「なめらか」がキーワードか:アイシン電動化新技術試乗会

電動化戦略を積極的に進めるアイシンが、自社製品を存分に試してほしいと試乗会を開催した。多種多様な試験車からは、次世代のクルマのあるべき姿が浮かび上がる。強く感じたのは「なめらかさ」だった。
TEXT:MFi FIGURE:Aisin

モーターファン・イラストレーテッド vol.193より転載

アイシンの開催した「電動化新技術試乗会」では、現在の製品ラインアップに加えて次世代の提案品を数々展示、さらにはそれらをクルマに載せた試験車の試乗の機会も設けられた。ラインアップについては、つい先日登場を果たしたばかりのトヨタbZ4X/クラウンクロスオーバーが積むeAxleはすでに第1世代という位置付けで、会場には第2世代にとどまらず第3世代までもが実機として展示されている。当然主役は第3世代のeAxleで、繭というかピーナッツというか、見た目からも非常にフレンドリーな小型の筐体が非常に目を引いた。

アイシンの進める電動化戦略は、大きく分けるとハイブリッドトランスアクスルとeアクスルの二種。そこからさらにサイズ分けされ、さらに世代が進んでいく――というシナリオを同社は描いている。ハイブリッドトランスアクスルについては、ご存じトヨタの中核システム:THSであり、2モーター式のこれらに対して新たに1モーター式を提案しているのがこのところの新製品群である。さらにeアクスルについてはいよいよ市販車に搭載が開始されたのを皮切りに、意欲的に高効率化と小型化を図る世代促進を狙う。
上図中❼:第3世代eAxle
減速機を(おそらく)遊星歯車機構に依っていることで1軸レイアウトにしている。手前側にモーター、奥側に減速機構が収まっているものと思われる。なお、制御部は載っていない。クラスや出力については言及されず。

小さい理由のひとつは、同軸型のレイアウトとしていること。減速機は間違いなく遊星歯車機構を用いているはずで、会場のエンジニアにその旨を訊くも当然はぐらかされる。ただし、インバーター/コンバーターの制御部はこの筐体には含まれず、それらを収めれば当然サイズや容量は拡大する。しかし、同軸構造で小さくするという目的は、第3世代として訴求したい大きなポイントだ。搭載した車両に試乗して驚いたのが、ペダルを戻した瞬間のなめらかさ。力行と回生という真逆の動きにもかかわらず、反転時のショックがまったくない。この穏やかさは電動車の次の魅力になるのではないか。

注目をやや集めにくくなってしまった格好の第2世代群だが、これらも意欲的に展開を図る様子。会場には大中小の3カテゴリで試作品を展示、さらに中カテゴリについてはフロント用とリヤ用の2種を用意していた。すでに市販化している第1世代に対して10%以上の電費向上を目指すとしていて、その達成にはアイシンが長年培ってきた歯車の効率向上が存分に発揮される。「これまでも歯車技術を得意としてきた御社においても、これ以上の高効率追求の余地があるのか」と訊いてみたところ、電動アクスルでは従来の世界とは異なる点が多々あり、それを解決することで「できることがまだまだある」という回答を得られた。このほか、従来の回転領域からさらに上を担うことになる軸受について、最新世代を適用していく。

お詫び:『モーターファン・イラストレーテッド』vol.193-P013において、第2世代eAxleの写真の掲載順が間違っておりました。正しくは下のとおりです。
上図中❹:スモール用第2世代eAxle
第1世代に対して10%以上の電費向上を目指すのが第2世代群。スモール用はいまのところ、前後共通タイプとしている。
上図中❺:ミディアム用第2世代eAxle
写真は後軸駆動用ユニットで、このほか前軸駆動用ユニットも提案されていた。歯車のかみ合いを向上させるとともに軸受を低損失タイプに改めるなどし、高効率化を図る。第2世代品はまだ秘匿性が高く、決められた画角のみでの撮影だったが、裏側を眺めるとかなり意欲的な配置としているのが見て取れた。
上図中❻:ラージ/プレミアム用第2世代eAxle
前後共通タイプとして今のところは提案。もちろん、依頼主のオーダーによって機械的配置や寸法などは変更できる。高出力化にあたっては冷却の強化を図り、連続出力性能を狙う。モーターの種別はPM同期型とのこと。

このほか、アドヴィックスも新システムを提案した。「なめらかブレーキ」と称するそれは、前後の制動力を独立でコントロールすることで、制動時のノーズダイブや停止直前の「カックン」を回避するという。システム搭載車に試乗すると、まるで大きなクラスのクルマに乗っているかのようなフィーリング。制動時全体で生じるエネルギー量は同じながら、突出したところをまず抑えて穏やかなところにそれをもっていき平滑化し――というような印象を受けた。なめらかなブレーキはドライバーのみならず、乗員全員が享受できる挙動。「日本車は総じて乗り心地がいい」と世界から羨望の眼差しを集めることも可能なのではないか。

回生協調・なめらかブレーキ
本試乗会でいちばん感動した技術。前後の制動を独立制御し、姿勢変化を最小限に抑えようという試み。さらに試乗車は前後モーター車であることから回生エネルギーもより多く得られる。日産e-4ORCEが駆動で同様の制御を実現しているが、そのブレーキ版と言えようか。摩擦ブレーキのみでも実現できそうとのことで、大いに期待。
なめらかブレーキの原理。制動初期にまずリヤブレーキをかけてノーズダイブを抑制、その後前後のブレーキ割合を適宜配分することで回転運度:ピッチではなく並進運動:ヒーブに変換することができる。効果はてきめん。同制御はKINTO FACTORYにおいてすでにサービスの一部提供を開始、ヴェルファイアに適用可能。ソフトウェアの書き換えのみで実装できる。乗り心地は大いに高まっている。

絶対性能の追求は必要である。しかしそこに至るまでの変化量をいかに急峻にせず、穏やかに遷移するか。アイシンの最新製品群に触れ、彼らは「なめらかさ」を大切にしているのかもしれないと感じた試乗会だった。

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