「世界の頂点を目指して解き放たれた2つの個性」永遠のライバル『ランエボVSインプレッサ』という構図

切られた激闘の火蓋。

常用回転域からの加速性能と快適性を求めたストリート仕様

2.0Lターボエンジン搭載のフルタイム4WDというパッケージングこそ共通だが、走りやキャラクターは対照的。しかも、真っ向からぶつかるライバル関係が20数年にも渡って続くケースは稀で、世界を見渡してもランエボとインプレッサ以外の例が思い浮かばない。

まずランエボから見ていくと、パワートレインは横置き搭載される4G63ターボに、ビスカスカップリング式センターデフを持つフルタイム4WD。車両型式はベースとなったランサーのモデルチェンジに伴い、CD9A(初代ランエボ/1992~1993年)→CE9A(II~III/1994~1995年)と変わり、250psだった最高出力は270psまで向上した。

大きなターニングポイントになったのはCN9A(IV/1996~1997年)。エンジンとミッションの搭載位置が逆転し、最高出力が280psに到達。GSRグレードのリヤデフにはコーナリング限界性能を飛躍的に高めるAYC(詳細は56ページで解説)が初めて標準装備された。

CN9Aまでは5ナンバーだったが、トレッド拡大=コーナリング性能向上を目的にCP9A(V~トミ・マキネンエディション/1998~2000年)で3ナンバー化。それまで代を経るごとにエンジンパーツやタービンの仕様変更が行なわれてきたが、ワイドボディとなったV以降は足回りのジオメトリーも細かく見直されることになった。

一方、EJ20搭載のインプレッサWRXは1992年からGDBに代わる2000年まで車両型式はGC8。年次改良モデルはアプライドA~Gと呼ばれた。

そんなWRXをベースに各部の高性能化を図ったのがSTiバージョン。初代は受注生産車として1994年に登場し、遅れて競技ベースグレードのタイプRA STiバージョンも追加。最高出力が250psから275psに高められ、ダイヤル操作でセンターデフのロック率を変えられるDCCD(詳細は57ページで解説)も装備された。

続くSTiバージョンIIは1995年に発売。受注生産車からカタログモデルに昇格し、最高出力も250psから275psに引き上げられた。その後、280psに達したSTiバージョンIII(1996年)、WRカー規定に合致した2ドアクーペのタイプR STiバージョン(1997年)、リヤブレーキに対向2ポットキャリパーを採用したSTiバージョンIV(1997年)と改良が加えられ、最終的にはSTiバージョンVI(1999年)まで進化。また、専用エンジン&ボディを持った400台限定モデル、22B STiバージョン(1998年)が発売され、2日間で完売したのもGC8のトピックと言える。

1999年式CP9AランサーエボリューションVI GSRと、1998年式GC8インプレッサWRXタイプRA STiバージョンⅣ。発売から25年近くが経った今、取材車両として同年代の2台を用意してくれたのは、それぞれのエンジンオーバーホールを手掛けた“マルシェ”だ。

CP9Aのオーナーは以前CE9A(ランエボIII)に乗っていて一度GC8に乗り替えたが、「エンジンフィールはEJ20より4G63の方が良い」ということで再びランエボに戻ってきた。一方、25歳の時に新車で購入し、以来ワンオーナーで乗り続けるのがGC8のオーナー。競技での使用歴はなく、その程度は現存するタイプRAでは間違いなく極上の部類に入る。共に街乗りをメインにCP9Aオーナーは長距離ドライブ、GC8オーナーはワインディングでの走りを楽しんでいる。

まずはランエボVIから細部を見ていく。搭載されるのは、クーリングチャンネル付きピストンや大型オイルクーラーなどが採用された4G63。取材車両はマルシェでランエボIX純正ピストンを流用したO/Hが行なわれ、東名エキマニやマルシェ76.3φハイパワーフロントパイプ、サードキャタライザー、フジツボレガリススーパーRで排気環境を整えたブーストアップ仕様。ラリーアート製サクションパイプでバッテリーとエアクリーナーの位置を逆転させ、吸気効率も高めている。最大ブースト圧1.6キロで400ps&50kgmを発揮。

