新型ノア/ヴォクシーから投入された新世代ハイブリッドの詳細 バッテリー&PCU編

新型ノア/ヴォクシー 全面刷新! 第5世代に進化したTHS バッテリーとPCUも大幅進化

新型ノア/ヴォクシーから投入された第5世代ハイブリッドシステムのPCU(パワーコントロールユニット)
第5世代に進化したトヨタのハイブリッドシステム。それを載せた第一弾が新型ノア/ヴォクシーである。ハイブリッドシステムのキモであるバッテリーとPCU(パワーコントロールユニット)はどう進化したのだろうか?

説明をしてくださったのは、前編に続いて杉山正隆さん(トヨタ自動車クルマ開発センターパワートレーン製品企画部主査)である。

前編はこちら

PCU 29%の損失低減! なぜ実現できたのか?

新型が搭載するPCUは、29%もの損失低減を実現している。

PCUで29%の損失低減ってものすごいですよね? これはなにが一番の要因ですか?と杉山さんに訊いてみた。

「PCUの目的はモーター制御や、バッテリー電圧をモーター電圧に合わせて昇圧することです。それをやっているのがパワー半導体で、これでスイッチングしています。IGBT(insulated-gate bipolar transistor)といいます。新型ではパワー半導体の素子がドンと新しくなりました。しかし、SiC(シリコンカーバイト)ではなくSi(シリコン)です。Siのままですが、IGBTとダイオードをセットにして使っているタイプ、RC-IGBT(RC=Reverse-Conducting:逆導通)といいますが、今までは別別だったものを、素子として完全に一体化させました。今回、コンパクトかつダイオードとトランジスタIGBTの機能に特化できるように一体化したものを新型で初投入しました。ここの効率向上が非常に大きいですね」

ECUも新しくした。そのおかげで、電動車特有の加速時の「キーン」という高周波ノイズが低減したという。

「心臓を動かすECUも新しくしました。ハイブリッド車でちょっとアクセルを踏んだときに、聞こえるキーンいうノイズ、あれがスイッチングをしている音なんです。とくにアクセルを踏んだ時の出るキーンという音はバッテリーの電圧を昇圧させるときのスイッチングのノイズなんです。これが先代ではちょっと目立った。ですから制御ECUを高速化して、さらに高周波にしました。人間が聞こえない領域にしたのです。今回、ECU自体もそれだけ速く制御できるマイコンを投入しました。高速化して電動車ならではノイズを低減しています。これまでが10kHzくらいなのに対して新型では15~20kHzくらいまで上げています。15kHzの段階でおそらくほとんどの人は聞こえないと思います」

新型の特徴は、リヤのE-FOUR用のアクスルモーター用のインバーターも搭載していることだ。リヤモーターを高出力化するために、フロントモーターと同じく600Vまで昇圧してリヤモーターに電力を供給している。

「心臓部(ECU)も変えたので、パワー半導体だとかリアクトルとかコンデンサとか構成要素は変わらないのですが、全体配置をガラガラポンで見直しました。見直した理由は、E-FOUR用のモーターのインバーターもこの中に搭載して、昇圧した電圧をこっち(リヤ)に使えると、リヤモーターをものすごく高出力化できるからです。だからフロントのPCUで全部統合制御しましょうということになりました。。従来は別だったのです」

2WDと4WD用ではPCUは別仕様になる。E-FOUR用では、リヤモーター用の半導体を入れる必要があるので、パワーカード(パワーモジュール)が3枚増える(写真は2WD用)。

高出力化・小型化したバッテリー

リチウムイオン電池 容量:4.08Ah

新型ノア/ヴォクシーのハイブリッドモデルが搭載するバッテリーは、先代がニッケル水素電池だったのに対してリチウムイオン電池となった。

電池は、2020年にトヨタとパナソニックで立ち上げたバッテリー会社、プライムプラネットエナジー&ソリューション(PPES)が手がけた。同社にとって設立後初めて開発した電池となる。

