ホンダといえば「2040年の四輪新車販売比率においてBEV100%」の三部社長のスピーチが強く印象に残るが、二輪車においてはどうか。目的はカーボンニュートラル、しかし四輪のようにバッテリー×モーターへの置き換えは最終解とせず「多面的多元的なアプローチが必要(取締役 代表執行役副社長:竹内弘平氏)」としていたのが印象的である。
「ホンダの二輪車は小型コミューターから大型FUNモデルまで、モデルラインアップで新興国から先進国までと非常に幅広い市場で展開しており、多様なお客様のニーズに応える必要があります。また、その大半を占める新興国では、コミューターモデルを中心に日々の生活を支えるライフラインとしてお使いいただいており、電動車については、重量や価格といった課題があり、またその環境/需要は、インフラ環境や規制レベル、政府のインセンティブなどに大きく左右される状況です」(常務執行役員:野村欣滋氏)
こうした状況を踏まえ、ホンダは今後「電動化」と「エンジンの高効率化」を進めていくという。後者についてはすでに市場に投入されているeSTTやeSP+が想起されるが、さらにブラジルなどにおいて普及しているエタノール混合ガソリン対応エンジン(フレックスフューエル車)を、インド市場にも2023年以降投入を予定している。なお、プレゼンテーション後の質疑応答で燃料電池車やハイブリッド車の可能性を問われていたが、二輪車においては機器の搭載性などを理由に積極姿勢でないことが説明されている。
では注目の電動化戦略についてはいかがか。ご存じのとおり、BEVには充電が必要で時間を要する。容量を大きくすれば充電頻度は低くなるが車両が重くなり、二輪車にとっては商品性を大きく損ねることにもなりかねない。そこでホンダが進めるのがバッテリーシェアリングである。電動アシスト自転車のように、バッテリーパックは着脱式とした車両とし、必要なときにはステーションで充電済みのパックと交換する。バッテリーの不可逆的劣化の原因が発熱。急速充電時にそのような状況に見舞われることが多いなら、劣化の少ない普通充電で満充電としておいたパックと交換すればいい。充電に対して交換のための所要時間もほとんどない。二輪車ならではのスマートな解決策だ。
すでにホンダはインドネシアにパナソニックおよびパシフィックコンサルタンツと合弁会社を設立、可搬式バッテリーパック「Honda Mobile Power Pack」のバッテリーシェアリングサービス事業を展開している。さらに今後、インドにおいてもリキシャと称する三輪型トラック型BEVへの搭載を、日本でもENEOSおよび国内二輪4メーカーによるGachacoを2022年秋に設立して同様のサービス事業を開始する予定。
また、二輪の電動化の課題への対応でキーとなるバッテリーについては、現在四輪用に研究所が開発中の全固体電池が有効なひとつの選択肢と考えております。Honda全社での取り組みと連動しながらも、二輪車での導入も目指していきます。(野村氏)
全固体電池についても、上記のように可能性が示唆された。しかし「電解質が固体だからイオンの移動が活発=充放電効率がいい」「有機溶剤としている現在の液体式電解質に対して安全=小型軽量化が実現」という固体電解質式リチウムイオンバッテリーという美点は納得できるものの、つねに振動にさらされている二輪車/四輪車において電解質が正負極から剝落しないのかという点はいつも疑問。しかし「とにかく軽くて小さい高エネルギー密度バッテリー」は二輪車にこそ求められる要件で、実現すれば新たな世界が広がるのは間違いない。
モーターという駆動機と二輪車との相性はいかがか。「回転し始めから最大トルク」という特性は二輪車にとっても朗報のはずで、クラッチをなくすことができる期待もある。車重が軽いので高効率運転ポイントを高速側に振り、高出力発揮に特化するということもできるだろうか。モーターになったらバイクはつまらなくなるという声も上がりそうだが、個人的には自在に出力をシームレスに発揮できる特性が非常に楽しみである。課題は、モーターを使う一番の目的である回生が、後輪側だけでは上手に取りきれないところか。
また、バッテリーをどこにどれだけ積むかが運動性能に大きく影響する。四輪ではキャビン下ホイールベース内にパックを積むことで操縦性安定性がFWDエンジン車から大きく良化する車両が多いが、二輪車ではむしろ上でもいいので重たいものは自分に近いところに置くのがいいように思える。本日のプレゼンテーションで登場が匂わされた大型FUN EVモデルは果たしてどのような仕立てとしてくるだろうか。