今回開発された電動水素ターボブロア(図1)は、燃料電池発電時に未反応のまま排出される水蒸気を含む大量の水素(水素供給側の排出ガス)を回収し、燃料極(負極、アノード)に再循環する装置である。本開発には、航空機燃料電池向けとして大量の水素ガスを回収するために、独自開発のガス軸受を用いた超高速モーター(図2)が採用されている。これにより、再循環装置の大容量(高効率)化かつ小型化、軽量化が実現された。ガス軸受は、潤滑油を使用しないため、潤滑油で水素を汚染することはない。本件は、IHIが、秋田大学および秋田県の航空機機体製造装置メーカーである三栄機械と連携して取り組み、実現されたものである。
さらに、本装置は水素雰囲気中で使用するための密閉構造化や、大容量化に必要なモーター排熱性能の向上(熱によるダメージを低減)を行なっている。航空機燃料電池として必要となる電力出力400kWを超える大型の燃料電池の水素再循環は、従来の小容積型ブロアでは複数台並列で運転せざるを得なかったが、本装置であれば1台で実現することができるようになる。
完成した試作品について、そうまIHIグリーンエネルギーセンター※2および秋田大学の電動化システム共同研究センター※3にて特性評価が行なわれた。その結果、燃料電池燃料極排気ガスの水素ガス環境や、水蒸気を含んだ高湿潤環境で、これまで難しいとされていた必要性能が得られることが確認された。この成果は、航空機にとどまらず、今後、大出力化が期待される燃料電池モビリティにおいて、船舶や大型トラックなどの開発にも貢献する。
【注釈】
※1 ガス軸受
回転軸が高速回転するときに、自ら周囲のガスを引き込んでガス膜を形成し回転体を自立浮上させる動圧式の軸受。回転軸が非接触であることから、軸受けの高耐久化を可能とする。
※2 そうまIHIグリーンエネルギーセンター(SIGC、所在地:福島県相馬市)
持続性のある地産地消型スマートコミュニティ事業により「水素を活用したCO₂フリーの循環型地域社会創り」を実践。2020年に開所した「そうまラボ」では、水素利用の先進技術開発拠点として、太陽光発電電力(出力1、600kW)の余剰電力で製造した水素を使用し、将来の水素社会を見据えた水素利用・エネルギーキャリア転換技術研究・実証試験等、水素を用いた試験拠点としての役割も担う。
※3 電動化システム共同研究センター
秋田大学が内閣府「地方大学・地域産業創生交付金」の交付事業を受け、秋田県立大学(学長:福田裕穂氏)と共同で運営する電動化システム共同研究センターを2021年4月に設置。