【編集長コラム】R35GT-RのGR6ミッションを2日間かけてオーバーホールしてみた

油圧センサー不良がR35GT-Rを鉄の塊に変える!?

工賃を払う意味を真剣に考えた2日間

ミッションがおかしい…。繋がりのギクシャク感が増したというか、ドグミッションっぽいというか。

GR6ミッション本体。米ボルグワーナー社がパテントを持つ革新的なツインクラッチシステムを取り入れ、それを日産流にアレンジすることで誕生したGR6型デュアルクラッチトランスミッション。いわゆる、スタンバイ方式の2ペダルMTだ。

そういえば、R35GT-RのGR6ミッションは何かと問題が多いことを思い出した。不具合は決してパワーチューニングしたから起きるというものではない。例え、ストリート最優先&フルストックの個体であっても、クラッチ部のオイルシール破損やシフトソレノイドの固着など、様々なメカニカルトラブルの事例が世界中で報告されている。

GR6ミッションの内部。

もちろん年次変更のたびにミッションも改良されているが、世に溢れるR35GT-Rの大半は未対策のGR6を搭載する初期型(2007年モデル)〜2008年モデルであり、かくいう自分の愛車も2007年式。

数値はイメージ。

決定的だったのは油圧センサーの電圧値だ。名将“NEKOコーポレーション”の金子代表に専用ツールで計測したもらったところ、明らかに規定値より低く、「近いうちに偶数段か奇数段のギヤが入らなくなるぞ。そもそもGR6の油圧センサーは消耗品だからな。覚悟しなさい」と、死刑宣告されてしまったのだ。

転ばぬ先の何とやら…。居ても立っても居られず、断腸の思いでGR6ミッションのオーバーホールを決意。頼ったのは、主治医の”トップシークレット”@スモーキー永田だ。

予約日を迎え、クルマをトップシークレットのファクトリーに持ち込む。すると、慣れた手つきでスモーキー永田が車体をリフトで上げながら、恐ろしいことを笑顔でつぶやいた。「教えるから自分でやってみなよ。その方が構造を覚えるしさ!」と。

GR6ミッションを車体から切り離す場合、リヤサスメンバーごと落とすのがセオリーだ。

当然、断れるわけもなく「は、はい…!」と即答し、指導を受けながらGR6ミッションをリヤサスメンバーごと分離。ここまで約8時間。重作業の連続で腕がパンパンになってしまったが、これをスモーキー永田は「その気になれば午前中だけでオーバーホールまで全部終わるよ」と平然と語るのだから恐ろしいかぎりだ。

トップシークレットにはGR6ミッション専用の治具が揃っているため、慣れてしまえば作業自体は決して難しくないのだろう。しかし、相手は金属の塊。とにかく重い、全てが重い。そして固い、アホみたいに固い。

タバコ休憩を挟みながら作業を続けることさらに数時間。GR6ミッションをバラしたところで、この日の作業は終了した。腕は傷だらけになり、足腰もガタガタ。このような重作業を、毎日のように繰り返しているチューナー達に改めて尊敬の念を抱いた次第だ。

油圧を発生させクラッチを制御するDCTの中枢。シフトコントロールモジュールとのセットでシフト操作を行っているわけだが、あまりに機構が複雑なため何かとトラブルが起こりやすい。チューナー達が行うメンテナンス&アップグレード作業もここが中心となる。  
ギヤ類から出る金属粉は、オイルパンのマグネット部とシフトフォーク下部に位置するコントロールモジュール内のギヤポジションセレクター(ピストン内にシフト位置を確認する目的でマグネットが入っている)周辺に集まる。これを撤去するわけだが、気を付けなくてはならないのがセレクター部。シリンダーとピストンの間に鉄粉が入り込むと動きが渋くなり、最悪、可動しなくなってしまう。

2日目は、各部の点検からスタート。シフトソレノイド自体は問題なし。懸念していたギヤポジションセレクター(セレクターが回転してシフト不可状態に陥る)や、フライホイールハウジング(アイドリング中や特定の回転域で振動が出る)はどちらもディーラーで対策済みだった。

