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ヤマハFJ1200のエンジンを積んだ快速Nコロ!
レブリミット1万2000rpmの衝撃
自宅のガレージでイチから作り上げたマシンをサーキットに持ち込み、思う存分レースを楽しむ。それは多くのクルマ好きが憧れる究極のホビーと言えるだろう。ボブ・クレミーは、そんな贅沢な遊びを実際に楽しんでいる一人のプライベーターだ。
南カリフォルニアの閑静な住宅街にある自宅には、5〜6台のクルマが収容できるガレージを構え、サンドブラスターなど本格的な機材も完備。過去に参加したレースやカーショーで獲得したトロフィーなど、記念の品もたくさん飾られている。
これまでも数々のガレージビルドを完成させてきたボブが、今最も手塩にかけているのがホンダのN600だ。チューニングカーフリークには馴染みの薄い車種だと思うが、ホンダが60〜70年代に生産していた軽自動車、N360は知っている人も多いだろう。当時、アメリカにはN360のボディに598ccの空冷2気筒エンジンを搭載したN600が輸入されていた。
そのN600をベースにリアルレーシングカーを作るというプランを立てたボブ。載せ換えに選んだエンジンは、なんとヤマハの海外向け大型バイクである、FJ1200に搭載されていた1.2Lの直4DOHCだった。
元々、130psという当時の二輪車としては破格のパワーを誇ったFJ1200だが、ボブはそのエンジンの排気量を1188ccから1250ccにまでボアアップ。最高出力177ps、レッドゾーンは1万2500rpmという超高回転型へと仕立て上げたのである。
当然ながら載せ換えには困難な作業を伴うが、経験豊富なボブはシャーシをワンオフで製作。本来は直列2気筒を横置きするエンジンルーム内にパイプフレームを拵え、直列4気筒エンジンを縦置きに搭載した。
エンジン本体はボアアップの他に、ピストン、カムシャフト、バルブなどを強化品へとスイッチ。ミクニ製のレーシングキャブレターにはITGのエアフィルターを装着。点火系にはDynatekのスタンドアローンイグニッションを使用している。
ボディメイクも凄まじい。リヤアクスル用のサブフレームを製作した上で、トランクルーム内にはレーシングスペックの燃料タンクを搭載しているのだ。
ボブにとって永遠のアイドルと呼べるクルマが、世界初の市販型ミッドシップスポーツカーと言われるフランスの『マトラ・ジェット』。その設計に倣い、コンパクトで軽量なボディをベースに、高出力化とマスの集中化を図るのがボブの流儀だ。
エンジン付属のギヤボックスから取り出された駆動力は、車体右側に通したプロペラシャフトを介し、KAAZ製LSDを内蔵したセリカ用リヤデフへと伝わってトラクションを生み出す。室内のレバー操作で回転方向を切り換えられるため、二輪のエンジンを載せているにも関わらずバックも可能だ。
車体左側にはEXマニより後ろの排気経路を設け、キャビンのど真ん中にフルバケットシートを置くワンシーターレイアウトを採用。市販車のボディを流用しているとはいえ、ここまでくると本格的なレーシングカーと言って差し支えないだろう。
いずれにせよ、ボブがプロのファブリケーター並みの発想力とセンス、アイディアを具現化する高度な技術を備えていることは確かだ。
エクステリアメイクも独特だ。メタリックグリーンのペイントをはじめ、その仕上がりは極めてクリーン。車両総重量は1500ポンド(約680kg)と軽量で、前後重量配分は空車時で51:49、体重200ポンド(約90kg)のドライバーが乗車した時で48.5:51.5になるという。
ナンバープレートには“ET MINIS(イート・ミニ)”、つまり「ミニを食っちゃうぜ!」というメッセージが。
そして超ワイドフェンダーに収まるのは、NASCARなどに使用されることでも知られるバセットのレーシングスチールホイール。幅は8インチとワイドで、225/45R13のトーヨー・プロクセスR888を組み合せる。レースだけでなくオートクロス(=ジムカーナ)でも戦闘力を発揮する仕上げだ。
自らクリエイトしたレーシングカーでサーキットを走ることを何よりの楽しみとしているボブ。倍以上になった排気量にちなんで、愛車は“N1200”と名付けた。今日もどこかのサーキットで、N1200は小さなボディに似つかわしくない爆音を轟かせながら、図体だけのマッスルカーたちを蹴散らしていることだろう。
Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI