48Vシステムの開発は、数年前から欧州の自動車メーカー、サプライヤーを中心に進められてきた。従来の12V系の電源システムを残しながら48Vシステムも構築し、増大する一方の車内電力システムを賄おうというのが趣旨である。48V化することで、これまでできなかったことが可能になる。たとえば、スタータージェネレーターを使ったマイルドハイブリッドシステムの構築は48Vならより効果的でより容易にできる。しかも、高電圧のストロングハイブリッドより低コストだ。従来の4倍の電圧だからISG(インテグレーテッド・スタータージェネレーター)やiBSG(ベルト駆動のスタータージェネレーター)で十分なブースト/回生が可能だ。同じことを12Vで行なう日産のSハイブリッド(セレナ)では、1.9kW/48Nmのブーストしかできない。
一方、48Vに対応するメルセデス・ベンツが発表した新しいモジュラーエンジンのガソリンの4気筒/6気筒エンジンはISG(6気筒)、iBSG(4気筒)を使って効果的にブースト/回生を行なう。6 気筒版では15kW/220Nmでブーストするというから、12Vより燃費改善効果も高いだろう。48Vシステムなら、ISGやiBSGを使うことでエンジンが効率的に運転できない際にエンジンを止めることができる。コースティングやセーリング(巡航中にアクセルをオフにするとエンジンOFF でコースティングする)も容易になる。
90年代にも高電圧化(42V化)の動きはあったが、12V系を廃して42V化しようとしたことと、それによって得られるメリットが明確でなかったことで頓挫してしまった。しかし、今回の48V化の流れは欧州勢を中心に力強いものがある。今回は12V/48Vのデュアルボルテージ・アーキテクチャーであること、48V化で得られるメリット=CO2削減がコストに見合うことがその理由である。トヨタのストロングハイブリッド(THS)が標準となっている日本ではそれが当たり前になっているが、高度な制御技術と特許が必要なストロングハイブリッドは、やはり高価でおいそれとは手が出せない。48Vなら高価な大容量リチウムイオン電池も必要ない。となれば、簡易で低コストでそれなりにCO2削減効果が見込める48V化は欧州では自然な流れになる。
将来的には、A~Cセグメントのクルマへの搭載が期待される48Vを使ったマイルドハイブリッドシステムだが、初期はやはりプレミアムモデルでの採用がスタートとなる。まずは、アウディ。4.0ℓV8ディーゼルは48V対応の市販車第一号となったが、このエンジンはふたつのターボに加えて電動スーパーチャージャー(アウディはEPC=Electric Powered Compressorと呼ぶ)まで装備するモンスターエンジンだ。もうひとつが、先に挙げたメルセデスの新直6ガソリンだ。こちらもターボ過給に電動スーパーチャージャー(メルセデス・ベンツはeZVと呼ぶ)を組み合わせる。どちらも、電動スーパーチャージャーによるターボラグの解消が目的だ。
48Vシステムを導入したのがプレミアムメーカーの上級車なのは興味深い。48Vシステムのメリットを燃費よりもパフォーマンスに生かそうというのが、両社の目論見だろう。ちなみにアウディの電動スーパーチャージャーのサプライヤーは仏・ヴァレオ。同社によれば、現在、世界中の自動車メーカーと50を超えるプロジェクトが進行中だという。
どんな技術も最初はコストを車両価格に転嫁できるプレミアムクラスから採用が始まる。48VシステムもコストがこなれてA~Cセグメントの量販車種に一気に拡がるかもしれない。気がつけば、高電圧ストロングハイブリッドが主流なのは日本だけ、なんていうこと起きるかもしれない。