ヴァレオが北九州に工場を新設したのはなぜか[ヴァレオ苅田工場]

ヴァレオ・サーマルシステム事業部が福岡県に新工場を建設した。カーエアコンユニットとグリルシャッターの生産からスタートする。
ヴァレオ・苅田工場。同地ではヴァレオにとって2ヵ所目の生産拠点、グループを含めると北九州エリアでは3ヵ所目となる。敷地面積は15312平米/建物面積は8527平米、従業員数は75名を予定している。

ヴァレオは2022年6月1日、福岡県京都郡苅田町(かんだまち)に新工場を建てた。同社は4つのビジネスグループ+アフターマーケット事業をコアとしていて、そのうちのサーマルシステム事業部に同工場は所属する。カーエアコンユニットおよびアクティブグリルシャッターの生産から開始するとアナウンスされた。

カーエアコンユニットは、HVAC本体樹脂、エバポレーター、ヒーターユニット、ファンモーターを組み合わせる構造で、苅田工場ではこのうち、本体の樹脂成形、エバポレーターおよびヒーターユニットのパイプ組み付け、ファンモーター組み立てをサブラインで組み、最終的メインラインで「カーエアコンユニット」とする。SUVやミニバンなど、キャビンの大型化に伴うリヤエアコンの普及に対応する格好で、リヤ用カーエアコンユニットも生産する。サブラインを4本、ファイナルアセンブリラインを2本備え、一貫生産とするのが同工場の特長である。

エバポレーターに配管を組み付ける工程。エバポレーター、ヒーターユニット、それぞれに組立機を1台ずつ用意する。
カーエアコンユニットの完成状態。画像はフロント用。このあと、最終検査機に通し出荷する。
写真はパイプかしめ機。カーエアコンユニットのアセンブルラインは、作業者がひとつのユニットを最初から最後まで組み上げる方式。組立台車はユニットを回転させることができ、上下左右を問わず姿勢を変えずに作業することを可能にした。部品の払い出しは自動案内とし、誤選択/誤組付を防いでいる。

では、なぜ苅田町なのか。理由は、周囲に自動車メーカーの工場があるためだ。日産自動車九州、ダイハツ九州、トヨタ自動車九州の工場が50km圏内、マツダ防府工場は150kmという具合で、重量はそれほどでもないが体積のあるカーエアコンユニットを納入するにメリットが見込める。さらに門司港まで35km、北九州空港まで12km、小倉駅まで30分と、ロジスティクスや出張にも便利なロケーションである。

候補地の選定が始まったのは2020年1月、同年12月に苅田町の本地に決定したのは、工場設置のさまざまな条件を満たせることが理由だった。およそ2mにもわたる盛り土を施し地盤を固め、苅田工場は造成されている。
往訪時、工場内には工場が建設されるフルストーリーを示す膨大な量の写真が展示されていた。スペシャルプロジェクトマネージャーの岩崎正弘氏が、当時の苦労を詳細に語ってくれた。

アクティブグリルシャッター:AGS

アクティブグリルシャッターの構造と装着位置

ラジエーターの前に起き、通風を抑制あるいは遮断する部品。「アクティブグリルシャッターのフラップを全閉することにより、ラジエーターにあたる風を防ぎ暖機をスムーズに完了し、アイドリングが高い時間を短縮、燃料の使用低減に貢献します」と、ヴァレオの資料には記載されているが、自動車のエンジンは暖機時、サーモスタットによりラジエーターには水が流れない構造としていることから、そのシーンよりもむしろ、極低温時の高速巡航などでオーバークールを避けたい、あるいは熱交換の収支が成り立っているときの空力性能向上に有用だと思われる。

ベーン左右にキャップを備えることで、フラップとして機能する部品となる。写真はフラップの生産工程で、自動化パート。

苅田工場のAGSは、自動化ラインと作業者による組立ラインを組み合わせているのが特徴。自動化しているのはフラップの組立工程、部品のピッキング、最終検査のライン。作業者ラインは製品の組立工程。AGSは、共通部品であるフラップを何枚使うかによって多品種少量生産とすることができる。組立工程を人の手に頼ることで、小変更や多品種生産に対し柔軟な対応を取ることができる。現在、メインラインでの総工程は7で、そのうちの5が作業者工程とした。

一方、フラップを筐体に組み付ける工程は作業者による組立とした。枚数や配置によってバリエーションとするAGSの将来を見据えたライン設計である。

射出成形

苅田工場内は、最大850トンを2台/最大1300トンの、合計3台の射出成形機を備える。写真は1300トン型。

HVACの筐体を成形するために、苅田工場は射出成形機を設置した。5〜10トンの金型に対応し、型締め力は850/1300トン。樹脂の射出圧力は最大90MPa。稼働電力は200kWで、油圧成形機に対して大幅な省電力を図っている。カーエアコンユニットの製造に当たって、ヴァレオはリサイクルペレットを40%使用する。材料はポリプロピレンで、これを220〜250℃に温め液体とし、金型へ50〜90MPaの高圧で注入することで製品とする。再生材を用いることによる、バージン材との違いは大きく認められなかったとのこと。

原料となるPPペレットを投入するパート。左側の「ホッパー」でペレットを液状化し、右側に向かって「シリンダー」で圧送する。
PPペレット。HVAC筐体の生産にあたっては、再生材を含めることで環境負荷を抑えている。
送られてきた液状PPは金型に高温高圧で流し込まれ、型に沿って製品形状となる。流したそばから凝固が始まるので、どのような圧力でどこから流し込むかが製造の肝。なお、HVAC筐体を作るときの液状PP内には、補強のための繊維質:フィラーも混合されている。材質は回答を得られなかった。
できあがった筐体の様子。細かい部分まで成形されているのが見てとれる。苅田工場の射出成形機は、現在のところ200〜2200gの製品重量品を生産している。

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