トヨタで現在もっとも新しいリチウムイオン電池は、ヤリス/ヤリスクロスが搭載しているタイプである。新型ノア/ヴォクシーのリチウムイオン電池は、それよりももう一段、小型している。

「小さくしていますが、出力・容量は変えていません。その分エネルギー密度が上がっています。加えて、今回アッシー構造も変えています。通常、電池をスタックで使うときは電池が膨張してくるので拘束させるためにロッドみたいで押さえておいて、その周りを鉄板でくるむというのが他社も含めてだいたいの電池の構造です。今回は、ケースをアルミのダイカストにしました。ケースの剛性を使って拘束する機能とケースとしての機能を統合しました。そうすることで拘束する構造と鉄板との間にあった隙間がなくなり、全体としてものすごくコンパクトになります。横幅で60mm、全長で60mm、体積比で30%減になりました」


バイポーラ型を採用しなかった理由

トヨタの電池といえば、アクアで初採用されたバイポーラ型がある。

新型ノア/ヴォクシーではなぜバイポーラ型を採用しなかったのだろうか? コストが高いから?

「結論を言うとそれですね。バイポーラの選択肢も当然考えたのですが、リチウムイオン電池を選んだ理由がいくつかあります。まず燃費のゲイン(取り分)がバイポーラには正直ないのです。逆に言うと、新しいリチウムイオン電池で取り切れてます。バイポーラ入れると燃費が上がるかというと、回生がこれ(リチウムイオン電池)で充分に取れています。質量が15kg以上、バイポーラより新型のリチウムイオン電池の方が軽いです。ノア/ヴォクシーはセダンやHBと比べると重いクルマなので、車両重量は下げたい。となるとこのリチウムイオン電池の方が優勢だったということです。出力はバイポーラの方が上です。先代のバッテリーのポテンシャルとバイポーラがあるとしたら、今回のリチウムイオン電池はその中間です。質量、頒価、動力性能のバランスを考えたときに、これがベストだと考えています」

「私はアクアも担当していまして、バイポーラとリチウムイオン電池、どっちがいい、どっちがベストかしっかり吟味して今回のノア・ヴォクシーはこちらにしました」

新型では、2WDも4WDも同じ電池を使う(現行プリウスは2WDがニッケル水素電池、4WDがリチウムイオン電池)。電池容量も変わらない。低温性能も問題ないという。

新型はセルそのものも新しい。サイズが135mmから120mmまで15mm小さいセルを使っている。

新型のバッテリーはケースがアルミダイキャストになり、薄さもこの通り。

「ものすごく小さくて、ものすごく薄いです」
この薄さを実現したひとつの要素はワイヤーハーネスを廃して、フレキシブル基板を使っているからだ。

「ワイヤーハーネスにすると折曲げのところも幅をとらないといけない。プリントだったら、ぎゅっと圧縮できる。重さは先代比でいうと18kg軽くなりました。バッテリーだけで18kg減です」

「電池設計が、これもアピールしろって(笑)」と杉山さんが言うのが、このフレキシブル基板だ。

こうしてみてくると、第5世代ハイブリッドシステムの進化幅の大きさに驚く。

当然、次期プリウスにもこの第5世代が搭載されるのだろう。杉山さんは「それはちょっと言えないですけどね(笑)」と話していたけれど……。

杉山さんは最後に
「ハイブリッドシステムで見ると、第4世代から第5世代の進化です。ただ、ノア/ヴォクシーのお客さまの目線でいうと第3世代から第5世代なんです。ですから、ジャンプアップ量はすごいんですよ。社内だと、”お前、3を基点にしたら卑怯だろ!”って言われるんです……。そのクセがどうしても抜けなく(笑)」
と笑うが、第3世代からにしても、第4世代からしても、最新第5世代の進化幅は、驚異的に大きいことはよくわかった。

著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…