「被害者は20名以上か!?」名門の皮を被った悪徳チューニングショップの闇を追った

「これ以上の被害を食い止めたいという一心でご連絡を差し上げました」。ギャランシグマを所有する25歳の若きカーガイ(以下:H氏)から、WEB OPTION編集部に一通のメールが届いた。そこに記されていたのは悲劇の記録、クルマ好きにとって“腹わたが煮え繰り返る”ような内容だったのだ。

地に落ちたかつての名門チューニングショップ

車検で愛車を預けたら帰ってこなくなった・・・

事の始まりは2019年12月、オールド三菱を得意とする埼玉県の某チューニングショップにH氏が愛車のギャランシグマをギヤボックスの修理と車検で預けたところからだ。

「2020年1月に重大な故障箇所が見つかったので、それを含めて修理代38万円を請求されました。その時は深く考えずに全額支払いました。しかし、その後いくら待ってもクルマが仕上がってこなかったんです」

「コロナ禍でパーツの調達に時間がかかっている」「もう少しで完成する」「子供が病気になった」「家族のインフルエンザがうつって動けない」…等々、H氏が作業の進捗状況を確認するたびに、某ショップの代表A氏はもっともらしい言い訳を盾にその場を取り繕っていたという。

「ワンマン経営で、さらにコロナ禍という状況だったので、あまり責めることができませんでした。それに某ショップは雑誌にも出ているような有名店ですし、信じたい気持ちの方が強かったんです」

H氏と某ショップのやり取りメールは全て保管されている。

そんなH氏の想いは無情にも裏切られる。2021年に入ってからコンタクトが取りづらくなり、店舗に直接乗り込んでも代表A氏の姿はいつも見えない。それどころか、自分の愛車すら消えてしまっていたのだ。

「運よくA氏と遭遇できても、相変わらずのノリでごまかすばかり。クルマの場所も教えてもらえず、さすがにヤバイと思いました」

クルマを預けてから約1年。不信感がピークに達したH氏は、SNSで本格的な情報収集を開始した。すると、自分と同じような境遇で困っている三菱車オーナーが多数いることを知る。同時に、愛車がショップからほど近い河原の駐車場に放置されていることも突き止めた。

「ざっと20人以上でしょうか。警察に被害届けを出した方や、車両返還と損害賠償を求める民事訴訟を起こして戦っている方がいることも分かりました。私も契約解除通知の内容証明を作成して某ショップに送りましたが、案の定、期日までに返答は無かったです」

その後、H氏は各所を駆け回り、何とか愛車を取り戻すことに成功。しかし、保管状態が酷かったため外装の塗装やメッキは剥がれ落ち、身に覚えのない傷やヘコミが散見され、ギヤボックスも手付かずの状態だった。最初に支払った38万円も返還されていない。

「クルマを直して、三菱車が好きな祖父を乗せてドライブしたかったんです。でも、結果としてクルマはボロボロになり、祖父も介護が必要なほど足腰が弱ってしまった。2年間という時の流れは、単純な時間だけでなく、その間に経験できたであろう、かけがえのない経験も私から奪い去りました。お金で簡単に解決できる話ではないんです」

クルマや金銭だけの問題ではない。某ショップは、H氏のささやかな夢さえも奪ってしまったのである。

同様の被害者は20名以上にのぼる

H氏からの告発を受け、WEB OPTIONは裏付けのために調査を開始。H氏の協力もあり、同じ境遇で苦しむ複数の三菱車乗りから話を聞くことができた。それぞれの怒りと苦しみの声を聞いていただこう。

ケース1:ランサーターボ所有者K氏

初期型のランサーターボを新車購入して大切に乗っていました。2011年に高速道路でエンジンブローを起こしてしまい、三菱ディーラーからの紹介で某ショップにクルマを預けることになったんです。

代表A氏と話し合って、1.8Lから2.0Lヘの排気量アップメニューを行うことになり、前金として80万円ほど振り込みました。最初のうちはお店に頻繁に顔を出していたんですが、他車の作業が溜まってるようで私のクルマは放置状態でしたね。

