「いすゞ営業マンのためのクルマか!?」装備を省きまくったジェミニ最底辺グレードT/Tと奇跡の遭遇!

2代目FFジェミニに設定された最廉価モデル

ディーゼルターボエンジンが頼もしい走りを見せる!

ジェミニとしては3代目、駆動方式をFFに改めてからは2代目となるJT151/191/641系。1990年3月に発売され、車両型式はガソリン1.5LモデルがJT151、1.6LがJT191、1.7LディーゼルターボがJT641となる。

とりわけ4ドアセダンモデルで世のクルマ好きが注目するのは、当時1.6Lクラス最強の180psを誇ったターボ4WDのイルムシャーRだったり、コーナリング性能を追求したZZハンドリング・バイ・ロータスだったりするのだろうが、生粋のマニアとしてはそれらよりも先に押さえておかなくてはならないグレードがある。それが、ここで紹介するT/Tだ。

これは1991年2月、1.7Lディーゼルターボのラインナップに追加。シリーズで唯一13インチホイール&タイヤが装着され、リヤブレーキのドラム化が図られる他、運転席シートリフターや後席ヘッドレスト、ドアミラーの電動格納機能なども省かれる。つまりは、営業車需要を見込んだ廉価グレードである。

おそらく1990年代前半は、いすゞの工場がある神奈川の藤沢近辺をけっこうな台数が走っていたはず…と妄想を膨らませる一方で、世に放たれたほとんどが仕事グルマとしての責務を全うした上で廃車の道を辿ったであろうことを考えると、現存する実働車が皆無に近いことは明白。そう、取材できるT/Tがこうして残っていること自体、まさに奇跡なのだ。オーナーに話を聞く。

「いすゞの乗用車に興味を持ったキッカケは“街の遊撃手”でした。それと商用車も好きだったので、自分で乗るならディーゼル車だなと思い、どうせT/Tは出てこないだろうから標準グレードC/Cを探していたんです。ところが2020年夏、カーセンサーでまさかのT/Tを見つけて。よほど程度が悪くない限りは買うつもりで、新幹線に飛び乗って福岡の店に向かいました。で、即決。同じT/Tに遭遇したことがないのはもちろん、そもそもいすゞの乗用車とすれ違うこともないですよね」。

これを運命的な出会いと言わずして、なんと言おうか。さらに驚いたのは、このオーナー、まだ二十歳なのだ。趣味嗜好の方向性が極めて変態的である。

インタークーラー付きターボを備えた4EE1型エンジン。のちマツダにOEM供給され、BH系ファミリア&レーザーセダンのディーゼルモデルにも搭載された。「福岡でガソリン満タンにして大阪まで600km自走しましたけど、使ったのは半分。高速だとリッター20キロくらい走りますよ」とオーナー。経済性の高さも大きな魅力だ。

エンジンルームのインテークパイプから想像は付くだろうが、フロントバンパー左奥に空冷式インタークーラーを装備している。

バンパーにはインテークダクトが設けられ、樹脂製インナーフェンダーにはエア抜きのための穴開け加工が施される。

フロントウインドウに沿ってラウンドした形状や、メーターナセル左右に備わるサテライトスイッチが特徴的なダッシュボード。その位置がかなり低いため、前席は開放的だ。

パネル中央にスピードメーターが配置され、右側に水温計と燃料計、左側にタコメーターが並ぶ。

シート表皮にはファブリックを採用。これが一部ビニールレザーだったりすると廉価グレードとして100点なのだが、さすがにいすゞもコストをかけてまで作り分けることはしなかったようだ。

後席背もたれは50:50分割可倒式でトランクスルー機能付き。

取材車両はオプション設定のハイマウントストップランプ(とフロントフォグランプ)を装備。それを見たオーナーは、「営業用の社用車としてではなく、個人オーナーが所有していたんだと思います」と推測する。リヤウインドウには“TURBO-D”のステッカーも。

4EE1型ディーゼルターボエンジンは排気量が1.7Lとは思えないほど低速トルクが厚く、多少の登り勾配でもアイドリング状態で丁寧にクラッチを繋げば、エンストの気配をまるで見せることなく発進する。ターボの過給効果を体感できるのは2000rpmからでトルク感が倍増。カタログ値17.0kgmを遥かに超えた力強さで、1→3→5速とギヤを飛ばしても十分に事足りる。

街乗りで使うのはせいぜい3000rpmまで。それでも鋭く加速してくれるし、流れをリードするくらいのことはやってのける。試しに上まで回してみたが、5500rpmから始まるレッドゾーンに対して、4000rpm付近からエンジンの伸び感が鈍くなるのはディーゼルなので仕方なし。もちろん、音や振動は大きいが、それすらも味。思いきりトルク型のエンジンが見せてくれる動力性能は、想像以上の頼もしさだった。

走り、実用性、経済性と三拍子が揃い、さらにマニア度でも高ポイントなジェミニT/T。当然、オーナーも満足しているようだが、「実はG100シャレードのディーゼルターボが気になっているんです。排気量1.0Lの3気筒エンジンってどんな感じなんだろ?」とのこと。もはや今からの軌道修正は不可能と思われる発言だけに、後は“そっちの方向”で突き進んでもらいたいと強く願うばかりだ。

■SPECIFICATIONS
車両型式:JT641F
全長×全幅×全高:4195×1680×1390mm
ホイールベース:2450mm
トレッド(F/R):1430/1405mm
車両重量:1130kg
エンジン型式:4EE1
エンジン形式:直4SOHCディーゼル+ターボ
ボア×ストローク:φ79.0×86.0mm
排気量:1686cc 圧縮比:22.0:1
最高出力:88ps/4500rpm
最大トルク:17.0kgm/2500rpm
トランスミッション:5速MT
サスペンション形式(FR):ストラット
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ(FR):175/70R13

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●TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)

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