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マシンの製作目的はまさかの人材育成だった!?
ダイゴ流のノウハウを注ぎ込んだ競技仕様GT-R
日本が世界に誇るドリフトドライバーであり、近年ではカスタムビルダーとしても手腕を振るう“ファットファイブレーシング”の斎藤太吾選手。車両製作に関しては、ディレクションはもちろん自らの手でパイプ類の曲げ加工や溶接までこなすほどだ。
そんな斎藤選手が2021年に完成させたのが、今回紹介するR32型スカイラインGT-Rである。これまでのマシン遍歴からしても、なぜにR32?と周囲は驚きを隠せない。そこで製作の経緯を聞いたのところ、意外な答えが返ってきた。
「元々は、お店に放置してあったS15シルビアのハコ替えをする予定から始まったんですけど、お店で働く従業員のトレーニングも兼ねて、別にストックしてあったGT-Rのボディに載せ替えようという話に発展したんです。車高調ももったいないから、じゃあフレーム作って付けちゃおうとか、どうせフレーム作るんだったらエンジンの搭載位置も下げちゃおうって感じで、できることをスタッフに教えながら作っていったら最終的にこうなったって感じですね(笑)」。
細部のメイキングは強烈だ。エンジンはBCのストローカーキットを組んだ3.4L仕様の2JZ-GTEを、室内側にセットバックして搭載。駆動系は、HGTの5速シーケンシャル→カスタムメイドのカーボン製プロペラシャフト→クスコのLSDを内蔵したR200デフケース→純正ドライブシャフトという組み合わせにより、フロントミッドシップのリヤドライブを実現している。
タービンはレスポンスに優れたHKSのGTIII-4Rで、排気は右フロントフェンダーから覗くフルストレートパイプから行われている。ピークパワーは800psを想定している。
リヤにはメルセデス純正の電動油圧パワーステアリングポンプの他、電動ウォーターポンプを利用したリヤラジエターも備え、前後重量配分を最適化させている。この辺りのメイキングは、D1GP車両に限りなく近い。
エクステリアは、パンデム最新のR32 GT-Rワイドボディキットv1.5を装着。v1.0と比べてフロントリップスポイラーやリヤウイングなどの形状が変わっており、よりレーシーな雰囲気が表現されている。バルクヘッドの作り直しに伴って交換されたフロントウインドウは、軽量化も実現するためアクリル製に変更済みだ。
ホイールはワークエモーションCR 3ピース(F9.5J R10.5J)を装着。ブラックディスクとブロンズリムを組み合わせ、ワイドフェンダーにベストマッチな深リムを実現させている。サスペンションはDG-5の車高調とMAXドリフトの調整式アームを使用。ブレーキはノーマルだが、室内側にウィルウッドの油圧ハンドブレーキを備え、ドリフトのための操縦環境を整えている。
BRIDEのフルバケットシートを一番後ろまで下げられる位置を起点とし、足の届く場所にチルトンのペダルアッセンブリーを装着。それによりエンジンの搭載位置が決定し、エンジンを支えるフレームと連結する形で室内側にもロールケージを張り巡らせている。UCF30型セルシオ用のステアリングギヤボックスを左右逆に取り付けることで、左ハンドル化を実現していることもトピックだ。
「左ハンドル仕様に深い意味はなくて、こういう作り方もあるよというのを教えることが目的でした。クルマの使い道が目的だったわけじゃなくて、クルマを作ること自体が目的だったんです」と斎藤選手。
メタルパネルで製作されたセンターコンソールには、レースパックのデジタルダッシュと無骨なトグルスイッチをレイアウトし、エンジンを制御するF-CON Vプロも取り付けられている。
「忙しくてここ最近は触れてないですが、全開で走らせてみたいですね」。常に最先端でオンリーワンのマシンメイクを目指す斎藤選手。その横顔には、純粋な好奇心が浮かんでいた。
Photo:Akio HIRANO TEXT:Hideo KOBAYASHI
●取材協力:ファットファイブレーシング 埼玉県所沢市岩岡町681-4
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