しばらくして「エンジンは完成した。でも、ガソリンタンクが腐食して使えない」という連絡がきました。純正タンクを探してもらうことになったのですが、そこから連絡が完全に途絶えまして。心配になってちょくちょく覗きに行っていたのですが、いつも本人が不在で…。あげく、工場から自分のクルマが消えていて、所在も分からなくなってしまったんです。本当に焦りました。

もちろん警察にも行きましたが、「おたくが納得してクルマを預けたんだから事件化はできない」と相手にされず。大切な愛車なので、何とか取り戻したい気持ちでいっぱいです。

ケース2:スタリオン所有者S氏

2017年12月に修理で某ショップに車両を預けました。軽トラを代車で出してもらって安心していたんですが、他の被害者同様、仕上がってきませんでした。

しまいには「保管場所で盗難事件が発生した。預かっているスタリオンについても、カーナビ一式がやられた」という連絡がきて。さすがにもう車両を引き上げようと思ったんですが「最後までやる!」の一点張りで。そうこうしているうちに、代車の車検が切れてしまいました。

2019年9月頃、工場を訪れて敷地内に駐車してあった私のスタリオンを改めてチェックしたのですが、代表A氏が「終わった」と説明していた点を含めて、修理は全くされていないことが判明。その時点で契約解除を申し入れましたが、なぜか車両を返してくれず。今思えば、無理矢理にでも引き上げれば良かったと思います。

2021年に民事訴訟を起こしました。初公判の時だけです、本人が現れたのは。以降は逃げモードでした。

裁判は無事に終わったんですが、賠償請求を強制執行しようにも、調べたらお店の口座残金が119円しかないようで(笑)。スタリオンもスペアキーが無いため、取り戻せない状況が続いています。

ケース3:スタリオン所有者T氏

某ショップとはかれこれ10年以上の付き合いで、知人からの紹介でした。最初の頃は修理も車検もシッカリ対応してくれたので、本当に信頼していました。

2019年にエンジントラブルが発生し、修理を依頼しました。エンジンオーバーホールを勧められ悩みましたが「今回直せば10年は安心して乗れる」という代表A氏の言葉で決意。見積もりは100万円弱、部品の大半は海外からの取り寄せになるため先にある程度入金して欲しいと言われて、分割で端数以外を払ったんです。

以前は作業終了時に代金をお支払いしていたので少し違和感を覚えましたが、海外パーツを使う場合そういうものなのかなと自分を納得させました。

入庫当初はちょくちょくメールで連絡を頂いていたんです。「〜のパーツが海外から届いた」とか。しかし、2020年夏頃から音信不通になりまして。正直、レースなどで死んでしまったのではないかと不安になったくらいです。それから何度かお店を尋ねたのですが、毎回留守で。シャッターに手紙を挟んだりもしましたが、連絡が来ることはなかったですね。

2021年に入ってから陸運局に私のクルマの所在を確認しました。もしかして海外へ売り飛ばされているのでないかと疑ったからです。でも、車検が切れているので分からないって。コロナ禍で仕事が忙しかったこともありますが、もうそんなに経ったんだ…と、情けなくなりました。

もちろん警察にも相談しましたが、“電話が繋がる時点で詐欺には当たらない”と言われ…。その後、私と同じような悩みを抱える方々が大勢いることを知り、現在は一緒に問題解決に取り組んでいるところです。信頼していただけに本当にショックです。

ケース4:パーツを購入したM氏

2021年1月にホームページからパーツを購入しました。その後、商品の代金と送料を振り込んだのですが、入金確認の連絡すら来ませんでした。

何度メールしても返信がないため、『4月末までに納品または納期予定日の連絡がない場合は、貴社からの一方的な契約破棄と判断する。その場合は支払った代金を返還してほしい。それに応じない場合は警察等に相談する』という旨のメールをしました。

予想通り返信はなく、時間だけが過ぎて現在に至ります。

店舗に突撃取材を敢行

某ショップの旧店舗。

2021年11月、H氏と共にホームページに記載されている店舗所在地に行ってみると、そこは完全に“もぬけの殻”だった。その後の調べで、某ショップは2021年10月に店舗を密かに移転(同一県内)させていたことが判明。日を改めて新住所を訪れてみたが、案の定、こちらもシャッターは閉ざされた状態だった。

その足で、今度は某ショップの入庫車両が保管されているという駐車場へ移動。いやはや衝撃的だった。単なる道路脇の草むらに、10台以上のレアな三菱車がギュウギュウ詰めで並んでいたのである。

