2世代目アクアに採用された新技術として注目度が高いのは、バイポーラ型ニッケル水素電池。確かにこれには驚かされたが、もうひとつ僕の目を引いたのが、安全装備類の進化内容だ。改良された項目の中に、現実に起こった事故を参考にしていると見られるものが多いのである(すべて推測だが)。
ひとつ目は、プリクラッシュブレーキの作動範囲拡大。新型アクア以前のシステムは、プリクラッシュブレーキ作動中でも、ドライバーがアクセルを全開にすると「回避に必要な操作を行った」と判断し、制御を解除するようにしていた。それが新型では、センサーが歩行者や自転車を検出していると、アクセルを全開にしても、車速約10〜80km/hの範囲なら、ブレーキ制御を継続するようになった。
これは恐らく、池袋の暴走事故を参考にしたものだ。件の事故の際に乗られていた30型プリウスには、プリクラッシュブレーキは搭載されていなかったが、状況証拠(ドライバーはアクセルを全開にしていた)から考えると、新型アクア以前のプリクラッシュブレーキが搭載されていても事故は防げなかったと考えられるが、新型アクアのシステムなら、避けられた可能性が出てくる。
池袋の事故では、亡くなった母子に衝突した際の速度は約96km/hと推定されているため、回避できたかどうかは、どの程度手前でセンサーが対象物を把握できたかに左右されるため断定はできないが、今後、同様の事態が生じた場合、安全性は確実に高まったと言える。
ふたつ目は、マルチインフォメーションディスプレイに、ストップランプの点灯状態を表示するようにしたこと。これはアダプティブクルーズコントロール使用中に車間維持機能が作動して減速した際、自車のストップランプが点いているかどうかをドライバーに知らせるのが主な目的だが、通常走行時でも、ストップランプと連動して点灯するようになっている。
この話を聞いて思いだしたのが、池袋暴走事故被告の「視線を落としてアクセルペダルを見ました」という証言。この装置があれば、そんなことをする必要はなくなるし、そうした言い訳は通らなくなる。
三つ目は、セカンダリーコリジョンブレーキの制御変更。これは、エアバッグのGセンサーが衝突を検知した際、自動的にブレーキを作動させ、対向車線や路肩に飛び出して二次衝突(セカンダリーコリジョン)することを抑制するものだ。従来はこの機能が作動しても、ドライバーがアクセルペダルを踏み込んだ場合、「意図的な回避操作」と判断してドライバーの操作を優先させるようになっていたが、新型ヤリスからは、その際にも加速を抑制するよう制御を変更している。
これは大津市の園児死傷事故を参考にしたのではないかと、僕は考えている。この事故は右折車と直進車が交差点内で接触し、直進車が歩道に飛び出し、横断待ちをしていた保育園児に衝突して16名が死傷したものだが、信頼できる筋からの情報によると、直進車のドライバーは衝突後にアクセルを踏んでいた。衝突に驚いて、ブレーキを踏むつもりでアクセルを踏んでしまったのだろう。
しかし、新型アクアの制御が搭載されていれば、セカンダリーコリジョンブレーキの作動によって、事故は回避できたか、被害の軽減ができた可能性は間違いなく出てくる。
これらはいずれ、他車型にも展開されるはずで、エンジニアはこのように、自分の作った製品で不幸になる人が出てこないよう、日々努力を積み重ねている。それを使用する僕たちも、装置に頼って気を緩めるのではなく、なるべく装置を作動させないよう、安全運転に努めたいものだ。