レアアースを含むレアメタルはハイテク産業に必要不可欠な金属として知られ、日本はその資源のほぼ全てを輸入に頼っている。しかし、そうしたレアメタルには供給が不安定なものがあり、比較的価格変動も大きいことから、ひとたび供給不安が顕在化すれば日本経済に大きな影響を及ぼしかねない。また、一部のレアメタルでは、カントリーリスクの高い国にその資源が偏在していることや、精錬事業が特定国に集中していることなどが懸念されている。こうした背景から、最近では国内レアアース精錬事業に対する支援強化の方針が打ち出されるなど、日本政府も供給不安の大きいレアメタルの安定供給確保に向けた動きを活発化している。
EFTは、日本原子力研究開発機構が開発した溶媒抽出技術「エマルションフロー」を活用した事業を展開するベンチャー企業で2021年4月5日に設立、同年6月3日に原子力機構発ベンチャー企業として認定された。エマルションフローは、従来の溶媒抽出技術と比較して、低コストで高効率に高純度な元素分離を可能にする革新的な技術であり、レアメタルを取り巻く社会課題の解決に寄与できると期待されている。特に、EFTのレアメタルリサイクル事業では、エマルションフローを活用することで廃リチウムイオン電池や廃ネオジム磁石といった「都市鉱山」に含まれるレアメタルを低コストで高純度に回収する技術を確立し、回収したレアメタルをハイテク産業に直接再利用する「水平リサイクル」の実現を目指している。
近年、カーボンニュートラル社会の実現がグローバルな政策課題とされており、その一環としてガソリン車から電気自動車へのシフトが急速に進められる中、電気自動車等に利用される高性能モーターに使われるレアアースの確保が非常に重要となっている。本共同研究では、資源の安定供給確保をミッションとするJOGMECとともに、今後ますます需要の増加が見込まれるレアアースのうち、特に中重希土類元素を対象として、従来のミキサーセトラーを使った溶媒抽出に比べて環境負荷が小さく、シンプルかつコンパクトなシステムで溶媒抽出を行うことが可能とされるエマルションフローによる相互分離を実証する。
本技術の実証によって、国内レアアース精錬事業の展開につながり、リサイクルを含めたレアアースのサプライチェーンの構築に貢献することが期待される。
エマルションフロー技術説明溶媒抽出とは、物質の分離・精製手法の一つであり、互いに交じり合わない液相間における物質の分配を利用することで、目的成分のみを選択的に抽出するための技術。例えば、抽出剤を含む油相と金属イオンを含む水相を混ぜ合せることで、油相と水相の界面において、抽出剤が金属イオンと結合する。その後、重力による油相と水相の分離を待てば、油相側に金属イオンを抽出することができる。
従来の溶媒抽出技術では、液相どうしを「混ぜる」「置く」「分離する」の3工程を必要とするが、エマルションフローは「送液」のみで、これら3つの工程をすべて同時に行うことが可能な革新的技術。そのため、エマルションフローは従来技術の10倍以上の生産能力を可能とし、ゆえに従来比1/10以下のダウンサイズに加え、ランニングコストの80%削減を実現できる。また、密閉構造のために無臭で快適な作業環境を実現するとともに、IoT管理による自動化も容易なために、人件費の削減にもつながる。
さらに、エマルションフローの有する高い油水分離能力は、水相の廃水処理における環境負荷の低減を可能にする。そして最近では、このエマルションフローを進化させ、従来比100倍の生産能力と99.99%以上の高純度化、また、レアアース元素同士のように分離が難しい元素間の相互分離を可能にする「多段エマルションフロー」の開発にも成功している。この多段エマルションフローは、低コストで高効率にレアメタルの高純度精製が可能な唯一の方法であり、EFTの事業のコア技術となる。