
従来の車両開発プロセスでは、デザイン工程において、ルーフの意匠に関する基本形状を決定した後に、設計工程でのCADの製作とシミュレーションモデルによる性能評価へと移行するが、設計工程で確認したルーフの性能評価を、デザイン工程の基本形状に反映させることによる手戻りの発生が課題となっている。近年、自動車の燃費向上やCO2排出削減、快適で広い車内空間設計のために、車体軽量化を目的とした鋼板の薄肉化や、ルーフパネルのフラット化のニーズが高まる一方で、これらはルーフパネルの振動が引き起こす、こもり音※1や雨音などの騒音発生の一因にもなるため、ルーフパネルや周辺部品の形状および板厚によって決まるルーフの固有振動数を事前に予測することが開発期間短縮の観点で求められていた。

今回のスズキとの共同検討では、JFEスチール独自の多変量統計解析手法である「JFE固有振動数の予測手法」を活用し、こもり音が問題となる低周波数帯域でのルーフ固有振動数を予測する実験式が構築された。車体全体からルーフ振動に対する影響度の高い部位を抽出し、さらにデザイン工程で重要な基本面形状に関する少ない設計変数だけで結果が得られるように改良したことで、ルーフ固有振動数の予測精度は高いまま、車両設計シミュレーションモデルが無い開発初期段階において、静粛性を考慮しながら意匠面をデザインすることが可能になった。
今回の共同検討は、「新型スペーシア」の車両開発に織り込まれ、デザイン工程と設計工程の手戻り工期の削減に貢献した。今後スズキより発売される他の新機種への展開も予定されており、これまで以上に車両開発に寄与できる見込みとされている。