「知られざるトミーカイラ列伝」チューニング史に残る正統派コンプリートを振り返る

日本にコンプリートチューンドを広めた立役者

秀逸のパッケージセンス

新車をベースにチューニングやカスタムを施しての車両販売が当然となったコンプリートカーは、今でこそ身近な存在だが、チューニングカーが違法な存在として扱われていた80年代は公認車検取得のハードルが非常に高かった。

そのため、当時のコンプリートカーと言えば、メルセデスやBMWなどといった輸入車を手掛ける海外チューナーたちの独壇場。そんな状況に風穴を開けてきたのが、R31スカイラインの公認チューニングカー『M30』を新車コンプリート販売した“トミーカイラ”だったのだ。

トミーカイラのコンプリートカーにはコーションプレートが与えられ、これまで製作した全車両が車台番号と紐付けて管理されている。従来はアルミプレートを使用していたが2018年にリリースしたm14からはチタンプレートに変更された。

日本初の公認コンプリートカーを誕生させたトミーカイラは、創業者である富田氏が親密な関係にあった日産自動車のスポーツカーを中心として、続々とコンプリートカープロデュースを加速させていく。

1993年にはGC8インプレッサをベースとしたM20bでスバル車に着手。1995年には完全オリジナルスポーツカーのトミーカイラZZを発売して、国内12番目の自動車メーカー入りを果たす。さらに、2001年には多彩に広がっていくユーザーニーズを満たすため、コンパクトカーやミニバンにも進出していったのだ。

トミーカイラのトレードマークと言えば、亀。公式には“ウサギとカメ”の童話から「速さが全てではなく、じっくり確実に勝つ」との想いを表現したとされているが、実際は創業者の富田さんが亀好きであったことが採用の理由らしい。

そして現在は、新たなプロジェクトであるBNR34レストモッドや、トミーカイラZZIIの開発が進められている。R31スカイラインのコンプリートカーからスタートしたトミーカイラの世界は、35年が経過した今も拡大し続けている。

なお、時代の移り変わりに応じてコンプリートカーの仕様は変えられているが、「スタイリング、走り、乗り味に拘ったパッケージング」というコンセプトはM30から一切変わらない。一般的にチューニングと言えば速さの追求というイメージだが、トミーカイラにとってのチューニングはあらゆるステージで誰もが楽しめる1台に導くための手段。

そうした拘りやパッケージセンスの秀逸さが伝わっているからこそ、コンプリート販売から年月が経過した今も、オリジナルのまま大切に乗り続けるトミーカイラフリークが数多くいるのだろう。

トミーカイラ仕様の特徴

M30を皮切りに日産車のコンプリートカーを充実させたトミーカイラだが、その後はスバルやトヨタ、スズキのベース車両でも製作を手掛けている。排気量を現す2桁の数字と共にモデルネームの主軸となる「M」だが、マーチやキューブなどのコンパクトカーでは小文字の「m」を採用。なお、「m」のマシンではスタイリッシュさを際立たせるセンターストライプがオプション設定される。

M30【1987年】

トミーカイラの名とともにコンプリートカーを世間に知らしめたのが、R31スカイラインをブラッシュアップしたM30だ。心臓部には日産純正部品を駆使して耐久性と安全性を高めたDOHC仕様のRB30エンジン(NA)を与え、減衰力調整式ダンパーやスタビライザー、オリジナルのアルミホイールやウイングなど、最強のチューンドクーペに仕上げるためのアイテムを惜しみなく投入。半年後にはRB20DETのままチューニングしたM20が追加された。

ちなみに、生産予定台数200台だったトミーカイラM30の販売価格は580万円(登録費用を含まず)。最上位モデルでも250万円程度だったR31の新車価格から実に倍以上となる高額プライスは世間を驚かせたが、魅力を引き出すための拘りが細部まで詰め込まれたパッケージングはノーマルを大きく上回るものであり、世のクルマ好きを瞬く間に魅了していった。

M19チューンドベンツ【1987年】

日本初の公認コンプリートとして注目されたM30の影に隠れてしまったが、1987年に送り出されたメルセデスのコンプリートカー「トミーカイラM19」も見逃せない。走りと居住性、そしてスタイリングを研ぎ澄ましたチューンドサルーンに仕上げられていた。

