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T360時代から存在したホンダ伝統の仕様!
ベース車とはまるで異なるリヤサスペンション! ミッドタイヤでキャタピラの張り具合を調整する
HA4改アクティクローラは1994年に登場。ベースは、リアルタイム4WDにリヤデフロック機能を持ち、ミッションも悪路走破性を大幅に高めるウルトラローを備えた、俗に“農耕アクティ”とも言われるアクティ“ATTACK(アタック)”だ。そのリヤサスペンションを全面的に見直してリヤ4輪化を図り、キャタピラ仕様への変身も可能にしたのが今回紹介するアクティクローラである。
これが、アクティクローラで最も特徴的と言えるリヤサスペンションのイラスト図。ド・ディオンアクスルを採用するベース車に対し、クローラはスイングアクスルに変更。左右アクスルビームにミッドとリヤ2本のタイヤが取り付けられ、リーフスプリングと前後2本のダンパーで支持される。
サスペンションの動き方としては後端(イラスト右側)を軸にして、左右アクスルビームがそれぞれ上下にストロークするイメージだ。
下回りを後方から見たところ。左右アクスルビームはトルクキャンセルケースが備わる後端の中央部で連結される。また、左右の無駄なストロークを規制するため、太めのスタイビライザーも装着されている。
リヤタイヤで駆動するのは後ろの1輪のみで、ミッドタイヤはフリーで回っているだけ。専用タイヤのサイズは90/105D13 8PR LT、ゴム製キャタピラのサイズは15.5-290BNとなる。幅は150mmだ。
これは、左斜め後方から右アクスルビームを見たところ。手前にドライブシャフトが確認でき、その前方のピボットでリーフスプリングのブラケットと連結される。前端に見えるのがミッドダンパーだ。
ミッドタイヤの位置を前後にズラすためのウォームギヤシャフト。上部の6角ボルトを回すことでミッドハブキャリアが動き、キャタピラの張り具合を調整できる。
ミッド&リヤタイヤの真ん中を10kgfの力で押して4.0~6.0mm下がるのが適正値となる。
右横から左後方を見た様子。プロペラシャフトの上をまたぎ、左右アクスルビームの前端を繋ぐパイプ状のものがクロスロッド。アクスルビームが左右に振れるのを抑えると同時に、スタビライザーとしての役割も果たしている。
右横から左前方を見ると、フロントデフに接続するプロペラシャフトやサスペンションメンバーなどが確認できる。ミッションは1速よりもさらに低いギヤ比のウルトラローを持ち、リヤのデフロック機能も与えられる。
実はホンダにおけるクローラは長い歴史があって、もう50年以上も前、1963年に発売された同社初の4輪市販車であり、DOHCエンジンを載せた軽トラックとしてもお馴染みのT360にまでさかのぼる。後輪に代えて装着するクローラが、なんとオプションとして存在していたのだ。その後継モデルとなる1967年発売のTN360も同様。さらに、T360ともども前輪に取り付ける雪上用のスキーまで用意されていて、こちらはスノーラと呼ばれた。
初めて実車を間近に見たアクティクローラは武骨なカッコ良さ半分、すでにクルマの範疇から逸脱しているかのような変態さ半分。とにかく、リヤがキャタピラになっているインパクトは相当なものだ。
せっかくの機会なので、アクティクローラと素のアクティトラックを比べてみた。ホイールベースは、クローラがフロントタイヤからミッドタイヤまで1270mm、ミッドタイヤからリヤタイヤまでが630mm。それを足すと素のアクティトラックと同じ1900mmになる。つまり、トラックの前後輪の間にもう1本タイヤを追加したのがクローラで、そのために補機類の移設なども行われている。
今回撮影したクローラはれっきとしたオーナー車両で、今から4年ほど前に沖縄でレストア途中だった個体をネットオークションで購入。ただし、手元にくると状態があまりにもひどいことが判明したため、心得があるオーナーは自ら修理&レストア作業を始めることにした。
その箇所は、下回りサビ落とし&防錆処理に始まり、フロントブレーキ一式、左右ドライブシャフトブーツ、ミッドホイールシャフト、オルタネーター、ファンベルト、アクセルワイヤー、タイミングベルトテンショナー&アイドラー、ウォーターポンプ&サーモスタット、ラジエター、キャブレター、クラッチなど交換…と、かいつまんだだけでもこれだけの内容。だとすれば、車検取得までの道のりは果てしなく長かったに違いない。
ダッシュボードやドアトリムはHA型アクティと基本設計が同じ軽バン、HH型ストリート用を流用。ステアリングホイールも同様で、アクティ純正よりもグリップが太くなる。
メーターパネルはスピードメーターの右側に燃料計、左側に水温計が配置されたシンプルなものだ。
上からヒーターコントロールパネル(エアコンレス)、1DINオーディオスペース、シガーライター&灰皿が並んだセンターコンソール。必要最低限の装備が、いかにも働くクルマらしい。ヒーターコントロールパネル右側の赤いスイッチがリヤデフロック用。
通常の4速に加え、UL(ウルトラロー)とUR(ウルトラリバース)を備えたミッション。ULのギヤ比は1速の4.083に対して7.800(減速比1.91)、URは4.300に対して7.588(同1.76)とすることで、より大きな駆動力を得られるようになっている。
現車をひと通りチェックしたら試乗だ。ステアリングホイールを抱え込みながら1速を選び、上から踏みつけるように操作するクラッチペダルをゆっくり離していくと、アイドリング回転のままクルマがスッと動き始めた。きっと、低速トルク型に振られたE07A型エンジンと低く設定されたギヤ比のおかげだろう。車重はベースのATTACKを140kgも上回る870kgだが、正直そこまでの重さは感じない。
ゴーッというキャタピラの盛大なロードノイズを聞きながら、一般道を40km/hで巡航。リヤのグリップ力が異様に高く、その走りはドシッと安定しまくってる。というか、前後のグリップバランスが大きくリヤ寄りになっていることで、ハンドリング特性は笑ってしまうほどの超アンダーステア傾向。もちろん、曲がらないわけではないが、ここまで曲がりたがらないクルマには今まで乗ったことがない。
それが、砂の浮いた未舗装路に入っていくと印象も変わる。アンダーステアな感じが薄まるのと同時に、キャタピラが大地を踏みしめている感覚の方が強くなってくるのだ。もっとも、クローラがその真価を発揮するのは泥濘地や新雪が深く積もった雪道など、もっと条件が悪いところ。今回はそこまで試せなかったが、4WDでさえ走り切るのが難しそうな状況でもなんなく走破しそうな、そんな頼もしさが感じられた。
注目度の高さは想像異常だった。キャタピラ仕様の軽トラが一般道を走るのはよほどおかしいのだろう。道行く人々に指をさされて笑われる始末。しかし、それもまたアクティクローラの個性であり、魅力なのである。
■SPECIFICATIONS
車両型式:HA4改
全長×全幅×全高:3255×1395×1750mm
ホイールベース:1270mm+630mm
トレッド(F/R):1205/1220mm
車両重量:870kg
エンジン型式:E07A
エンジン形式:直3SOHC
ボア×ストローク:φ66.0×64.0mm
排気量:656cc 圧縮比:9.8:1
最高出力:38ps/5300rpm
最大トルク:5.5kgm/4500rpm
トランスミッション:4速MT+UL/UR
サスペンション形式(F/R):ストラット/スイングアクスル
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤサイズ(F/R):145R12-5PR LT/90/105D13 8PR LT
●TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:カー・オーシャン TEL:078-907-5447