【海外技術情報】BMW:水素燃料電池搭載モデル『iX5 Hydrogen』のパイロットプラントにおける生産が開始された

BMWグループはBMW『iX5 Hydrogen』の生産を開始する。この水素燃料電池搭載モデルの製造はミュンヘンの研究革新センター(FIZ)のパイロットプラントで行われている。水素燃料電池技術を搭載した史上初のスポーツアクティビティビークル(SAV)は既に開発段階の厳しい条件下における集中的なテストプログラムを完了しており、2023年春からは一部地域におけるカーボンフリーモビリティの技術デモンストレーターとして使用される予定となっている。
TEXT:川島礼二郎(Reijiro KAWASHIMA)

水素燃料電池搭載モデルBMW『iX5 Hydrogen』のパイロット生産が開始された

世界中の自動車メーカーがBEVに邁進しているように見えるが、特にドイツのメーカーは(日本メーカーと同じように)水素にも着目している。なかでもBMWはBEVと並行して、水素燃料電池搭載車のプロトタイプ完成に漕ぎ着けた。それが『iX5 Hydrogen』だ。

2022年3月までに、BMWは北極圏にほど近いスウェーデン北部にあるテストセンターと公道において、氷点下の極端な低温環境下での燃料電池システム、水素タンク、ピーク出力バッテリー、それに中央制御ユニットの統合機能テストを実施し、-20°Cの温度でもフルパフォーマンスを発揮できることが確認されていた。BMW AG取締役会メンバーであり開発担当のフランク・ウェーバー氏は以下のように述べた。

「水素は多用途のエネルギー源であり、気候中立に向けて前進するうえで重要な役割を果たします。当社ではパーソナルモビリティにとって水素の重要性が大幅に高まると確信しており、バッテリーと燃料電池の電気駆動システムを組み合わせることは、長期的には賢明なアプローチであると考えています。

燃料電池はコバルト、リチウム、ニッケルといったレアメタルを必要としないため、燃料電池に投資することでBMWグループの地政学的回復力を強化することに直結します。『iX5 Hydrogen』テスト車両により得た新たな知見により、水素社会が現実のものとなったときに魅力的な製品レンジを提示できるでしょう」

生産はミュンヘンのパイロットプラントで行われる

『iX5 Hydrogen』の生産は、ミュンヘンの研究革新センターにあるパイロットプラントで行われている。パイロットプラントとは、同社のブランドにおいて新しいモデルが初めて作られる際の開発と生産とを繋ぐインターフェースである。約900人もの従業員が、ボディショップ、組み立て、モデルエンジニアリング、コンセプト車両の製造、アディティブマニュファクチャリングなどの分野で働いている。彼らはそれぞれ、最大6つの車両プロジェクトに同時に取り組みながら、製品そのものと製造プロセスの両方が、連続生産できる準備が整っていることを確認する。『iX5 Hydrogen』の場合、水素技術、車両開発、新モデルの初期組み立てのスペシャリストが緊密に協力して、最先端の駆動技術とエネルギー貯蔵技術を統合する作業を担っている。BMW AG取締役会メンバーであり生産担当のミラン・ネデリュコビッチ氏は以下のように説明した。

「当社が開発した燃料電池システムと『iX5 Hydrogen』の生産は、当社が小規模製造分野における最高の柔軟性と比類なきノウハウを有していることを示しています。当社は既に、水素技術をBMW iFACTORY生産システムに追加の駆動装置として統合するために必要な専門知識を有しているのです」

BMWグループのアメリカ・サウスカロライナ州にあるスパータンバーグ工場は、『X5』のプラットフォームをベースに開発された水素モデルのベース車を供給している。パイロットプラントのボディショップには新しいフロアアセンブリが取り付けられており、センタートンネルとリアシートユニットの下に2つの水素タンクを収容できる。

本モデル固有の12Vおよび400V電気システム、高性能バッテリー、電気モーター、それに燃料電池はすべて、標準の生産部品とともに組み立て段階で統合される。高性能バッテリーと共にリアアクスルエリアに配置された電気モーターは、BMWのBEVおよびPHEVに採用されている現行の第5世代BMW eDriveテクノロジーの製品である。ボンネットの下にある燃料電池システムは、今年8月以来、ミュンヘン北部ガーヒンにある社内水素コンピテンスセンターで製造されている。

パイロットプラントの一部を形成する3Dプリンティングのコンピテンスセンターであるアディティブマニュファクチャリングキャンパスで製造される部品も含めて、多数のコンポーネントが水素駆動SAV専用として製造されている。『iX5 Hydrogen』は車体工場から塗装工場と組み立てに進み個々の車両の最終検査で終わる、という一般的な生産段階をすべて通過する。そして全ての車両はアシュハイムにあるテストセンターにおいて包括的な動作チェックを受けるという。

『iX5 Hydrogen』は二酸化炭素無排出な駆動システムのすべての利点に加えて、日常の使いやすさに優れ、さらに長距離走行能力をも兼ね備えている。BMWでは、水素燃料電池技術はバッテリー電気駆動システムを補完することができる、極めて魅力的な代替手段であると考えている。頻繁な給油ストップや長距離走行が必須であるドライバー、それに適切な充電インフラストラクチャが不足している地域のドライバーには、特に水素燃料電池搭載モデルがフィットする、とBMWは考えている。

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著者プロフィール

川島礼二郎 近影

川島礼二郎

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系…