保管場とは名ばかり、年単位で放置されたであろうクルマ達はどれも劣化が激しく、いたずらされた形跡すらある。ゴミも散乱していて、その様相は完全にスクラップ置き場だ。また、数台は道路にはみ出るカタチで止められているため、放置駐車違反として反則金が課せられてしまう可能性も高い。

惨状を茫然と見つめる取材班に、情報提供者のH氏は「某ショップはもうひとつ駐車場を持っているんです。そっちも酷いですよ」と言いながら、スマホに保管されている画像を見せてくれた。

不思議な光景だった。クルマを取り囲むように鉄柵が設けられ、さらに深さ1mほどの大きな穴まで掘られているのだ。

てっきり某ショップの仕業かと思いきや「この土地の地主さんがやったそうです。某ショップは駐車スペースの賃料を滞納していて、クルマを人質代わりにしたんでしょう」とのこと。実際にこの土地の地主さんとコンタクトを取り、事の顛末を伺った結果、某ショップは約半年間の賃料を未払い状態であることが分かった。度重なる催促に応じなかったため、止む無く最終手段に出たという。

自分の愛車でも簡単には取り返せない刑法235条の壁

例え大切な愛車だとしても、ショップに預けたクルマを許可なく持ち帰る行為は法律的にNG。窃盗罪について定める刑法235条「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」に該当する場合があるからだ。

ここで言う「他人の財物」とは、他人の占有下にあることを指し、「占有」とはその財産を事実上支配していることを意味する。つまり、自分のクルマを長期間チューニングショップに預けている場合、車両はショップの財物としてみなされる。

某ショップの代表A氏はそれを匂わせる発言を度々していたそうで、そのために被害者達は車両奪還に対して二の足を踏んだわけだ。本件に限って言えば、自力救済(権利を侵害されたものが、個人が自分の力で回復を図る行為)の範囲かもしれないが、軽率な行動は自分の首を締める可能性もある。それが法律の壁なのである。

本件は巧妙な悪行に他ならない

ここまでくると代表A氏はすでに夜逃げしたのでは?と思ってしまうが、我々は本人のSNS裏垢(ゲームアカウント)を特定しており、そこには2022年1月時点でオンラインゲームに熱中する様子が更新され続けている。つまり、代表A氏は今現在もどこかで普通に生活しているのだ。

某ショップは間違いなく“名門”に属するチューナーだった。OPTIONをはじめとする改造車専門誌に度々登場し、三菱ディーラーすらも推奨するとなれば、信用しないわけがない。とくに、オールド三菱を扱えるチューナーは限られているため、オーナー達にとっては“駆け込み寺”だったはずだ。

「もっと早く取り返す動きをしていれば…」と考える人もいるだろうが、知っての通り、2020年を境に我々の日常は一変した。コロナ禍で動きが大きく制限され、どうしようもなかったのである。

某ショップの新店舗。

某ショップの内情までは分からない。しかし、これだけ多くの被害者がいる事実を鑑みると、我々メディアの責任も決して少なくないように思う。深く反省するとともに、この記事が一人でも多くのチューニングファンの目に触れることを願っている。

なお、WEB OPTIONは今回の記事を制作するにあたり、約4ヶ月を費やして調査を進め、被害者達が警察に提出した陳述書や裁判資料に目を通し、H氏が代表A氏を問い詰めた際の録音テープも聞いた。

SNSの発達により、正否は別として悪徳チューニングショップの所業は簡単に表面化するようになった。しかし、それでも騙されてしまう人は後を絶たない。車両を預けている間のアドバンテージは、ショップ側にある。本件はそこに付け込んだ悪行に他ならないのだ。

事実確認・・・そして終わらない闇

あらゆるルートから某ショップの代表A氏に問い合わせを続けた結果、直接対面することは叶わなかったものの、記事公開直前の1月31日深夜に、我々が送付していた“質問状(記事内容および公開予定日も記載)”に対する回答がメールで送られてきた。しかし、重要部分は全て「コメントを差し控える」となっており、明確な答えは得られなかった。WEB OPTIONは引き続き、この“闇”に迫っていくつもりだ。

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竹本雄樹 近影

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