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意のままに操る楽しさを追求したニスモコンプリートの原点
2.8L仕様を正当化させたBCNR33改
ニスモ400R。BCNR33型GT-Rのデビューから約1年後となる1996年、ニスモ渾身のコンプリートカーにその名は与えられた。
心臓部には400R専用に開発されたコンプリートエンジン「RB-X GT2」を搭載。N1ブロックをベースに、日産工機(REINIK)製の鍛造87φピストン、コンロッド、77.7mmストロークのクランクを導入し、排気量を2771ccまでスープアップ。そこに小型のN1メタルタービン&強化アクチュエーターをドッキングすることで、車名の由来でもある400ps(最大ブースト圧1.1キロ)を発揮した。
当時のBCNR33チューニング事情を思い起こすと、BNR32チューニングとオーバーラップする部分が多かったため、600psを超えるようなハイチューンスペックもそれほど珍しい存在ではなかった。
では、なぜそんな時代にニスモはあえて400psのコンプリートカーを出したのか? その答えは400Rの開発コンセプトでもある“意のままに操る楽しさ”を追求しつつ、メーカー基準の耐久性を確保するためには排気量アップが不可欠だったからに他ならない。
ただし、このチューニング手法は90年代当時、極めて異例だったことも覚えている。RB26DETTの排気量アップは、ビッグタービンと組み合わせながら600ps~800psオーバーを狙うような場合に行う、究極的アプローチとして認識されていたからだ。
純正タービンでも実現できる400psという出力のために排気量アップを敢行するという概念はなく、だからこそ400Rは意外性をもってユーザーに受け入れられた。そして「ブーストアップによって絞り出す400ps」と「排気量の拡大によって湧き上がる400ps」の違いに誰もが驚いたのだ。
マフラーは排気効率を最大限まで高めつつ、最低地上高を確保するためにデュアルタイプの構造。チタン製でテールエンドには400Rのロゴが確認できる。
足回りは、ビルシュタイン・エナペタル製のダンパーとローダウンスプリング(F7kg/mm R8kg/mm)のコンビでセットアップ。ブッシュ類はサスペンションに入力される負荷に対して、リニアに足を動かすことを目的に強化品へと変更されている。
ホイールは鍛造3ピース構造のLM-GT1。サイズは10J×18で、グループAやル・マンでの実績を持つ高強度な素材と形状、ブレーキ冷却性能を兼ね備えた高性能モデルだ。
エクステリアも専用パーツのオンパレードだ。片側25mmワイドのオーバーフェンダーを軸に、カーボン製のボンネットや可変式ダブルウイング、前後バンパーなど、当時のGT500マシンを彷彿とさせる400R専用品でコンプリート。
大容量インタークーラーや空冷式のオイルクーラーもニスモ400Rならではの装備だ。グリルセンターのエンブレムも400R専用品となる。
室内は、メーターパネル、ステアリング、チタンシフトノブ、3連メーター、リクライニングバケット、シートフロアマットなど、至るところに専用パーツが奢られた。
メーターは320km/h&1万1000rpmフルスケール仕様で、「NISMO」と「400R」のロゴが誇らしげに刻まれる。
ニスモ400Rは、意のままに操る楽しさを追求したニスモコンプリートの原点であり、パワーチューンが激化していた90年代のチューニングシーンに一石を投じた作品でもあった。だからこそ多くのファンを魅了し、伝説になったのだ。
ちなみに、今回の撮影車両はGT-Rチューニングの名門“マインズ”でメンテナンスを受けているオーナーカーで、シリアルナンバーは038番。400Rは99台限定の受注生産モデルだったが、実際の販売台数は50台前後だったという。
現在、ニスモ400Rの価値は2000万円オーバーと言われている。それが適正かどうかは分からないが、野放図に贅沢を満喫した30年前に、たっぷり時間とお金を掛けて開発されたニスモ400Rの魅力は褪せるどころか、今、ますます輝いているようにも思う。
●取材協力:マインズ 神奈川県横須賀市林5-7-25 TEL:046-857-3313
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