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33歳のBTTFマニアがプライベートで製作!
誰もが振り返る魔改造デロリアン
今や日本の改造車文化という幹は、様々な枝葉を伸ばして好き放題に大きくなっているが、いわゆる劇中車レプリカと呼ばれるジャンルほど変態的でディープな世界はないかもしれない。
バック・トゥ・ザ・フューチャーに登場するタイムマシン(デロリアン)の完コピを目指すオーナーのマニアックすぎる説明を聞いているうちに、そんなことを思ってしまった。
劇中車レプリカにおいて、タイムマシンはナイトライダーと双璧をなす人気モデルだ。それだけに、数々のビルダーがレプリカの製作を行っているが、今回撮影した車両はおそらく日本でもっとも完成度が高い1台であろう。
「あとは排気口を作れば完成でしょうか。僕はクルマにそこまで詳しくないんです。エンジンとかもよく分かってないですし。元々はデアゴスティーニの改造から始まったんですよ」。
オーナーの年齢は33歳(取材時)。バック・トゥ・ザ・フューチャーの直球世代ではないが、幼少期にTVで幾度となく再放送されていた3部作が鮮烈な記憶として脳裏に焼き付いていたそう。とはいえ、それはあくまでファンの領域。実際に、数年前までは自分の手でタイムマシンのレプリカを製作するなど、想像もしていなかったのだ。
デアゴスティーニから実車へ
「子供の存在が大きいですね。息子が3歳くらいの時に、タイムマシンのプラモデルをプレゼントしたんです。そしたら見事にハマっちゃって、映画を観るようになりました。で、僕も一緒になって観賞しているうちにブームが再燃したって感じです」。
勢い覚めやらぬまま、2017年にバック・トゥ・ザ・フューチャーのデアゴスティーニを購読。パーツだけでも購入できるため、自分用と子供用と、2台同時に製作を進めていった。
「最初はノーマルで組み立てていたんですが、ディティールに満足できなくなって。実車に近づけるために色を塗ってみようと。そこで、妻に相談したら『愛が試されてるんじゃない?』と言われまして。その言葉で吹っ切れましたね」。
意外なことに、カスタム開始のゴングは奥様が鳴らしたわけだ。結局、作業は塗装だけに留まらず、各部パーツの組み替えやワンオフ加工など、文字通りの大改造になった。
「スマートフォンの配線を流用したり、色々と手を加えていきました。そうやって作り込んでいくうちに、どうしても実車の質感を知る必要が出てきまして」。
知りたかったのはサンバイザーの表皮。マニアックすぎる疑問だが、オーナーはすぐに行動に移した。家族を連れて、デロリアンを在庫する中古車屋に向かったのである。
「本当に確認のつもりだったんです。でも、実車を見たら心がウズウズしちゃって。そのまま契約しました」。
2018年、オーナーは突発的にリアルのデロリアン乗りになった。
内装完成までの平均睡眠時間は2時間!?
「最初は室内に次元転移装置を置けたら良いなって考えていたんですが、徐々にエスカレートしていって。気がついたらココまできちゃいましたね」。
そこから先の話は、デアゴスティーニ時代をなぞるような展開だ。タイムマシン用のパーツをかき集めつつ、手に入らない部品は自作。劇中車レプリカを目指した戦いが幕を開けたのだ。
内装完成までに費やした期間は1年半。その後に外装モディファイを本格化させ、プラス1年をかけてこの状態までこぎつけた。かなりのハイペースだが、その裏にはSNSの存在が大きく関係している。
「情報収集はSNS。デアゴスティーニの改造に情熱を注いでいた時期に出会った、フェイスブック上のコミュニティがメインです。でも、外国人の方々が中心なので、やりとりは英語だし、時差の関係で話をするのは夜中。おかげで、内装完成までの睡眠時間は2時間くらいの日々がずっと続きました」。
猪突猛進、勇往邁進。オーナーの性格がよく分かる逸話だが、そのコミュニティは本物の劇中車のレストアを担当した人物も在籍するほどレアでディープな世界。探し求めていた次元転移装置も、コミュニティを通じてタイムマシンレプリカ製作を得意とするイギリス人を紹介してもらうことでGETできたそう。
「簡単に思うかもしれませんが、コミュニティは村社会で一元さんお断りの世界。とくに僕は日本人ですから信頼を勝ち取るまでに時間がかかりましたね。でも、一度仲間として認められたら、色々な情報を教えてくれるんです。あいつがあのパーツを持っている〜とか、あの部品がオーストラリアで発見された〜とか」。
オーナーの語る信頼とは、すなわち本気度だ。0と1の電子世界とはいえ、それを使うのは心を持った人間だ。例え文章だとしても、強い情熱は相手に届く。それだけを信じて訴え続けた結果、オーナーはコミュニティの“深淵”に辿り着くことができたのだ。
インターネット無くしてこのレプリカは誕生しなかった
「劇中車は、当時のジャンク屋からパーツを集めて作っていたわけですが、30年後の今、それを揃えるのは本当に大変なんです。コピー品を作ることはできますが、それは最後の手段というか…。やっぱり本物には敵わないわけで。ここまでこれたのは、世界中に散らばっているコミュニティの仲間達のおかげです。インターネットが発達していない時代だったら、もっと年単位で時間がかかっていたはずですから」。
なるほど、このレプリカはまさに情報の集合体というわけだ。ちなみにこのタイムマシンは、車検場に通いながら保安基準に即して製作を進めているため、公道走行も可能。休日に息子を助手席に乗せてドライブすることもあるそうだが、駐車場に止まるたびに黒山の人だかりとなるのが悩みだとか。
「劇中車はA、B、C車の3台が存在して微妙に各部の仕様が異なるのですが、僕が目指しているのはメインのA車。この仕様が完成したら、パート3仕様にリメイクしようと思っています」。
取材中、オーナーは、“自分が1分の1のタイムマシンを作ることなど想像すらしていなかった”というニュアンスの発言を幾度となく繰り返していた。そう、少し先の未来なんて誰にも分からない。そして、未来は自分で作っていくものだ。
この壮大なストーリーの締めは、やはりこの名言で締めくくろう。バック・トゥ・ザ・フューチャー3のラストで、タイムマシンを生み出したドクが、主人公のマーティとヒロインのジェニファーに投げかけたセリフである。
「君の未来はまだ決まってないということ。誰のでもそうだ。未来は自分で切り開くものなんだよ。だから頑張るんだ」。