【海外技術情報】シトロエン:手頃な価格、軽量、簡素で多用途で使えるBEVコンセプトカー『Oli』を展示

シトロエンは2023年2月にパリで開催された『レトロモービルショー2023』において、1956年に発表したコンセプトモデル『C10』とともに、2022年9月に世界初公開した『Oli [all-ë]』コンセプトカーを展示した。
TEXT:川島礼二郎(Reijiro KAWASHIMA)

シトロエンは『Ami』で一定の成功を収めている

シトロエンのBEVといえば、小さな自動車に興味がある方ならば、2020年に発売を開始したマイクロカー『Ami』を思い浮かべるはず。シトロエンによると『Ami』は2022年末までに9ヵ国で3万台以上が販売されており、一定の成功を収めている。

『Ami』はBEVであり、わずか 4 時間で充電できる5.5kWhのバッテリーを搭載。航続距離は46マイル(73.6km)、最高速度は44.8km/h。都市部の移動に特化することで量産化を実現した。実用性と独自性を重んじるシトロエンらしい自動車と言えよう。昨年12月には『My Ami Buggy』の2023年春発売を発表。この勢いは暫く続きそうだ。

『Oli』で電動ファミリーモビリティに対する取り組みを示す

2022年9月に世界初公開されたシトロエンのBEVコンセプト『Oli』は、市販化・量産化を実現した『Ami』とは異なる。電動のファミリーモビリティに対するシトロエンの取り組みを示すためのコンセプトカーだ。

持続可能性を念頭に置いて設計されたBEVであり、40kWhのバッテリーを搭載。航続距離は最大248マイル(約400km)。新素材を使用することで、重量、コスト、それに環境フットプリントを削減する、とされる。

シトロエンのCEOを務めるVヴァンサン・コベ氏は以下のように説明した。

「1970年代半ばの典型的なファミリーカーは重量が約800 kg、長さ3.7m、幅1.6mでした。ところが今日の同等のファミリーカーは少なくとも重量1,200kg以上、長さ4.3m、幅1.8 m。重量が2,500kgを超えるものさえあります。このサイズの車両が主流のままでは、持続可能で電化されたモビリティの未来は見えて来ません。

シトロエンは環境に配慮することで移動を制限したり、車の価値を低下させるべきではないと考えます。より軽く、より安価なBEVを開発することで自動車の大型化トレンドを逆転させて使用を最大化する。その独創的な解決策を探しています」

『Ami』は小さな一歩であったが、『Oli』は飛躍の兆しを見せている。『Oli』はスクリーンやガジェットで満たされた重量2,500kgの「車上の宮殿」ではない。より簡素な装備で、より多くのことを達成する。新材料の使用と持続可能な生産プロセスにより、安価でありながら望ましいゼロエミッション車を実現する道筋を示しており、複数のライフスタイルに対応する。

車両重量の軽量化により『Oli』は40kWhバッテリーで航続距離を約400kmを達成する。また効率を最大化するために最高速度は108.8km/hに制限したが、急速充電機能により20%から80%までわずか 23分で充電できる。

残念ながら重量は明記されていないが、サイズは長さ4.2m、高さ1.65m、幅1.90mと、コンパクトである。

軽量化に寄与する新素材は、ボンネット、ルーフ、リアのピックアップベッドパネルに使用されている。独特なシルエットを実現するだけでなく、軽量、高強度、耐久性という目標を達成するために選択された。これらパネルはガラス繊維強化パネルと再生段ボールにより形成されたハニカムサンドイッチ構造を成している。パートナーであるBASFと共同で制作された。それらは Elastoflexポリウレタン樹脂でコーティングされており、丈夫で質感のある Elastocoatの保護層で覆われている。このパネルは非常に高剛性だが軽量であり、大人がその上に立つことができる。同等の鋼製構造と比較して重量を50%削減できるという。

「Vehicle to Grid」(V2G)機能を持たせることで、『Oli』は家庭用ソーラーパネルから余剰エネルギーを蓄え、これをエネルギー供給業者に売却することで、車両オーナーに利益をもたらす可能性がある。

また「Vehicle to Load」(V2L)機能により、夏のビーチへの旅行や週末のキャンプなどでは、車両は電力を供給できる。40kWhバッテリーと3.6kW電源ソケット出力(230v 16amp の家庭用ソケットに相当)を考慮すれば、理論的には3,000Wの電気機器に約12時間電力を供給できる。

『Oli』は『C10』からインスピレーションを得た?

冒頭で記したように、この『Oli』が2023年2月にパリで開催された『レトロモービルショー2023』に展示された。そしてシトロエンが発表したリリースでは、「1956年に発表した『C10』コンセプトカーから着想を得た」と記している。

『C10』は1956年に発表された。極めて軽量、経済的かつ技術的にも最先端、そして大胆でコンパクトなアーキテクチャが特徴であった。航空機技術から着想を得たデザインを与えられており、その形状から『水滴』という親しみやすいニックネームが与えられている。

『Oli』が『C10』から着想を得たわけではないことは明白ではあるが、シトロエンは実利を取るのが上手なメーカーである。簡素でありながら高効率で実用的なBEVの開発を今後も見守りたい。

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著者プロフィール

川島礼二郎 近影

川島礼二郎

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、青年海外協力隊員としてケニアに赴任。帰国後、二輪車専門誌、機械系…