プリウスに代表されるストロング・ハイブリッドは、長らく日本メーカーの独擅場だった。欧米の自動車メーカーがそこに追随しなかった理由は、技術的な問題、特許の問題も無論大きかったが、ハイブリッド化のためのコスト増を燃費向上で相殺できないから、という理由もあった。つまり、合理主義の欧米のユーザーは、エコロジーよりエコノミーを優先すると考えたからだ。
EV走行が可能なストロング・ハイブリッドには、高価で、しかも大容量の2次バッテリーと出力の大きなモーターが必要で、結果として燃費改善効果も大きいがコストも嵩む。これに対するマイクロ・ハイブリッドは、オルタネーター回生で減速エネルギーを回収し、それをアイドルストップや再始動に使うという「効果少々・コスト少々」というものだ。
日産がセレナに搭載するS-HYBRID(シンプルスマート・ハイブリッド)は、まさにマイクロ・ハイブリッドである。ただし、マイクロ・ハイブリッドを名乗る多くのモデルと決定的に違う点がある。S-HYBRIDは、駆動力アシストにもモーターを使うのだ。だから、正真正銘のハイブリッド。車検証上にも原動機の欄にエンジンとモーター(SM23)が記載される。
S-HYBRIDのキモになるのは、オルタネーターとモーターの機能を持つECOモーターだ。ECOモーターそのものは、従来型でもアイドルストップのために搭載していた。S-HYBRIDでは、ECOモーターの能力を上げ回生による発電量もモーターとしての出力も高め、駆動力アシストにも使えるようにした。発電量を増やした受け皿として、12V鉛バッテリーをひとつ追加し、従来以上にアイドルストップする機会も時間も増やすことで燃費を改善させている。
とはいえ、その燃費改善効果は大きくはない。セレナでいえば、従来型の14.2km/ℓ(JC08)がS-HYBRIDになると15.2km/ℓと7%ほど。ただし、コストアップもわずか。ユーザーは、コストメリットを長距離を走らずとも受けられる。また、スペースユーティリティの高さがセールスポイントのミニバンで、システムがエンジンルーム内で完結するのも大きなメリットだ。
さて、気になる駆動力アシストだが、モーター出力はわずか1.8kW。モーターがエンジンをアシストする場面は限られる。モーターアシストというと発進時に期待が大きいものの、セレナの走り出しは、CVTのトルコンが滑っている。そこでモーターによる駆動力アシストを加えてもモータートルクがその滑りのなかに消えてしまって意味がない。そこでS-HYBRIDでは、発進加速時20km/hくらいでトルコンがロックアップしたところで作動。作動時間は2秒程度だという。おそらくドライバーが気づかない程度の「アシスト」だろう。