エアコン操作パネルをサイドブレーキ脇に移設し、カーボンパネルをワンオフ製作した上でデフィ水温/油温/油圧計をセット。追加メーターコントロールスイッチとHKSターボタイマーIXも装着される。ダッシュボード右端はデフィブースト計。エンジン制御は純正ECU書き替え、ブースト圧はHKS EVC VI-IR 2.4でコントロールされる。

足回りにはラルグス全長調整式車高調のスタンダードモデル、スペックSを装着。単筒式ダンパーで減衰力32段階調整機能を持つ。スプリングレートは前後6kg/mmで、街乗りでの快適性を重視したセッティングとなる。また、ブレーキはエンドレスMX72パッドで強化済み。

フロントサスペンションメンバー周辺は、ボルトオン装着可能なクスコロワアームバーとマルシェオリジナルのメンバーすじがねくんで補強。サスメンバーの変形と揺動をシャットアウトして、ステアリング操作初期のレスポンスアップとアンダーステアの軽減を実現する。

続いてGC8。エンジンO/Hに合わせてオリジナル鍛造ピストンが組まれたEJ20。スーパーパワーフローやAVO純正置き換えインタークーラーで吸気効率アップが図られる。タービンはS202純正ツインスクロールタイプに交換され、フロントパイプ、メタルキャタライザー、ハイパワー409マフラーと排気系もHKS製パーツで固められる。スペックは最大ブースト圧1.5キロで350ps&50kgm。それに伴い、オイルクーラーは純正水冷式に空冷式を追加して冷却性能を高めている。

ステアリングホイールはMOMOディープコーンタイプに交換。フルバケ装着による乗降性の悪化を改善するため、ワークスベルラフィックスGTCでステアリングのチルトアップを可能にしている。現状、追加メーターはサードブースト計のみだが、各種情報を一括管理できるデフィアドバンスFDを装着予定。エンジン&ブースト圧制御はパワーFCが担当する。

エキマニは純正タービンと相性がいいマルシェオリジナル38φ等長タイプを装着。「ブーストの立ち上がりが良くなって低速トルクが向上します」と坂本さん。オイルパンの左側から出る2本の配管は空冷式オイルクーラー用。遮熱処理が念入りに行なわれる。

車高調は全長調整式で減衰力40段階調整機能を持つクスコストリートAをチョイス。スプリングレートはフロント7kg/mm、リヤ5kg/mmとなる。また、リヤラテラルリンクとトレーリングリンクはSTI製フルピロタイプに交換。新品で在庫されていた最後の1セットを入手したという。

撮影を兼ねて高速道路で2台に試乗したが、すぐにブーストレスポンスの向上を体感。5速100km/h巡航(CP9A:2900rpm&GC8:3200rpm)から右足に力を込めると間髪入れずにブースト計の針が正圧域に飛び込み、まるで不満のない加速を見せてくれた。

さらにCP9Aは高回転域での吹け上がりとパワー感が改善され、GC8は3000rpm以下のトルク感が劇的に向上。エンジン本来の持ち味をスポイルすることなく、4G63とEJ20それぞれの弱点が大幅に解消されているのだから、走りの楽しさが増すのも当然だ。

新品で手に入らない純正パーツが増えている今、25年前のクルマを維持していくのは簡単なことではない。そこで必要以上のパワーを求めれば、その分クルマにも負担を掛けることになる。であるならば、適度なパワーと扱いやすさを両立させる方が確実に愛車とは長く付き合える。マルシェで取材した2台は、その模範解答のように思えるのだった。

●取材協力:カーステーション マルシェ 群馬県前橋市亀里町1224 TEL:0247-265-6789

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【関連リンク】
カーステーションマルシェ
http://cs-marche.com

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