MCR代表・小林真一が語る「GR86&BRZチューンの現在地」

中古のZ#6ベースよりもZ#8のライトチューンがお勧め!?

ノーマルの良さを引き出すベテランチューナーの調律術!

『頭文字D』で大ブレイクを果たした“AE86=ハチロク”と同じ車名を付けたことから、10年前に初代が登場した時にはクルマ好きの間で賛否両論が噴出した“86”。

下火になったとは言え、その論争はいまだに燻り続けているみたいだが、ハチロクも86も、「速さよりも純粋にドライビングを楽しむFRスポーツ」という志に変わりはないし、トヨタの思惑としては、そんな共通イメージを持たせるために、あえて“86”という車名を与えたのだとも思う。

そこで小林さんが切り出す。「今の国産車のラインナップを見ると、新旧86はスポーツカーの入門編みたいな位置付けでしょ。アクセルワークでコントロールするFRならではの走りを体感したり、速く走るためのドライビングをコツコツ練習したりするには打ってつけの1台。そこはZN6でもZN8でも大きく変わらないと思うんだよね」。

MCRには、仲間同士で耐久レース参戦を楽しんでいるZN6オーナーがいれば、富士チャンピオンレースシリーズ(富士86BRZチャレンジカップ)を戦っているZN8オーナーもいる。もちろん、彼らのマシンの面倒を見るのと並行して、かつてはZN6、今はZN8のデモカーを抱え、各種データを取りながら地道にチューニングパーツの開発テストを行なっていることは言うまでもない。

「絶対的な速さを求めるなら、当然GT-Rに敵うわけがない。ただ、ノーマルでもそこそこ走ってくれてタイムも刻めるのがZN6でありZN8なんだよね。例えば、富士チャンピオンレースを走ってるZN8はナンバー付きの完全ストリート仕様で1分58秒台をマーク。気温が下がる冬場なら、恐らく57秒台に入ってくると思う。実はこのタイムって、一般レベルのドライバーがGT-Rを走らせた時のタイムとほとんど変わらないのよ。そう考えると、なかなかのパフォーマンスでしょ」。

とはいえ、小林さんは闇雲にタイムを追い求めるような目標は一切掲げていない。なぜなら、冒頭でも言っていたように、「新旧86はスポーツカー入門編」と考えているからだ。

「もしタイムだけを求めるなら、GT-Rで走る方が遥かに手っ取り早い。新旧86をハードにチューニングするのを否定はしないけど、少なくともそれはMCRとして目指す方向でないことは確か。まずはノーマルの性能を引き出すことが先でしょ。それで、もし足りない部分があればチューニングで補っていく感じ。いずれにしろ、何でもかんでもパーツを付けたり交換したりするんじゃなくて、適度にイジるのが良いと思う」。

その考え方はZN8デモカーの内容を見れば明らかだ。エンジンはノーマルで、マフラー交換での排気系チューンを施している程度。足回りもいきなり車高調を組むのではなく、完成度が高いと言われる純正ダンパーを活かすため、GROWスポーツのローダウンスプリングをセットした初歩的な仕様に留めている。

「昔、純正バネをカットして、その後タナベH150を組んで…なんて時代があったでしょ? あの楽しさを味わってほしいという思いがあるよね。このセットだとノーマルに比べて接地性が若干悪くなって、勢い良く曲がった時にトラクションコントロールが効いたりするんだけど、デメリットに感じるのはそれくらい。全体的には良くまとまってると思うよ」。また、サーキット走行において、ノーマルでは物足りない部分の洗い出しがほぼ終わり、順次対策も施されている。

「走行会とかで時間枠一杯を楽しみたいなら、まず手を入れるのはエンジンオイルクーラー、デフ(LSD)、ブレーキの3点だね。オイルクーラーは空冷式に交換して油温の上昇を抑える。デフは1.5WAYか2WAY。高速コーナー進入時にリヤの挙動を安定させてオーバーステア傾向を抑え込む。ブレーキは前後エンドレスのモノブロック4ポットキャリパーとビッグローターを装着。これはローター温度を抑えるのが一番の目的ね。ちなみに、減速Gそのものは純正キャリパーでパッド交換したのと変わらないから、ブレーキングポイントを奥に持っていけるわけじゃない。つまり、絶対的な制動性能を高めるというより、ブレーキシステムの負荷を抑えて寿命を延ばしたり、ローターを長持ちさせたりするための手直しだね」。

純正ブレーキラインの途中に追加された液圧センサー。4輪それぞれに装着され、液圧の変化を100分の1秒単位でロギングする。「フィーリングだけでなくデータも大事。ブレーキパッドの開発やテストに役立ってるよ」と小林さん。

センターコンソールにセットされるのはミッション用とデフ用のデジタル式油温計。本来はバイク用のためコンパクトなサイズで、設定温度を超えると文字盤が赤く光って警告するなど、高い機能性も兼ね備えている。

ホイールはBBS RE-V7。MCRでは剛性と精度の高さからBBS製ホイールを強く推す。組み合わされるタイヤは、グリップ力や耐摩耗性、静粛性などが高次元でバランスした、225/40R18サイズのミシュランパイロットスポーツ4S。

リヤデフカバーはオイル容量700ccアップのトラスト製に交換。小林さんいわく、「富士10周ならこれで十分。デフクーラーまでは不要」。また、LSDはクスコタイプMZのMCRスペシャル、マフラーはフジツボA-RMが装着される。

ユーザー車両のZN6を抱えながら、同時進行でZN8デモカーでも精力的に走り込みを続けるのがMCRの現状であり、両車の違いも十分に理解している。これからクルマを手に入れ、走りやチューニングを楽しみたい未来のオーナーに向けて、小林さんはZN6とZN8、どちらを勧めるのだろうか。

「ZN6の後期型を中古車で買おうとすると最低200万円、年式が新しければ300万円以上。だったら、俺は新車でのZN8購入を勧めるね。SZなら乗り出し340万円、RZでも370万円くらい。中古のZN6後期型との価格差を考えると、決して手が届かないわけじゃないから」と小林さんは言う。

「あとはクルマとしての完成度。ZN8はリヤ周りを中心にシャシー性能が格段に良くなってるし、エンジンだって2.4Lでしょ。つくづく思うんだけど、やっぱり排気量400ccの差というのは、そう簡単には埋められないくらい大きいよ。ベースとしてのポテンシャルは明らかにZN8が上回ってる。それに、純正パーツにしたって新しいクルマほど良くなってるからさ。ただ、一つだけ付け加えておきたいのは、これから買うならZN8をお勧めしたいという話であって、すでにZN6に乗っているなら、それを自分好みにイジっていく方が良いってこと。走りやドライビングの楽しさは、そう大きく変わらないからね」。

●取材協力:MCR 千葉県柏市大青田713-2 TEL:04-7199-2845

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