猛烈に暑い日が続く今日この頃、地球温暖化のせいだ! CO2を吐き出す自動車が悪い! やっぱり電気自動車だな!――などとお思いの方もいらっしゃるかもしれません。また、EUが2035年以降の新車におけるエンジン搭載を実質禁止、などという報道から、エンジンはもういらない?などとお感じの方もいらっしゃるでしょうか。
しかし、これからもこれまでどおりにクルマを使うことを前提とする限り、エンジンをなくすことは絶対にできません。
高出力を長時間安定して発揮し続ける小さなパッケージの動力源について、今なおエンジンの右に出るものは現れていません。もちろん、モーター×バッテリーにも非常に優れた特質はあり、これを一切否定する理由は皆無ではありますが、オールラウンドでこれに担わせるというのはあまりに酷というもの。エンジンは、その苦手分野を奇しくもモーターと逆にしていて、ならばこれらを組み合わせて用いていくのが、これからの「高出力を長時間安定して発揮し続ける」使途には決定解としていくべきではないでしょうか。
本特集では、これから苛烈を極めていくであろう燃費/排出ガス規制に対応していくために、では自動車のパワートレーンはどのように進んでいくべきかを考察しました。キーワードは「エンジンはなくならない」です。
図解特集:エンジンはなくならない ▶︎ 緒言 ・「電気偏重」への異議 その計算は本当に正しいか ・ 夢から、いよいよ現実へ 水素という選択肢 ▶︎ 現状の把握 ・ BEVの普及ベースは規制で決まる[ IHSマークイット ] ▶︎ 将来への提案 ・ いま求められるHEVと「ユーロ7」規制対応 [ FEV ] ・ DHEという手段で先鋭化するエンジンの役割 [ AVL ] ・ 高度な補機で超高効率を目指す [ ボッシュ ] ・ パワートレーンには柔軟な多様性が必要だ [ IAV ] ▶︎ エンジン技術 ・ ガソリン/ハイブリッド両方に最適なエンジン [ ダイハツ・WA型 ] ・ エミッションとパフォーマンスを両立した直噴機 [ ホンダ・LFC型 ] ・ 希薄燃焼を確実に実現する [ スバル・CB18型 ] ・ 発電専用で担う異次元の超高効率機関 [ 日産・STARC燃焼 ] ・ 高タンブルの燃焼をコモンアーキテクチャー化 [ トヨタ・Dynamic Force ] ▶︎ 結言 ・ ICEをさらに改良したxEVは「燃費2倍」に手が届くか?
電気自動車にシフトしていくことを明言しているEU:欧州連合。ハイブリッドを含むエンジン車の販売を、2035年以降は実質禁止にしていく意向を明らかにしています。しかし、モーターにとっていちばん条件の厳しい「高出力長時間発揮」を必要とする彼の地にあって、全数電気自動車代替とは実現可能なのでしょうか。
必要なのはTank to Wheel:自動車の使用過程におけるCO2排出量考察ではなく、Well to Wheel:エネルギー生産から走行までを含めたCO2排出量考察です。特集の冒頭では、世界各国における発電事情から、果たしてそれが可能なのかを検証します。
では、これからの世界各国の電気自動車普及はどのように進んでいくのか。世界的な調査会社であるS&Pグローバル(旧IHSマークイット)に、2035年までの各種自動車の販売台数分布予測を聞き、解説しました。本稿がユニークなのは、2020年9月当時の同予測と比較検証しているところ。定期的に同社にヒアリングを続けている弊誌ならではの視点を盛り込んでいます。
明らかに異なったふたつのグラフ。その理由は――政治です。巨大な産業である自動車市場は、各国の思惑が非常に複雑に絡み合うだけに、情勢によって結果は大きく違ってきます。今回のグラフが大きく違いを見せた理由は、EU委員会の2035年ICE実質禁止意向。これが果たして今後、どのようにグラフを大きく書き換えていくのか、考察します。