「構成部品の状態はかなり良いね。油圧センサーは3つあるから、それを全部変えれば問題なし。でも、どうせ開けたんだからクラッチもオーバーホールしちゃった方が良いかな」とはスモーキー。

言われるがまま、油圧センサーを交換。「トラブルを起こしやすい油圧センサーが、ミッションケースをバラさないと脱着不可能という時点で欠陥だろ!」と軽く怒りを覚えたことは言うまでもない。

ネココーポレーション製の強化パーツをカウンターシャフト先端に取り付けて、ギヤの支持剛性を引き上げる。

ついでに、GR6最大の欠陥ポイントと言われているカウンターギヤ(インプットギヤと前輪駆動用アウトプットギヤとを繋ぐギヤ)も強化。このギヤを固定しているCリングが脆いのである。Cリングが破損すると、カウンターギヤが脱落し、ハウジング内で暴れてしまうという。

原因としては、車両が停止していない状態(Dレンジ)でリバースギヤに入れたりすると、稀に発生するようだ。この部分をネココーポレーション製のパーツで強化し、トラブルを未然に防ぐのである。なお、車体番号が5400番台以降のモデルには、対策品(シャフトが長くなっている)が導入されているものの、それでも万全では無いためトップシークレットではCリング強化を推奨している。

クラッチはアッセンブリー状態でケースの隙間からプレート間の距離を計測し、次にバラしてディスクの厚みを測る。“プレート間距離-ディスク厚=クリアランス”となるわけだが、規定値を超えているようなら、厚みの異なる数種類のシムを使いクリアランスを最適化する作業を行う。スタート時に違和感を感じるようになったら、ここを疑うべきだ。

一方のクラッチは、想像通りディスクの摩耗が激しかったため、NEKOコーポレーションでオーバーホール&チューニングが施されたアッセンブリーキットに変更。これは、クラッチパックのセンターにベアリングが組み込まれた特殊なタイプで、かのGT-Rイタルデザインに採用されたものと構造的に同一らしい。

こうしてミッション内部のオーバーホールと点検が終了。全工程の8割は終わったという安心感が、ヘトヘトの身体に力を漲らせる。一心不乱に作業を続け、トップシークレットの営業終了時間直前になんとかエンジン始動まで漕ぎ着けた。

はやる気持ちを抑えながら運転席に滑り込む。そしてシフトをDレンジに入れて走り出した瞬間、このオーバーホールの凄さが理解できた。変速ショックが抑えられ、信じられないくらいシームレス! 良い意味で“普通のオートマ”になったイメージ。

なお、今回のGR6オーバーホールは、アッパーメンテナンスという名目でメニュー化(内容は多少異なる/クラッチ代は別途)されており、価格は44万円だ。高額に思えるが、内容と作業の大変さを知れば誰もが適正価格だということに気づくはず。それほどまでに激変するからだ。

こうして完全復活したR35GT-R。ルンルン気分で帰路につこうとしていた僕に、かの最高速チューナーはニヤニヤしながらこう呟いた。「ミッションは良くなったけど、その他ヤバそうな場所がいくつかあるね。タービンは怪しいし、足回りからは異音が聞こえる。まだまだ先は長いね! ふふふ」。

フロントバンパーは東京オートサロン2024で一目惚れしたトップシークレット最新のM24キットを装着。NISMOならぬ、NISEMO(偽モ)感がさらに増した…。

どういう意味で先が長いのかよく分からないが、きっと最悪の個体ってことなのだろう。しかし、もう後戻りはできない。というか、自分で作業したことで愛着も深まった気がする。ここまできたら、スモーキー永田に認めてもらえるようなR35GT-Rになるまで、サイフと相談しながらコツコツ育てて行こうと決意した次第です…。

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●取材協力:トップシークレット 千葉県千葉市花見川区三角町759-1 TEL:043-216-8808

【編集長コラム】350万円の過走行R35GT-Rを購入しちゃいました!

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