ネピア・ノマドⅠ/Ⅱ:ディーゼルターボコンパウンドで狙った高出力機(4-2)【矢吹明紀のUnique Engines】

ネピア・ノマドⅠの設計はレシプロピストンエンジン部門の主任設計者だったアーネスト・チャタートン率いるチームによって開発がスタートした。そのデザインはシンプルに言ってしまえばE124の液冷H型24気筒を半分の水平対向12気筒に設計を変更したものだった。
TEXT:矢吹明紀(YABUKI Akinori) PHOTO:Wikimedia Commons

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 ボア×ストロークは6.0インチ(152mm)×7.375インチ(187mm)。排気量は2502 cu in (約41000cc)。この排気量は第二次世界大戦時に実用化された航空機エンジンと比較すると大型の部類に入る。ボアに対してストロークが長めなのは当時の航空機エンジンとしてはやや珍しかったが、これはピストンやコンロッドを高い過給圧に耐えることができる様に頑丈に設計しなければいけなかったこと。結果的に動部品の重量が増したことから、敢えて最高回転数を抑えむしろロングストロークでトルクを稼ぐことを目指した設計ゆえのサイズだったと言って良いだろう。

 ネピア・ノマドⅠの構造をまずはレシプロエンジン部分から解説すると、シリンダーレイアウトは前述の通り液冷水平対向12気筒。バルブは無く、吸排気はシリンダー側面のポートを通じて行われた。ポートの開閉はピストンによる典型的な2ストロークサイクルである。2ストロークディーゼルゆえ、吸気によって排気を押し出すといういわゆる掃気行程のためには掃気ポンプという名の過給機が必要だったが、これはエンジン単体としてはクランクシャフトから駆動力を取った機械式の二速遠心過給機で行う設計だった。クランクシャフトに対してコンロッドは左右シリンダーバンクのオフセットが不要なYフォークタイプ。ピストンは耐熱アルミニウム合金であるY合金の本体とオーステナイト系ステンレスのトップクラウンを組み合わせた2ピースタイプであり、ピストンヘッドの素材を高温化対応とした設計となっていた。設計段階でピストンヘッドの最高温度は700℃を超えると想定されていたことがこうした2ピース構造を採用した理由である。アルミ合金のピストン本体とステンレスのピストンヘッドとの間には冷却用オイルジャーナルも設けられていた。圧縮比は8:1とディーゼルエンジンとしては低めだったが、これはガスタービンも含めた想定過給圧が極めて高かったことが理由である。

ノマドの上方視

 シリンダーの下部には燃料噴射ポンプを駆動するためのカムシャフトがセットされており、噴射ポンプは左右に3基ずつ、それぞれ担当するインジェクターは2本であり各シリンダーに1本セットされていたインジェクターと接続されていた。燃焼室の構造はシリンダー内直接燃料噴射である。この燃料噴射用カムシャフトには冷却液循環ポンプも接続されていた。また燃焼室には燃料インジェクターの他に始動用の点火プラグもセットされており、これはいわゆるグロープラグでは無くマグネトーコイルによる電気点火プラグだった。マグネトーコイルがセットされていたのはエンジン後部である。ここまでの構造は水平対向12気筒エンジンとしては比較的オーソドックスであり、2ストロークサイクルディーゼルならではのディテールや素材がやや特殊ではあったものの吸排気バルブ関係装置が一切無かったこともあり構造そのものはシンプルだったと言える。

ネピア・ナイアード

 一方、コンパウンドエンジンのもう一つの主役というべきガスタービンとその接続方法は極めてユニークだった。ノマドⅠに組み合わされていたガスタービンは1946年の時点で開発中だったネピア初の航空機用ガスタービンだった「ナイアード」の基本デザインを踏襲していた。ナイアードはタービンシャフトの回転力をプロペラの駆動に使う、いわゆるターボプロップエンジンの先駆者というべき存在であり、推力よりは軸出力を重視したコンプレッサー/パワータービンや軽量小型な構造などノマド用の補機として非常に好ましい特性を備えていた。基本設計段階での軸出力は1590ehp(effective horse power/有効馬力)を想定しており、この出力レンジもノマドⅠに設計には都合が良いレベルだった。これらを総合した検討案がネピアの経営陣がノマドⅠの開発にゴーサインを出した背景にあったと思われる。(4-3へ続く)

矢吹明紀(やぶき・あきのり)
フリーランス一筋のライター。陸海空を問わず世界中のあらゆる乗物、新旧様々な機械類をこよなく愛する。変わったメカニズムのものは特に大好物。過去に執筆した雑誌、ムック類は多数。単行本は単著、共著併せて10冊ほど。

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