エンジンはなくさなきゃいけないとお上は言っている。でも現実問題、エンジンをなくすことはどうやら無理のよう。建前と本音の間で悩む自動車業界の姿が予想されます。エンジニアリング・サービス・プロバイダと言われる各社は自動車メーカーほかから開発や評価などを請け負う職種。彼らは果たして、これからの自動車パワートレーンについてどのようにとらえ、提案を進めていくのでしょうか。
FEV@ドイツ、AVL@オーストリア、ボッシュ@ドイツ、IAV@ドイツの、世界的な4社に同じ質問を投げかけ、回答をいただきました。エンジンはなくせるのか、なくせないのだとしたらどのような手段を講じなければならないのか。4社4様の解決策をご紹介します。
個人的にはいちばんしなやかでスマートな解決を図っているのが、日本の高電圧式ハイブリッドシステムだと感じます。先述のようにエンジンとモーターを補完しシナジーを発揮させ、だれが乗ってもどのように使ってもいい燃費値を実現する。そして安い。この実績と技術は、国別で見れば圧倒的なアドバンテージを発揮していると思われます。
ではその国産ハイブリッドシステムはいま、どのような新型機で燃費/排出ガス規制をクリアしようとしているのか。ダイハツ、ホンダ、スバル、日産、トヨタの事例をご紹介します。
エピローグでは、エンジンの効率をより高めていくにはどのような手段が考えられるのかを考察しました。マツダ・技術研究所の山本博之氏と山川正尚氏に、次世代エンジン燃焼技術の可能性と課題、2022年現在というテーマでお話をうかがっています。急速燃焼というキーワードで高効率化低エミッション化を目指す世界各国のエンジン開発には今後どれだけの取り代がが残されているのか。ガソリン、ディーゼルのいいところ取りとも言えるHCCI運転はどこまで運転領域を広げられるのか。
なくせないとMFiが信じるエンジン。さらに活躍してもらうための提案をお二方に解説していただいています。
もくじ
図解特集:エンジンはなくならない
▶︎ 緒言
・「電気偏重」への異議 その計算は本当に正しいか
・ 夢から、いよいよ現実へ 水素という選択肢
▶︎ 現状の把握
・ BEVの普及ベースは規制で決まる[ IHSマークイット ]
▶︎ 将来への提案
・ いま求められるHEVと「ユーロ7」規制対応 [ FEV ]
・ DHEという手段で先鋭化するエンジンの役割 [ AVL ]
・ 高度な補機で超高効率を目指す [ ボッシュ ]
・ パワートレーンには柔軟な多様性が必要だ [ IAV ]
▶︎ エンジン技術
・ ガソリン/ハイブリッド両方に最適なエンジン [ ダイハツ・WA型 ]
・ エミッションとパフォーマンスを両立した直噴機 [ ホンダ・LFC型 ]
・ 希薄燃焼を確実に実現する [ スバル・CB18型 ]
・ 発電専用で担う異次元の超高効率機関 [ 日産・STARC燃焼 ]
・ 高タンブルの燃焼をコモンアーキテクチャー化 [ トヨタ・Dynamic Force ]
▶︎ 結言
・ ICEをさらに改良したxEVは「燃費2倍」に手が届くか?
▷ 連載
・ 福野礼一郎 ニューカー二番搾り:キャデラック・エスカレード
・ 畑村耕一博士のエンジン手帖:ルノー・E-TECH
・ 永島 勉 レーシングカーエンジニアの流儀
・ Birdview 自動車鳥瞰図 by 牧野茂雄
・ 第6回 大学研究室探訪 : 日本大学 生産工学部 Part 1
・ サスペンションウォッチング:RWD用リヤマルチリンク [ メルセデス・ベンツ・Cクラス ]
・ My opinion:貝瀬 斉「主観を大切に、自分をゴキゲンに」
・ 福野礼一郎「バブルへの死角」:ホンダ・プレリュード・ 歯車屋の見た世界 第99話
▷ レポート
・ ジェイテクト・花園工場見学会
・ 人とくるまのテクノロジー展 2022 NAGOYA
・ ホンダ・ステップワゴン
・ 三菱自動車・eKクロスEV
・ ヴァレオ・苅田工場
・ ヴァレオ・48Vシステム大磯試乗会
モーターファン・イラストレーテッド volume 190
2022年7月15日発売
定価1760円 (本体価格1600円)
ISBN:9784779646430