新型ノア/ヴォクシーから投入された新世代ハイブリッドの詳細 ハイブリッドトランスアクスル&4WD用リヤトランスアクスル編

新型ノア/ヴォクシー 全面刷新! 第5世代に進化したTHS (トヨタ・ハイブリッドシステム)何がスゴイ?どこが新しい?

新型ノア/ヴォクシーのハイブリッドトランスアクスル
トヨタのシリーズ・パラレルハイブリッドシステム「THS」がまた進化した。新型ノア・ヴォクシーから投入されたハイブリッドシステムは、トヨタとして第5世代だという。どこがどのようにどのくらい進化したのか?

いよいよ第5世代へ 電動デバイス全面刷新の衝撃

新型ノア/ヴォクシーのパワートレーンは、2.0ℓ直4(M20A-FKS型)+CVTのコンベのパワートレーンと1.8ℓ直4(2ZR-FXE型)+THSⅡのハイブリッド・パワートレーンの2本立てである。

今回のハイライトは、ハイブリッドだ。なにしろ、すべての電動デバイスを全面的に刷新している。どこがどう進化したのか、開発者に訊いてみた。解説してくださったのは、杉山正隆さん(トヨタ自動車クルマ開発センターパワートレーン製品企画部主査)である。

「新型ノア/ヴォクシーにはコンベとHEV(ハイブリッド)がありますが、我々としては、なるべくHEVを選んでいただきたいと表います。ですから、コンベとHEVの価格差が大事になってきます」
と杉山さんは言う。

新型ノア/ヴォクシーのハイブリッドシステム全景(写真はFFモデル)

新型ノア/ヴォクシーにおけるコンベとHEVの価格差は約35万円だ。先代が約50万円だったからだいぶ差は縮まっている。35万円は、優遇税制、リセールバリュー、そして燃費でかなり取り戻せるはず、という。

ハイブリッドを新世代に進化させる上で考えたのは、なにか? まず整理しておくと
先代ノア・ヴォクシー/ヴォクシーのハイブリッドシステム=第3世代
現行プリウスのハイブリッドシステム=第4世代
新型ノア/ヴォクシーのハイブリッドシステム=第5世代

である。

杉山正隆さん(トヨタ自動車クルマ開発センターパワートレーン製品企画部主査)

「全体企画をするときに、今回の開発リソースをどう使おうかと考えます。エンジンは燃費的・熱効率的には充分トップレベルにあります。とはいえ、1.8ℓですから、エンジンがちょっと非力な部分は、こいつらでカバーしてあげて、走りの部分としっかり両立できるようにしようというところスタートしました。こいつら、とか言っちゃってますけど(笑)」
と杉山さんは笑う。「こいつら」と愛情を込めて話すときに杉山さんが見ているのは、並べられていた電動デバイス群である。ハイブリッドトランスアクスル、パワーコントロールユニット、バッテリー、4WD用リヤトランスアクスルだ。

新型ノア/ヴォクシーのハイブリッドのエンジンは、1.8ℓの2ZR-FXE型をキャリーオーバーしている。が、先代ノア/ヴォクシーが積んでいた2ZR-FXEから現行プリウスが積む同型エンジンは、かなり手が入っている。熱効率は40%で「熱効率的には充分」だと判断した。新型は現行プリウスと同じ2ZR-FXEへとアップデートしている。

開発陣が考えたのは、電動系デバイスを全面刷新することで、走りの性能も燃費も大きくジャンプアップさせたい、ということだ。

2ZR-FXE
エンジン形式:1.8ℓ直4DOHC
エンジン型式:2ZR-FXE
排気量:1797cc
ボア×ストローク:80.5mm×88.3mm
圧縮比:13.0
最高出力:98ps(72kW)/5200rpm
最大トルク:142Nm/3600rpm
燃料供給:PFI

