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「壁」を突き破るエンジンスワップ
270馬力の3.2L V6ユニットに換装して出力150%アップ!
アメリカのホンダ乗りの間で、沸々と盛り上がりを見せているのが、北米向けの中・大型車に搭載されてきたホンダのJ型V6エンジンを、シビックなどの小型車に載せ換えるエンジンスワップだ。
J型は日本人には馴染みの薄いエンジンだが、アメリカではアキュラのTLやRLなど、幅広い車種に採用されてきたポピュラーな存在。中古も手に入りやすく、ホンダ車向けのエンジンマウント類をリリースしているハスポートは、各車種用のJスワップ専用マウントを商品化しているほどだ。
“ちまちまチューニングするより簡単にパワー上がるべ!”という、あっけらかんとしたアメリカ的発想に基づくV6スワップは、彼の地のホンダフリークにとって一度は手を伸ばしてみたくなる禁断の果実なのである。
カリフォルニア州フリーモントのアレックス・メネンデスも、その果実をもぎ取り、V6スワップを実現させた一人。ベースに選んだのは、1994年式のCD7型アコードクーペだ。
「その年代のホンダの2ドア車はみんな好きなんですが、人とは違うクルマが欲しかったので、王道のシビックやインテグラではなく、あえてアコードクーペを選びました。もとはノンVTECのF22型直4とATが載っていたんですが、最初からV6に載せ換えるつもりだったので気にせず買いました(笑)」。
そう語るアレックスは、以前にも同じCD7型アコードクーペに日本仕様のH22A型直4VTECをスワップした経験を積んでいた。J型V6への換装は、より高いレベルのエンジンスワップに挑戦したいという気持ちの表れでもあったのだ。
ちなみにCD型アコードは、北米仕様のみ当時からV6モデルが存在していた。C27A型というV6エンジンがセダンに設定され、クリアランスを確保するため4気筒モデルより高いボンネットとフェンダーが装備されていたという。
ある意味、V6が物理的に搭載可能なことは最初から証明されていたとも言えるが、実際にアレックスがJ32A型V6と6速MTを移植しようと試みた際、寸法を測ってみると、なんと純正アクスルのままでもピタリと収まることが判明。天地高はともかく、少なくともドライブシャフトに関しては思いのほかハードルが低いことを実感したそうだ。
なお、換装にあたってはハスポートのエンジンスワップ専用マウント3点で支持。クロスメンバーはイノベーティブマウント製のトラクションバーキットに交換し、クリアランスの拡大と剛性の確保を両立した。
パワーパッケージは体感重視のメイキングだ。V8用のホーリー製EFIインテークマニホールドを6気筒に合わせてショート化し、スカンク2の90φスロットルボディと組み合わせた自然吸気としている。排気系はXS PowerのEXマニからMagnaflowのフルストレートマフラーへと繋がるレイアウトだ。
その他、スピードファクトリーレーシングのラジエターは、コアサポート内側に隠すように装着するタックド処理を敢行。エアロモーティブの燃料レギュレーター、ファットフォーカスタム製ストラットバーも備える。
一方の足回りは、元々4穴の114.3というPCD設定のため、ホイールの選択肢が少ないアコードクーペ。アレックスはプレリュードから5穴ハブを移植し、9.0J×17+22のエンケイRPF1を装着した。
車高調は長期保存してあった別のクルマのトランクにたまたま入っていた、スタンスサスペンション製のFD3S用を加工して装着する。「高い商品みたいですけど、バネレートが自分のアコードクーペにちょうど良かったのでラッキーでした(笑)」とアレックス。
前後ダブルウィッシュボーンのコントロールアームは、フロントがスカンク2製、リヤがファットフォーカスタム製に交換されている。
エンケイRPF1から覗くフロントブレーキは、キャリパーがアキュラRLでローターが日産350Z。純正流用術も活用しているのだ。
エクステリアは、フロントは日本仕様のヘッドライト、Gスクエアのグリル、グレッディのカーボンリップでドレスアップ。リヤは欧州仕様のトランクフードにSiR用スポイラーを取り付けている。ボディはBMW純正色のラグナセカブルーでペイント済みだ。
インテリアのメイキングも凄まじいレベルだ。メーターはS2000純正のデジタル式を流用。定番と言えば定番だが、ちゃんと機能させるためにじっくり時間をかけて配線作業を実施している。スピードメーターと燃料計を働かせるKチューンド製コンバーターも使用した。いざとなったらアコードの純正メーターに戻せるようジャンパーハーネスも自作してあるという。
ステアリングはヴェルテックスで、シートにはランエボ8純正のレカロを装備。換装した6速MTはKチューンドのシフターで操作する。
「僕の究極の目標は、ショーカーでもあり、レースカーでもあり、ストリートカーでもある、全てのコンビネーションを兼ね備えたクルマを作ることです。難しいことは分かっていますが、だからこそやり甲斐があります」。
常識の壁を恐れないグラスルーツな魂と、日々の精進で鍛えた技術を武器に、アレックスはこれからも理想のアコードクーペを追求していく。
Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI