NEDO:世界最速硬化時間や常温保管を実現した炭素繊維強化プリプレグシートを開発

NEDOが進める「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/実用化開発フェーズ」の一環で、DICとセーレン、福井県工業技術センターは、自動車向け炭素繊維複合材料に用いる高速硬化プリプレグの実用化開発に取り組んでおり、このたび世界最速レベルの硬化時間や常温保管を実現した「速硬化炭素繊維強化プリプレグシート」を開発した。

 2018年7月に閣議決定された第5次エネルギー基本計画では、中長期のエネルギー需給構造を視野に入れたエネルギー政策の基本的な方針が取りまとめられ、徹底した省エネルギー社会とスマートで柔軟な消費活動実現のため、民生・運輸・産業各部門における省エネルギーの取り組みの加速などが掲げられた。中でも運輸部門の省エネルギー技術での要求レベルは高く、自動車メーカー各社は昨今、燃費向上を目的とした自動車の軽量化に注力している。こうした背景から、軽量かつ強じんな炭素繊維複合材料(CFRP)の自動車車体への活用は増加傾向にある。一方で、CFRPは、既存の金属材料と比較し、高い材料費と成形速度の遅さによるコスト増といった課題を抱えている。

 これらの課題を解決し、本開発品の自動車分野での採用および量産化を実現すべく、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が取り組む「戦略的省エネルギー技術革新プログラム/実用化開発フェーズ」の技術開発テーマの一つとして、「自動車搭載炭素繊維複合材料用高速硬化プリプレグの実用化開発」を2018年度7月より3年間実施した。今般、このテーマの実施者であるDICとセーレン、福井県工業技術センターは、世界最速レベルの硬化時間と常温保管を可能にする「速硬化炭素繊維強化プリプレグシート」を開発し、量産プロセスを構築、セーレンにて稼働させた実証機を用いたシートサンプルの提供を2021年7月から開始する。

 炭素繊維強化プリプレグシートは、炭素繊維の束を広げて樹脂を含浸させたシート状の中間材料。軽量で強度が高いことから、低燃費・軽量化のニーズが高まる自動車向けに加え、航空機や宇宙船用途など今後ますます需要が拡大すると見込まれている。一方、一般的にプリプレグシートを含めたCFRPは成形加工に時間を要し、生産コストの高さが普及の妨げになっているため、成形時間を短縮する技術が求められてきた。

 開発したシートは、最短30秒という世界最速レベルの硬化時間を実現することでコストダウンが図れるとともに、一般的なエポキシ系のプリプレグシートが冷凍・冷蔵倉庫などでの保管が必要なのに対して、常温保管が可能で、シート保管の設備および管理の負担も軽減できる。

シート加工実証機

今回の成果

【炭素繊維複合材料用高速硬化プリプレグシートの開発】
 特徴:軽量・高剛性・高強度・異方性・導電性・電磁波遮蔽・振動減衰性

  1. プリプレグシート製造工程の省エネルギー化技術を開発
    プリプレグシート製造工程の高速化(従来比3倍の製造速度と工程数の削減)を達成した。量産時に製造工程で省エネルギー化を実現することができる。
  2. 炭素繊維複合材料の成形工程の省エネルギー化を実現
    プリプレグシートの保管条件を緩和(常温保管)できるとともにハイサイクル成形(エポキシ品比1/3~1/6の成形時間)を達成でき、部品製造工程での省エネルギー化に貢献する。
  3. 推奨成形条件の設定
    多様なニーズに応えるために、金型プレス成形やダブルベルトプレス成形、シートワインディング成形の推奨成形条件を設定した。
    ※ それぞれ、ヒーター内蔵の金型で加熱加圧する成形、コンベヤーで上下より挟みながら連続して加熱加圧する成形、ロールに巻き付け筒状に成形して加熱する方法

各実施者の役割

  • DIC(株):
    高分子設計テクノロジーを生かした「高速硬化樹脂(最短30秒以下で硬化するラジカル硬化樹脂)」の設計
  • セーレン(株):
    樹脂成膜・塗工技術を生かした「高精度含浸技術」の開発
  • 福井県工業技術センター:
    繊維束を高速に薄く広げる「空気開繊技術」の開発

 本開発終了後、製品化を目指す取り組みとして、実施三者は、本開発CFRPの特徴を生かしたプリプレグシートの提案と顧客獲得に向けたサンプル提供を継続するとともに、本助成事業で導入した実証設備を用いた量産化の検討を推進する。これにより自動車分野をはじめ、幅広い産業でのCFRPの普及を促進し、軽量化による低燃費化や省エネルギー化に貢献していく。

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