出力UP、サイズDOWNのハイブリッドトランスアクスル

サイズダウン、出力アップを果たした新型のハイブリッドトランスアクスル

まずは、ハイブリッドトランスアクスルだ。
モーター出力は16%アップの95ps/185Nmになった。それでいて15%も軽量化している。
モーターはMG1(モータージェネレーター1)MG2ともに、電磁鋼板から見直した。

「今回、より鉄損を減らすように材料を変えています。モーターの内と外(ローターとステーター)で求められる性能が違っているのですが、ベース材料は一緒なんです。内側をプレスで打ち抜いて、内外別々に使っていますが、後の熱処理を変えることで異なる性能を両方追求しました」

モーター出力を上げたので、モーター単体では軽量化は難しい。しかし、ユニット全体としては、ギヤ設計を工夫することで15%の軽量化に成功した。

ユニットの体格としては、どうなのか?
「体積的には減っています。我々がトランスアクスルの体格を評価するときに見ているのは、エンジンの軸とタイヤの軸の軸間距離がどれだけ短縮できたのかです。これが先代に対して16mmくらい短縮できました。元々が200mmくらいですから8%ほどダウンサイズできたことになります」

赤い矢印の距離(エンジン軸とフロントアクスル軸間)が16mmほど短縮できた。
こちらは、プリウスのハイブリッドシステム。構成要素としては新型も同じだ。
新型(第5世代)のハイブリッドシステムの構成
新型は電磁鋼板の材質から見直した。
新型は1VM型の型式がつく。

杉山さんが熱を込めて説明したのが、「オイル」についてだった。
「新ユニットにはいろいろな技術が入っているのですが、ベーシックなこともやっています。オイルです」

これまでは、ハイブリッドトランスアクスルのオイルはATF(トーマチックトランスミッション用オイル)を使っていた。

「ATとハイブリッドトランスアクス、これはBEV(バッテリーEV)にも適用できるのですが、内部の構成要素が違います。ATの場合、変速機を持っているのでクラッチやトルコンだとかというところのオイルの性能を考えなければなりません。逆に言えばHEVとBEVはそういったものを持っていません。その代わり、オイルでモーターを冷やしてます。だから一度HEV、BEVに合わせてオイルの要求仕様を整理しましょう、となりました」

もちろん、これまでもATFとモーター冷却のオイルの要求特性が違うことはわかっていた。しかし、圧倒的にATFの数が多かったので、少数のHEVのために専用オイルを開発するところまで手が回っていなかったのだという、

「じつはATFとハイブリッドって全然違いますよね。じゃあATFで追求してきた性能が今回要らないのであれば、その分を低粘度の方に還元しましょうとなりました」
この新開発の電動車専用オイルは
「従来のATFに対して常温で半分、低温で3分の1くらいの粘度まで下げました。サラサラってことです」

○で囲んだ黒いパーツは、オイルを過不足なくギヤ部にも回すためのもの。
奥に見えるのがオイルポンプだ。

このオイルは、燃費にも効くという。後述するリヤアクスルモーターにももちろん、この電動車専用オイルが使われている。驚いたのは、オイルの開発もトヨタ社内で行なっているということだ。

「オイルの開発もトヨタ社内でやっています。BEV用のオイル、HEV用のオイルって何ですかっていう要求仕様をちゃんと出してあげないとできないじゃないですか。内製でやっているから開発できたっていうのは、確かにありますね」
となると、これまでのハイブリッドシステム(第4世代以前)にも、この電動車専用オイルが使えるのでは?と訊くと
「本当は、これを皮切りに前世代のユニットにも全部使いたいなというのはあります。しかし、逆にそうするとオイルがここまで特化した性能にできないという部分もあります。ですから、ここで一旦線を引いています。追っかけで評価して使えるようにしたいというのはありますが、現段階ではそこまで至ってません。いま、現行のATFと互換性があるかというと、ユニット側でがんばらなければいけない部分があるのです」

オイルの粘度を下げたことで、オイルシールやベアリングの潤滑が厳しくなる部分があるという。「逆に部品側から迎えにいかなければいけないところもあるのです」と杉山さんは言う。

