同事業では、貯水蓄熱を効率良く利用することで長さを2分の1にした「ライニング地中熱交換器」と、エアコンの出力に合わせた循環水量の調整によって、必要な地中熱のみの利用と採熱効率の向上を可能にした「熱収支制御ユニット」を開発した。2020年度までの本事業で行った実証試験を基に試算した結果、本システムが従来の空冷式エアコンに比べ年間の消費電力量を約50%削減できる見込みであることを確認している。
地中熱を利用した水冷式エアコンは、空冷式エアコンや灯油ボイラーなど従来の空調設備と比べ省エネルギー効果やCO2削減効果に優れている。しかし、地中熱交換器の設置コストが高い日本国内では、必要な初期投資が大きく普及が進んでいなかった。また、地中から熱を取り出すために設置する地中熱交換器は、地下に直径160mm、深さ100m程度のボーリングを行い、孔内に直径30mm程度のU字形採放熱チューブを挿入した上で隙間を熱伝導率の高いけい砂※1で埋め戻すのが一般的だが、高い設置コスト(主に掘削コスト)に対し少ない採熱面積しか確保できないことが課題となっている。
このような背景の下、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が推進する「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業※2(旧:ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業)」において、ベルテクス、エコ・プランナー、福井大学は2016年度~2020年度の間、事業所や公共施設向けに新たな地中熱冷暖房システムの開発に取り組み、実証試験を行った。2020年度のNEDO事業終了後も開発は継続され、今般、前記の2社は「ライニング地中熱冷暖房システム」の製品化に成功した。
本システムは、本事業で開発したライニング※3地中熱交換器と熱収支制御ユニットを、従来の水冷式エアコンと組み合わせて構成される。季節に関係なく一定の温度を保つ地中熱を利用することで、外気熱を使う従来の空冷式エアコンに比べ年間の消費電力量を約50%削減することができる見込み。
NEDO事業の成果
【1】蓄熱効果と採熱効率の向上が同時に可能となるライニング地中熱交換器の開発
2社はボーリング孔の掘削など高い設置コストに対する採熱面積の小ささを解決するために、ライニング材の利用に着目。この工法では地中にボーリングした縦孔の中に先端を導水管に接続した袋状の樹脂製ライニング材を挿入し、注水圧によりボーリング孔の周面形状に密着させた状態で地中温度により硬化させる。これにより、貯水による蓄熱効果と密着による採熱効率の向上が同時に可能となる「ライニング地中熱交換器」を開発した。
この地中熱交換器は後述する熱収支制御※4によって貯水蓄熱を有効に利用することで採熱効率が向上することから、従来の2分の1の長さながら従来工法と同程度の熱量を確保することができる。このため、掘削費用も従来比約50%削減することが可能。
【2】地中熱交換器の熱交換効率を向上させる熱収支制御ユニットの開発
従来の地中熱を利用した水冷式エアコンでは、室内温度が設定温度に近づくと出力を徐々に落とす制御を行う一方、熱源側の循環水量は変わらないため、地中熱交換器により採取した熱量を効率的に使用することができなかった。そこで本事業では、エアコンの出力に合わせて熱源の循環水量を調整し必要な地中熱のみを採熱・利用する熱収支制御を行うことで、地中熱交換器の熱交換効率が従来比3割以上向上※5し、貯水蓄熱を最大限に活用できる「熱収支制御ユニット」を開発した。さらに、開発した技術を組み込んだ「ライニング地中熱冷暖房システム」を兵庫県加東市の事業所で実装し消費電力量を比較した結果、従来の空冷式エアコンに比べ年間の消費電力量を約50%削減できる見込みであることを確認した。
NEDOは、今後も同事業で中小企業などの保有する再生可能エネルギー分野の技術シーズを基にした研究開発を支援するとともに、再生可能エネルギーの主力電源化の達成に資する技術の早期実用化に向け、実証事業を支援する。また、新事業の創出と拡大などを目指した事業化・ビジネス化を支援する。また2社は本事業で得た知見を基に、地中熱交換器の設置コストや省エネ性能をより一層向上するために本システムを発展させ、あらかじめ熱収支制御ユニットを搭載した水冷式エアコンの開発を目指す。
※1 けい砂けい酸塩類を主成分とする砂質の堆積物や風化生成物のうち、とくに石英粒を多量に含むもので、白色粗粒の砂。
※2 新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業エネルギー基本計画や新成長戦略などに示されている再生可能エネルギー分野の重要性に着目し、研究開発の助成を通じて中小企業などの育成を行いつつ、将来を見据えた同分野における研究開発を進めることにより、技術の選択肢の多様化と技術革新を目指す(事業期間:2007年度~)。今回3者は、基盤研究を行うためのフェーズB(委託事業)、実用化研究開発を行うためのフェーズC(助成事業)、大規模実証研究開発を行うためのフェーズD(助成事業)を実施してきた。
事業概要ページ:「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業(旧:ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業)」
※3 ライニング物体の表面または内面に、目的に適した他の材料(ここでは樹脂)で被覆すること。
※4 熱収支制御ある系統内部での必要熱量に合わせて供給熱量を抑制する。
※5 3割以上向上実証実験の結果を基にシミュレーションを行った結果33%向上した。