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愛情を注ぎ込まれて蘇ったチューンドTYPE.1
運命の再会を機に再び乗ることを決意させた魔性のセダン
経年の劣化。長年の使用によるダメージ。気候や風土による腐食。クルマをあくまでも道具として考えるなら、こういった状態になると捨てられてしまう運命にある。しかし、それだけでは語れない魅力もクルマには隠されている。
レストレーション。修復というこの言葉は、ダメージを負ったクルマに新車当時の輝きを取り戻すための作業。愛車を手に入れた時の喜びと感動を自分自身も取り戻し、この先も楽しみ続けるためのプロセスなのだ。
日本仕様にて生産ラインを出た1台のTYPE1(1967年式)は、最初のオーナーを栃木県で迎えることになった。当時、新車でVWを購入するほどのオーナーである。よほど社会的地位のあった人物だったと推測されるが、今となっては詳細不明の履歴である。
その後、TYPE1はふたり目のオーナーを迎える。同じ地元の陸運局に務める人物だった。レストアをしようとしていたものの、諸事情によって途中で断念。そこで出会ったのが現在のオーナーである。
初めて手に入れたTYPE1は、当時主流となっていたモールレスの6ボルトルックへと変身させ、エンジンにも手を加えるほどその魅力に取り憑かれ、ついには空冷VWの専門店を開業するまでになった。
しかし、お店を軌道に乗せるためにやむなく売却。悲しくも初めてのVWは自分の元を去っていき、その後は何人かのオーナーを経たが消息は途切れ、その記憶も脳裏からも消えようとさえしていた。
ところが、それから10年ほどの歳月が流れたある日、ひとりの客が白いTYPE1でやってくる。買い取りの相談だった。だが、そこにあるTYPE1を見てすぐに気づく。自分にとって初めてのVWだったあのTYPE1であることを。
その場で買い取りを決め、久しぶりの再会に胸を躍らせていたが、あまりにも無惨な姿で帰ってきたかつての相棒を見て決意する。『もう一度乗ろう』と。
フルレストアは6年に渡って行われた。元通りの姿に戻すという方向性もあったが、自らがドラッグレースによるノウハウを持っているために、それを活かしながら現代の交通事情に適合させたモディファイを与えたのだ。
エンジンはドラッグレースの経験を活かしたアイディアを投入。その機能を確実に足へと伝えるトランスミッションは、ノーマルの4速からハイパフォーマンスの5速へと変更される。
WEBER製デュアルキャブレターを完全に同調させるため、確実な動きを与えるためのリンケージはアルミ削り出しのジーンバーグ製を採用。素材特有の鈍い輝きがエンジンルームで目立っている。
オイルブリーザータワーはポルシェスタイルを装着。高回転域の多用によって発生する高圧によるオイル漏れを防ぐための装備だ。
運命の個体を再び操るために奢られたのは純正EMPI GTVステアリングホイールの新品。ヘッドライトスイッチの穴を利用してタコメーターステーを装着したため、そのスイッチはダッシュボード下に移動。
シートはすべて’65年式用タイプの縫製パターンであるソルト&ペッパーで張り替える。フロント二座席のサイドについているフレームガードなど、抜かりなくセットしているあたりも好印象。
交換搭載した5速のトランスミッションはトランスフォーム製だが、シフターはジーンバーグ製の5速用を装着。ダッシュボード下のメーター類はスピードウェル製を追加している。
ハイパフォーマンスVW派のリアビューでは定番ともいえる、スリット入りのカブリオレ用フードへの交換。だが、それを単体で探すとなると恐らく大変な労力を強いられるはず。
この年式からヘッドライトが垂直に立たされたが、後の年式にも一切確認できないのがこのヘッドライトリム、通称「ヘラリム」。HELLAとSB12の刻印がエンスーのハートをくすぐる。
FLAT4製BRMホイールはマググレータイプを元に、細かいマスキング作業の末にディッシュ面だけをグレーに塗装した。サイズはフロント5.5J、リヤ6.5J。ボディカラーとの相性も最適。
ボディは後世に残るほどの復元を行い、駆動および制動系は一切の妥協を許さない最高の機能を盛り込んだ。
真っ直ぐ走り、しっかり曲がり、確実に止まるという、当然の動作をさらに究極へと導くために。運命を装いながら、こうなることを望んでいたのはTYPE1だったのかもしれない。
●取材協力:バグスポット 栃木県小山市中久喜377-1 TEL:0285-25-0500
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