ノア/ヴォクシーに初搭載 E-FOUR PMモーター採用

新開発したリヤトランスアクスル

もうひとつの見所はノア/ヴォクシーでは初搭載となるE-FOURである。新型はTNGAのGA-Cプラットフォームを使う。高床化したGA-Cである。

「GA-Cプラットフォーム用のE-FOURは、プリウスに使っているものがあります。じゃあ、ノア/ヴォクシーにE-FOURを投入しましょうとなったとき、プリウスのままでいいのか。全体を刷新して新世代にしているので、E-FOURも新世代にしようということで全面的に見直しました」

最大の変化点は、プリウスのE-FOUR用の誘導モーターからPM(永久磁石)モーターに変えたことだ。誘導モーターだと、高速時の電気的な引きずり抵抗がなくなる。PMモーターでは引きずり抵抗はなくせない。

「プリウスの場合は燃費優先ということで、PMモーターではなくて誘導モーターを使っています。出力は出ません。電圧も昇圧せずにバッテリーから直接取り出していました。新型はPMモーターに変えることで、出力で6倍、トルクで1.5倍にしています」

モーターの電圧はフロントモーターと同じ600Vまで昇圧して使う。

リヤモーターは
1WM型交流同期モーター
最高出力:41ps(30kW)
最大トルク:84Nm

である。

従来の3軸構成から2軸構成に改めた。

「たくさんのクルマに載せたいとなると、コンパクトである必要があります。SUVだったら多少楽なんですが、新型ノア/ヴォクシーも当然車高は上げられないので、やっぱり厚み方向も長さ方向もコンパクトに作らないといけません。それを実現するために、2軸にしました。BEV用のユニットは、モーター出力をタイヤ軸まで落とす場合、2回減速させるので3軸が多いのですが、新ユニットは2軸にしました。減速2回は変わりません。行って帰ってくるという構造を採ることで、軸を1本減らしています」

プリウスのE-FOURは、バッテリーから直接繋がっているが、新型はPCUで昇圧している。フロントモーターと同じ600Vまで昇圧したことでモーター出力は6倍の30kWまで上がっている。

「燃費優先のプリウスは、降雪地域の雪道での発進に特化したE-FOURでした。新型は30kWという立派な出力を持たせたので、少し使う範囲を拡げています。もともとプリウスの場合、MAXでもフロント4:リヤ6という前後駆動配分を新型ノア/ヴォクシーでは2:8まで拡げました。低μで滑る前からリヤの駆動トルクを入れてあげられれば、極力滑らないでより安心して運転ができます。でも、雪道だけじゃ面白くないよね、せっかく買っていただいたのだから夏でも楽しめるようにしたいので、ドライ路でも制御を入れています。旋回時に積極的にリヤでアシストして、ハンドリング性能にも寄与できるようにしています」


プリウスのE-FOURは発進に特化していたが、新型ノア/ヴォクシーのE-FOURは、150km/hまで使えるという。

「ひとつちゃんと説明しておかなければいけないのは、現行プリウスは燃費優先して誘導モーターを使っていて、新型ノア/ヴォクシーではPMモーターにした。それでは新型のE-FOURは、燃費悪いんですか?っていうと、そうではありません。電気的な引きずりはどうしても生じるのですが、それを機械的な引きずりを減らすことでカバーする発想にしました。フロントも一緒なんですが、今回オイルも電動車専用オイルを新開発しました」

ここで登場するのが、前述した「電動車専用オイル」である。

「新開発の電動車専用オイルを入れることで、燃費もプリウスの2WD/4WDの差よりもむしろノア・ヴォクシーの2WD/4WD差の方が小さい。4WDによる燃費の落ち幅も抑えています」という。

電動アクスルユニットに電力を供給するバッテリーとPCU(パワーコントロールユニット)も新型で全面刷新されている。こちらは、後編で。

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著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…