制御カップリングユニットだ。マツダ3もITCCを使う。

日産ジュークのFWDはリヤにTBAを採用しているが、AWDはマルチリンクとしている。ジュークのAWDは左右にカップリングユニットを配置するツインカップリングのため、レイアウトの都合からFWDとAWDで構造をわけたと考えられる。前述したように、マツダ3はTBAの良さを生かすため、マルチリンクに走らずTBAにこだわった。カップリングユニットを搭載するため、「レイアウト的にかなり工夫したトーションビームAWDになっています。FWDとはトーションビームの形状がちょっと異なります」と梅津氏は説明する。

レイアウトの工夫までしたTBAにこだわった理由

マツダがレイアウトの工夫をしてまでTBAにこだわった理由は、リヤに駆動力を配分した際のコントロール性の高さだ。

「(マルチリンクよりTBAのほうが)いい面が勝っています。リヤに駆動をかけた際、アンチスクワットの軸が定まるので、コントロールしやすい。マルチリンクだと、どうしてもぐにゃぐにゃ動いてしまう。動いてしまうと制御が難しい。また、トー方向の制御を考えた場合、FWDの通常のクルマでは制動時にトーインになる。I-ACTIV AWDは駆動力で曲げて行く考え方ですが、そうした場合にマルチリンクだとトー変化がつきすぎて難しくなる側面があります」

一般的に、マルチリンクは制動時のトー変化が「大」、TBAは「小」である。

「(リヤに)駆動力を掛けた際、その駆動力がコンプライアンスにとられてしまう。そうすると、駆動力と横力のバランスでステアをコントロールしようとしているのに、トーコントロールの要因が入り込んできてしまい、複雑になってしまうのです。TBAはトー剛性が高いので、駆動力でステアをコントロールしようとした場合にコンビネーションがいい」

つまり、AWDとの相性がいい。しかし、重量が重いクルマは話が別だと、梅津氏は付け加えた。

次期アテンザ? RX7? マツダが開発中という噂の「FR」モデル。トランスミッションはどうなる?

「FFベースのクルマに関しては、TBAのほうがトータルで良かった。マツダはいまラージプラットフォームとスモールプラットフォームでわけようとしていますが、スモールはこれでいきます。ラージはまた別です」

CX-5やアテンザのリヤサスペンションはマルチリンクである。それらの次の世代のAWDもリヤをTBAにすると決めたわけではない、ということだ。MAZDA3で新世代スモールプラットフォームのAWDをTBAとの組み合わせにしたのは、「ヨーロッパに負けたくないから」だ。

「本来、AWDの領域は日本がリードしている分野で、いまでも、正直いいと思っています。ヨーロッパのAWDはどれも古典的で、トラクションは掛かるんだけど、ステアリングをいっぱい切ったら離すみたいな制御でしかない。AWDの良さを十分に訴求できていないと思います。一方で、僕らはその良さをしっかり訴求していきたい」

前後の駆動力と制動力を制御することにより、ピッチをコントロールして操縦安定性を向上させるのが、マツダの進化したi-ACTIV AWDの姿だ。これを実現するためには、TBAが不可欠だったのである。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…