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こんなのを世に送り出したスズキ上層部の英断に拍手!!
2人乗りと割り切れば実用性は意外に高い!
初代エスクードの3ドアモデルをベースに設計され、1995年10月に登場したX-90。モノコックボディではなく、強固なラダーフレームにボディを載せ、駆動方式もエンジン縦置きのFRを基本にトランスファーを備えたパートタイム式4WDが採用されたことで、コミカルな見た目とは裏腹に、本格的なクロカン4WDとして高い悪路走破性を兼ね備えていた。
エンジンはボアφ75.0×ストローク90.0mmのロングストローク型となる1.6L直4SOHCのG16Aを搭載。シングルカムなのに気筒あたり4バルブという凝った作りにも関わらず、スペック的には100ps/14.0kgmなので、言ってみれば実用エンジンだ。ミッションは5速MTと4速ATの2種類を用意。
そんなX-90で理解に苦しむのは、クルマの基本コンセプトを否定するに等しいのだが、「なぜSUVなのに2シーターのTバールーフ車?」という点。スズキは新ジャンルを切り拓きたかったのかもしれないが、バブル景気が弾けたご時世、それはチャレンジャーすぎる…というのは誰でも想像がつく。
結果、生産期間約2年、販売台数1300台弱と悲惨極まりない状況で、「もしや期間限定モデルだった!?」と勘違いされてもおかしくないほどの内容だ。が、だからこそ今、スズキを代表するレア車の地位を確立できたわけで…。
外観から見ていく。2200mmというホイールベースが恐ろしく短く、全長も3710mmしかないため、まず寸詰まった感がハンパじゃない。そこに1550mmの全高である。それはもう、クルマとしてのディメンジョンが破綻していると言っても差し支えないレベルだ。
Tバールーフも特徴のひとつ。外すと開放感は抜群! これこそX-90の醍醐味だ。ディフレクターなどは装備されていないが、サイドウインドウを上げておけば、走行中、車内への風の巻き込みもほとんど気にならない。
独立したトランクスペースを持つ3ボックススタイル。が、ラゲッジスペースは十分な奥行に対して絶対的な深さが不足している。スペアタイヤが格納されているため、フロア面も凸凹しているし…。外したTバールーフを収めると、荷物を入れるスペースはミニマムだ。
マフラーエンドが見当たらない…と思って覗き込むと、リヤバンバー下の左端をくり抜いたところからテールエンドが顔を出していた。カッコ良く言えばスズキの拘り、悪く言えば無駄な手間のかけすぎ、である。ただし、マニアな方々はこういうところを見て喜ぶはず。さらに、ファニーな顔つきを生み出す異形ヘッドライト、急な角度で立ち上がったリヤウインドウなど、見れば見るほど鼓動が高鳴り、息も荒くしてしまう。
気を取り直して内装へ。まず、シートとドアトリムに同じデザインの生地を配してポップなイメージを演出。Tバールーフと合わせて、明るく開放的な室内空間を生み出している。運転席はアップライトなポジション。サイドサポートがしっかりしてて、ホールド性も悪くない。が、リヤウインドウが背もたれの直後に迫っているため、ほとんどリクライニングできないのが辛いところ。
インパネ周りは極めて乗用車的。調べてみたところ、初代エスクードと全く同じデザインのようだ。さすがに専用品を奢るほどの余裕はなかったということか。
また、スピードメーターは160km/hフルスケール、タコメーターは6500rpmからレッドゾーンだが、そこまで回すにはそれなりの根性が要求される。
その一方で、ATセレクターレバーの後方、サイドブレーキ脇に設けられたトランスファーレバーが本格的なクロカン4WDであることを静かに物語る。通常は2WD(FR)状態の2H、滑りやすい路面などで駆動力が必要な時は4H、本格的なオフロード走行や緊急脱出など大きな駆動力を得る時には4Lを使い分ける。
また、パートタイム式4WDと並んで、生まれは本格的クロカン4駆であることを物語るのがラダーフレーム。ただし、最低地上高は初代エスクードの200mmに対して、シティラナバウト的なイメージも持たせたかったのか、X-90では160mmの設定となっている。
そしてお待ちかねの試乗タイム。アイポイントの高さとコンパクトなボディによって、運転席からの見晴し&見切りの良さは抜群。最小回転半径も4.9mとかなり頑張っているため、取り回しも非常に楽だ。
エンジンはもっさりした印象だが、アクセル全開で飛ばすようなクルマではないため、気になるレベルではない。3000rpmも回して乗れば、気分的には「もうイイや(笑)」という感じだ。4速60km/hで1800rpm、これくらいでのんびりと走るのが似合っている。
ハンドリングはオフロード走行を意識しているからか、中立付近の反応が鈍くステアリングギヤレシオもスロー。細かく回り込んだコーナーが連続するところでは、右に左にグルグルとステアリングを回さなければならないので、かなり忙しい。ただし、ショートホイールベースと軽めな車重のおかげで、舵が効き始めてからの身のこなしは軽快。逆に、これでハンドリングがクイックだとしたら、重心の高さも関係して急なステアリング操作によってはクルマが横転してしまう可能性もあるだろう。
ブレーキは少し心もとない。ブースター容量なのかローター径とパッドの相性なのか分からないが、ペダル踏力に対する制動感が乏しいのだ。
「早い話、クルマの基本性能“走る・曲がる・止まる”がイマイチなんですよね」とオーナー。なるほど、確かにその通りだ。が、それも含めて魅力に思えてしまうくらい、X-90の“毒”というのは強烈だったりするのだ。
■SPECIFICATIONS(ベースグレード)
車両型式:LB11S
全長×全幅×全高:3710×1695×1550mm
ホイールベース:2200mm
トレッド(F/R):1425/1430mm
車両重量:1100kg
エンジン型式:G16A
エンジン形式:直4SOHC
ボア×ストローク:φ75.0×90.0mm
排気量:1590cc 圧縮比:9.5:1
最高出力:100ps/6000rpm
最大トルク:14.0kgm/4500rpm
トランスミッション:4速AT
サスペンション形式(F/R):ストラット/リジッド
ブレーキ(F/R):ディスク/ドラム
タイヤサイズ(F/R):195/65R15
PHOTO&TEXT:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)