「環境に配慮した軽自動車初の直噴(DI)ターボエンジンを搭載
軽自動車のターボエンジンとして初めて、シリンダー内に直接燃料を噴射する「直噴(DI)」方式を採用したエンジンを「RR-DI」に搭載した。19.0km/Lの低燃費(2WD・4AT車)で、「超‐低排出ガス」車(★★★)認定を取得し、グリーン税制にも適合した」
(2003年9月30日のプレスリリース「軽乗用車 新型「ワゴンR」を発売」より)
2019年2月現在、軽自動車用のエンジンとしては搭載例のない直噴ターボというフォーマット。 登録車用(軽自動車以外)エンジンとしては日本勢としてもだんだん広がりを見せている直噴ターボについて、軽自動車にも!という声は少なくないかもしれない。
ところが、過去を振り返ると搭載例はあったのだ。2003年9月30日に登場を果たした3代目ワゴンRのスポーツグレード「RR」の上級車(ややこしい)“RR-DI”にそれは載せられていた。この世代のワゴンRはエンジンラインアップがとても豊富で、NA、2種のターボ(Mターボ/Sターボ)、直噴ターボという具合である。Sターボと直噴ターボはともに軽自動車の自主馬力規制である47kW(64ps)としていて、出力曲線を眺めても大きな違いは認められない。ではどこに存在意義があるのかといえば、環境性能の追求である。
冒頭のリリース抜粋にもあるとおり、直噴ターボ仕様車は三つ星(★★★)を獲得している。もともとは初代のラインアップにおいて高負荷時の絶対馬力を増すために過給されたというワゴンRのターボ仕様車だったが、その性状を生かしてハイパフォーマンス志向の“RR”が特別仕様車として登場。以来、2代目ではレギュラーモデルとして、そして3代目デビューに当たっても受け継がれている。しかしRRは早期暖機性能が厳しく、3代目RRのMターボ/Sターボでも改良を加えてなお二つ星(★★)にとどまっていた。
ご存じ、直噴を用いれば高圧噴射ゆえの粒径微細が燃焼性の良化をもたらすし、負荷の増減に対する混合気濃度のコントロールも自在。燃料蒸散作用による筒内冷却も何よりのメリットであり、これらを含めることで“RR-DI”グレードは三つ星を獲得することに成功している。
4種のエンジンのボア径は68.0mmと共通。軽自動車の660ccを得るためにはショートストロークとなり、60.4mmと短い。ちなみに後継のR06A型エンジンはボア64.0×ストローク68.2mmと一転してロングストローク寸法となり、これはコンパクトな燃焼室設計とすることで冷却損失を極力排するため。しかしいっぽうで、ボアが小さくなればバルブ径も小さくしなければならず、吸排気性能が大きく損なわれてしまう。R06A型は10mmの小径スパークプラグを用いることでバルブ面積を確保、小径ボアながらK6A型よりも大きなバルブ径値を確保している(吸気バルブで24.6mm→25.7mm)。K6Aのショートストロークという設計も、M12のスパークプラグと目指す吸気性能から算出したギリギリのバルブ径から得たボア値が68mmであり、そこから660ccとするためにストロークが60.4mmになったというのが真実だろう。
燃料インジェクターは画像でご覧のとおり側方配置。最高噴射圧は7MPaで、ストイキ燃焼制御を基本としていた。吸排気カムの作用角はDI/Sターボは共通で、吸気260度/排気269度、オーバラップ128度。なお、Mターボは250/250/103度としていて、中低速トルク寄りの特性としていた。
ブロックは鋳鉄ライナを鋳込んだアルミ合金製、4ベアリング構造のクランクシャフトを下方からラダービーム形状のロワーブロックで押さえ込む設計だった。高回転化/高出力化に優れた構造といえるだろう。
非常に意欲的なエンジンだったが、2008年9月25日に登場した4代目ワゴンRのラインアップからは消滅してしまった。4速ATに代えてCVTを採用し始め、モード燃費対策に幅が生まれたためか。また、当時の直噴技術では長年の使用にともなう「すす」の堆積も問題になったからだと思われる。何より、直噴関連のコンポーネントは非常に高価で、コスト面から折り合いがつかなくなったこともあろう。ごくわずかの期間にのみ存在した軽自動車唯一の直噴ターボエンジン、お持ちの方はぜひ大切にしていただきたい。