「これがGT-R開発者の愛機だ!」日産ブランドアンバサダー田村宏志のBNR32に迫る【東京オートサロン2024】

ノーマルルックの外装に秘める300km/hオーバーのポテンシャル

個性的なアイディアの原点はフルチューンBNR32だった!?

数々のレア車&リアルチューンドが並んだ“クルウチ”ブースで、一際異彩を放っていた展示車両がある。日産ブランドアンバサダーとして活躍する田村宏志氏のBNR32だ。

「このクルマは1989年の10月登録のワンオーナー車。デビュー当時のBNR32人気は半端じゃなく、お客様第一の製造と納車が進められていたから、社員は購入できなかったんだ。だけど、たまたま僕が紹介したお客さんが諸事情で納車直前にキャンセル。その責任を取るカタチで自分の手元にきたのがこの個体なんです」とは田村さん。

それまでチューンドFC3Sで走り込んでいた田村さん。ロータリーとは全く異なるBNR32の特性を把握すべく、納車から半年間はフルノーマルの状態を維持し、マシンのポテンシャルチェックを進めた。その後、リミッターカット→ブーストアップ…と、徐々にチューニングを進めたという。

ノーマルエンジン&ノーマルタービンに拘ってマシンメイクを進めるも、最高速290m/hの壁に直面。そして1990年代半ば、ついにエンジン本体やタービン交換といったハードチューンに着手することとなった。

エンジンは名門“ペントルーフ”が製作を担当。腰下にはN1ブロックを使い、グループA用の鍛造ピストンを組み合わせて2.6Lのまま強化。その他、ウォータージャケットのエア抜きホール加工等、マニアックなモディファイが行われている。

そこに、カットバック加工やポップアップバルブに手を入れたルマンタービン「NISMO RR581」をドッキングし、低回転から高回転まで弾ける600ps仕様を構築。現仕様と多少の違いはあるものの、1990年代後半の谷田部最高速テストで314.5km/hという記録をマークしたと聞けば、そのポテンシャルの高さが分かるはずだ。

エアクリーナーボックスは純正ベースに、ペントルーフが製作した加工品を使用。これは「吸入空気の密度を安定化させるためには純正ボックスを用いるのがベスト」という判断から。エアクリーナーボックスはウォッシャータンク側にダクトを追加して吸入量を増やしているが、このアイディアは田村さんの愛車から派生し、BCNR33&BNR34のN1車両にも採用されている。

マフラーにも拘りが満載。素材には、バルブやポンプ機器を手掛けるメーカー“オサメ工業”が扱う乳酸菌飲料工場向けのステンレスパイプを使っているのだが、「当時のステンレスパイプは表面こそツルツルに処理されているけど、裏側は粗いままで、それが排気抵抗になっているのは明らかだった。そんな時に、乳酸菌飲料を扱う工場では内側まで処理されたステンレスパイプが使われているという情報を得て、製作を依頼したんだ」と田村さん。

マフラーの基本的な図面は田村さんが起こし、マフラーベースをオサメ工業が製作。そして、フジイダイナミクスの故・藤井さんやABR細木エンジニアリングの細木さんといった面々の力を借り、最終仕上げを行って車両に装着された。完全なワンオフメイドだが、JASMAの認証まで取得した車検対応品というから恐れ入る。

足回りは、ペントルーフのオリジナル車高調をベースにNEKOコーポレーションが手を加えたスペシャルでセットアップ。ニスモから販売されているサスペンションリンクと強化ブッシュがフルで装着されている他、ナイトペイジャー製ピロボールテンションロッドなども備える。

ブレーキはフロントキャリパーがBNR32のN1耐久マシン用ブレンボキャリパーで、リヤはキャリパーがBNR34純正ブレンボ&ローターがN1仕様車用を装着。ホイールはBNR34純正で、タイヤはダンロップのディレッツァZ3(265/35−18)を合わせる。

ミッションはBNR34純正のゲトラグ6速を搭載。純正ファイナル(4.111)ではローギヤード過ぎるため、BNR34のサスメンバーを移植した上でニスモ3.7キット(BNR34用)に変更している。

クラッチはニスモのカッパーミックスツインで、クラッチレリーズシリンダーは純正を拡大加工してレガシィB4純正品の中身をスワップ。「レリーズシリンダーの加工はクラッチの踏み代を増やして、半クラ領域を多めに取るのが目的。その方が街乗りでも扱いやすいからね。色んな車種を試した結果、R32シリンダーに小加工で収まるサイズがB4純正だったんだよ」とのこと。

インテリアは可能な限り純正をキープ。とても製造から35年が経過した車両とは思えないミントコンディションだ。

グローブボックスを開けると、トラストの60φ追加メーター(左から排気温・油温・水温・ブースト)が顔を出す。その上の赤いランプはPXエンジニアリングが製作した警告灯で、トランスファー、ミッション、リヤデフ、フロントデフ、排気温、油温、水温それぞれが規定温度に達した場合に点灯するワーニングシステムだ。

「クルマを走らせる上で正確な温度を知るのは重要だけど、正直助手席側にあると見づらい。それをスマートに管理できるように作ったのが、BNR34純正のマルチファンクションメーターなんだよ」と田村さん。

メインメーターも基本的には純正となるが、スピードメーターは300km/hスケールの試作品を装着。最高速仕様車らしい作り込みだが、あくまで純正ルックを装うのが田村さんの美学だ。

「R33〜R35も本当に良いクルマだよ。だけど、仕事で携わったクルマとプライベートで情熱を注ぎ込んできたクルマは違う。僕にとってはBNR32がベストの存在なんだ」。

常に“湾岸”のイメージが付きまとう田村さんだが、あくまでその点に関してはノーコメントを貫く。とはいえ、彼のクリエイティブなアイディアの原点となっているのは、このBNR32でありストリートであることは明白だ。

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