M30 R32 TUNED SKYLINE【1989年/1991年】

前期モデル
後期モデル

R31に続く、R32スカイラインベースのM30。前作同様にNA仕様のRB30エンジンを搭載するが、ベース車両の進化に伴いパッケージバランスを引き上げるため、86φだったボアを87φに拡大し、排気量を2962ccから3030ccまでスープアップ。全域トルク型の280psを創出したのである。

前期モデルのフロントスポイラーは補強プレートを使った吊り下げ式でデザイン。後期モデルはスマートなフェイスに仕上げるため、被せ式に変更された。

足元はオリジナルの鍛造3ピースホイールに、225/50R16をマッチング。高速領域の空力に配慮して直線カットしたアーチのブリスターフェンダーで、1460mmのトレッドを1490mmに拡大している。

トミーカイラR BCNR33 TUNED GT-R【1995年】

ベース車両が持つ卓越したポテンシャルを解放するため、スペシャルチューニングを施したBCNR33ベースのトミーカイラR。

エンジン本体はノーマルだが、レスポンスを犠牲にせず風量を稼ぎ出すオリジナルタービンと、ECUセッティングのコンビネーションで400psまでドーピング。オリジナルエアロでアダルト&スポーティなスタイリングへと導きながら、あらゆるステージに対応するダブルスプリングシステムでフットワークを鍛え上げ、市販車の常識を覆す究極のチューンドGT-Rを生み出した。

トミーカイラZZ【1995年】

市販車ベースのコンプリートカーではなく、完全オリジナルの軽量シャーシで製作されたトミーカイラZZ。総生産台数206台の伝説的ピュアスポーツカーだ。

アクセルに呼応するダイレクトフィーリングを引き出すため、インジェクション仕様のSR20DEをCRキャブレターでチューニング。スペックは180psと控え目に思えるが、ショートホイールベースの軽量ボディ(710kg)には非常に刺激的な心臓部だ。

取材車両はオープンモデルだが、クーペモデルも設定。まるでフォーミュラカーのようなレーシングスポーツをストリートに降臨させ、数多くのユーザーを魅了した。

トミーカイラR BNR34 TUNED GT-R【1999年】

BNR34ベースでコンプリートカーを製作するにあたっては、ハイスペックなGT-Rを高次元でチューニングしていくトミーカイラRのアプローチに加え、「本来ならこうだったであろう」という第二世代GT-R最終形態の実現が目指された。

圧巻のオーラを放つエクステリア。冷却性能を第一とした大型ダクトデザインのフロントスポイラーから、ブリスター化したフロントフェンダーに結んだフロントセクションでGT-Rらしい精悍さを演出する。リヤにそびえ立つ角度調整機構付きトリプルウイングがインパクト抜群だ。

デリバリー当初は370ps仕様のR、タービン交換で425psとしたR-sの2モデルとしていたが、今回取材したのはエンジン本体にも手を入れて2.7L化した530psのR-zだ。それぞれの外観上での違いは、Rエンブレムのカラーのみ。見栄や虚飾は不要で、ユーザーが求める走りに最適なチューニングを施したコンプリートカーで応える。BNR34トミーカイラRは、そんな拘りが凝縮されているのだ。

m14 ZC33S TUNED SWIFT SPORT【2018年】

マーチやキューブなどコンパクトカーに与えられてきた、モデルネーム「m」。本気で作り込まれたホットハッチの血統が、ZC33Sがベースのm14で復活。最小の変更で最大の効果を発揮させる…というコンセプトは変わらず、「スタイリング、走り、乗り味に拘ったパッケージング拡大」が行なわれた。

なお、m14はノーマルからタービン交換まで3つのステージで展開。ブーストアップ仕様のステージIIは168.5ps&26.6kgm、タービン交換仕様のステージIIIでは193.2ps&30.5kgmを発生し、それぞれのスペックに最適化したフットワークが設定されている。

形状を変えることなく、トミーカイラレッドにカラーチェンジしたインテリア。ボディカラーを問わない鮮烈なオリジナリティで、ホットハッチを所有する喜びを感じさせてくれる。

⚫︎取材協力:GTS 京都府京都市伏見区竹田西段河原町90 TEL:075-646-0320

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