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ついにMT車にもアイサイト標準化!
最新の電子制御デバイスはチューニングの足枷になる?
GR86/BRZの年次改良モデル、アプライドCが2023年9月に発売された。一番の注目は、これまでスバルがAT(CVT)車でしか展開していなかったアイサイトが、ついにMT車にも標準装備されたことだ。
事故を未然に防いだり、衝突時の衝撃を軽減したりするのに有効な電子制御デバイスだが、クルマの制御が複雑化するということは、チューニングのハードルを上げてしまう可能性が高い。そこで、アイサイトとチューニングの親和性や今後の展開、発展性などついて“オートプロデュースA3”代表の武田さんに話を聞いてきた。
「運転支援システムに関して日本の自動車メーカーでは第一人者なのに、これまでMT車へのアイサイト採用には消極的だったスバル。他のメーカーに先を越される状況だったので、ようやく付いたなという感じですね」と武田さん。
アイサイトはフロントウインドウ上部に設置されたステレオカメラで周辺状況を捉え、前走車に追従してのオートクルーズ(アダプティブクルーズコントロール/ACC)や、衝突被害軽減ブレーキなどを作動させる電子制御デバイス。今回MT車への搭載にあたり、一部機能の省略や作動条件の見直しなどが図られているが、基本的なシステムと機能はAT車用と大きく変わらない。
アイサイトでまず気になるのは、「車高を落とすと誤作動を起こすのでは?」ということ。メーカーが設置したステレオカメラは当然ノーマル車高に合わせたもの。もし車高を落とせばカメラの認識範囲が変わるため、誤作動の可能性があるかもしれない…という話だ。また、アイサイトXを搭載する現行WRX S4(VBH)の取扱説明書をめくると、指定サイズ以外のタイヤを装着したり足回りを改造したりすると、アダプティブクルーズコントロールや車線逸脱抑制機能などが正しく機能しないという記述も見られる。それについて武田さんが言う。
「これまでアイサイトバージョン3が採用された先代レヴォーグやWRX S4を手掛けてきましたけど、車高を落としても誤作動が発生したクルマはウチでは1台もありません。スタンス系のように着地スレスレまで落とした場合は分かりませんが、30~50mm程度の常識的な範囲内での車高ダウンであれば問題はないですよ。そこは、今回のGR86やBRZでも変わらないと思います」。
また、衝突軽減ブレーキはスイッチ操作によって完全オフが可能。前走車との車間距離を詰めて走るシーンが多いサーキットでのスポーツ走行などでは、予期しないタイミングでの自動ブレーキ介入を回避することができる。
MT車へのアイサイト標準化は大半の一般ユーザーにとっては歓迎すべきことだろう。けど、「走りを楽しむのに、そんな余計な装備は不要」と考えている人達も少なくはないはず。アイサイト未装着モデルが用意されていれば済む話だが、自動ブレーキの搭載が義務付けられている以上、メーカーは全車にもれなく標準装備する他に道はないのが実情だ。
そこで思うのが、「アイサイトのシステムを丸ごと外してしまうのはどうか」ということ。
「実は先代レヴォーグにEJ20ターボと6速MTを載せたことがあるんです。ただ、当然ながらアイサイトの機能は捨てなければならない。厄介なのは今時のクルマはCAN通信を使っているので、アイサイト関連のユニットだけを取り外すことはできないということ。そこでメインハーネスをアイサイトが付いていないVAB用で引き直しました。それと同じように、今回のBRZアプライドCなら、アプライドB以前のメインハーネスを使ってアイサイト自体をキャンセルすることは可能だと思います。けど、作業に掛かる手間とコストを考えると現実的ではないですよね」と武田さん。
話を聞いて分かったのは、今のところアイサイトがチューニングに対して大きな障壁になるとは考えにくいということ。さらに、「ついマイナス面ばかりに目が行きがちですけど、実はプラス面にも期待できるんですよ」と武田さんは言う。
例えばWRX STI後継モデル登場の可能性。現行WRX S4が発売された時、MT用アイサイトは存在していなかった。そのため、国内モデルはCVT車のみのラインナップとなったが、北米仕様には6速MTモデルが存在する。技術的には、それにアイサイトを搭載することが可能になったわけで、そうなると次期WRX STIも一気に現実味を帯びてくる。
さらに言えば、これまでアイサイトを搭載するためにスバル車のラインナップはAT(CVT)に大きく偏っていたが、これを機にMT車の復権も十分に考えられるわけだ。
また、参戦マシンをVABからVBHに換えて挑んだ今年のニュル24時間耐久レースでは、安全性の向上ではなく別の目的でアイサイトが試験的に活用されたという話も聞く。それは各ポストで振られる旗を認識し、その情報をモニターに表示するということ。ドライバーに注意を促し、コースコンディションをより確実に伝えるためにアイサイトが使われたようだ。
この機能はサーキット走行を楽しむユーザーに歓迎されるだろうし、既存のシステムのまま、おそらくプログラミングの変更だけで実現できそうな点も注目に値する。
「今後、さらにアイサイトの機能が増えて精度も高まっていった時にどうなのか? ということは確かに考えますけど、今まで新しい技術やパーツが出てきても、それに対応してきたのがチューニング業界。突破口は必ず見つかると思います」。
武田さんは力強い口調で、そう締め括ってくれた。
●取材協力:オートプロデュースA3 大阪府岸和田市稲葉町216-5 TEL:072-479-2760
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