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筑波1分フラット&ゼロヨン10秒台&最高速300キロの超性能!
3つの掲げた目標を達成するバランス重視のマシンメイク
「R32の頃は、とにかく首都高に夢中だったからね。そこで速けりゃいい、みたいな感じだった。そんな考え方が変わってきたのは、自分でショップを立ち上げたR33の時代だね」と語り始めたMCR小林代表。
一言でよく『ストリートチューン』と括られるが、現実にはゼロヨン、峠グリップ、ドリフト、首都高、湾岸最高速などのステージがあり、サーキットまで含めて、それぞれに適したチューニングが存在する。
「R33以降も首都高を走ってたけど、所詮ストリートだから湾岸にも走りに行ったし、当時、つくば学園都市で盛り上がってたゼロヨンにも顔を出した。あとはサーキットでのタイムアタックも、ね。そうなると負けるのは嫌だから、どのステージでも張り合いたくなるでしょ。だから、そういうクルマ作りを目指すようになったんだ」。
そこで示されたのが、“ゼロヨン10秒台、筑波1分切り、最高速300km/h”というテーマと、それを実現するマシンメイク。性格も、求められる性能も異なる3つのステージそれぞれに数値的な目標を掲げることで、ぼんやりしがちな『ストリートチューン』を具体的にイメージできるようにしたのだ。
「まず最高速。俺は“300km/h出れば良い”と思っていたんで、本気組の人達とは根本的に考え方が違ったよね。実際、条件が揃わなければ300km/h以上は難しいと思ってたし、むしろそこに到達するまでが勝負だと考えてた。筑波1分切りは20年前だと、それなりに高いハードルだった。今はタイヤの性能がすごく上がってるから、58秒台を目指す感覚に近いんじゃないかな」。
湾岸や筑波サーキットに比べると走りに行く機会が少なかったというゼロヨンは、当初9秒台が目標とされていた。
「とにかくパワーを出せばイケるだろ…と思ってたけど、そう簡単には10秒切りできないことが分かって。俺の腕の問題もあるんだけど、10秒4からタイムが伸びなかったのよ。ただ、タイヤも足回りのセッティングも、首都高を走ってた仕様から特に変更なし。キャンバーだってフロント3度半、リヤ2度半のままだったから、それを考えれば決して悪いタイムじゃないけど、ゼロヨンは想像してた以上に奥が深くて難しいと思ったのは確か。ちなみに最高速の時も、タイヤや足回りの仕様を変えることはなかったね」。
走るステージを絞り込み、そこに適したチューニングを施せば、確かに速さは向上する。チューニングカー乗りの間で“○○仕様”という呼び方が一般的になっているのは、そういうことだ。しかし、一つのステージに限定すると、それ以外のステージではなかなか通用しないのが現実だったりする。
エンジンや駆動系、足回りを複数のステージにマッチングさせる作業は、言い換えれば、高いレベルでの妥協点を見つけることに他ならない。「トータルバランスを考えたチューニング」とはよく耳にする言葉だが、MCR小林さんが仕上げたこのBNR34は、その好例と言える1台。各部のメイキングを見ていく。
エンジンは腰下にHKS2.8Lキットを組んで排気量アップ。3種類あるキットのうちクランクシャフトが超軽量フルカウンタータイプとなるSTEP ZEROを選び、推奨タービンとされるGT-SSをツインで組み合わせる。カムもHKS製でIN側256度、EX側264度をセット。レブリミットは8000rpmに抑えられるが、圧倒的なレスポンスを実現しながら、最大ブースト圧1.7キロ時に600psを発生する。
燃料系はインタンク式ポンプを2基掛けし、メインインジェクターはテストを兼ねてサード製850ccに交換。優れた霧化特性により、始動性も向上している。エンジン制御はLINKが担う。
ミッションは純正のゲトラグ6速MTのままだ。6速ギヤ比は0.793だが、MCRではJZA80スープラ純正の0.818に交換してロ―ギヤード化を敢行。ファイナルギヤも純正3.545に代えてニスモ製3.9(すでに絶版)を組み、加速性能を大幅に向上させている。ゼロヨンベストタイム10秒4が、その証だ。
また、5速から6速へのシフトアップ時にエンジン回転数のドロップも抑えられるなど、この組み合わせは最高速にも有利だったりする。6速で8000rpmまで回せば300km/hに到達する。
リヤデフはアクティブLSDを愛用。その理由については「リバンプストロークを十分に取って常に後輪が接地している状況を作れるなら、リヤデフは絶対にアクティブLSDの方が良い。必要な分だけ効いてくれるし、ECUでセッティングもできるからね」と小林代表。
車高調は、テインの商品の中でもスポーツ走行をメインに開発されたモノレーシング。スプリングはストリート前提でフロント10kg/mm、リヤ12kg/mmが組まれる。
「サーキットを本気で攻めるなら、フロント14kg/mm、リヤ16~18kg/mmあたりを選ぶけど、それだとストリートでは硬すぎて。バランス的にはこれくらいが好きかな」。
ブレーキは前後ともエンドレスレーシングモノ6キャリパーを装着。ローターはフロント370mm、リヤ355mmが組み合わされる。ベーン数が多く、ベーン空間も大きく取られているため、高い放熱性を誇るのが大きな特長だ。
調整式アームを除き、必要以上にサスペンションブッシュをピロボール化しない点にも注目。もちろん、ここにもMCR小林流のノウハウが隠されており「だって、レーシングカーじゃないんだから。それとスプリングレートを上げずに足の動きを抑えたい時、あえてゴムブッシュを捩れさせて使うこともあるから、セッティング要素の一つとして捉えてるよ」と教えてくれた。
挙動が安定しないということでキャンセルされるケースも多い中、4WSのスーパーHICASは活かしたまま。ステアリング操作初期に一瞬、後輪を逆位相させることで、タイトコーナーでのターンイン時に回頭性を高めてくれるというのがその理由。
ボンネット、フロントバンパー、リップスポイラー、リヤスポイラーガーニーフラップはいずれもニスモ製。リップスポイラーはアンダーカバーが一体式で、下面を窪ませることでダウンフォースを発生させ、高速走行時のフロントの浮き上がりを大幅に軽減する。その効果は140km/h付近から体感できるという。
また、リップ部下面には、路面との干渉を原因とした破損を防ぐための擦り板も装備。メーカーワークス系らしく、クオリティの高い仕上がりを見せる。
ホイールに関しても拘りを見せる。いわく「サーキットアタックとかなら話は別だけど、ストリートを走るチューニングカーでホイールに求められる一番の性能は、間違いなく剛性。決して軽さではないよね」とのこと。
好んで履いているのはBBS LMで、サイズは前後10.5J×19インセット22。タイヤは275/30サイズのミシュランパイロットスポーツ4Sを組み合わせる。
全ての言葉が熱を帯びている。そもそも、小林さんがここまで第二世代に拘る理由は何なのだろうか。
「速さではR35に勝てないし、楽しさはZ34の方が上。でもね、やっぱり第二世代は別格。本当のクルマ好きが作った感じがするし、ボディサイズやエンジンパフォーマンス、スタビリティなどトータルバランスが抜群に良い。それでいながらチューニング適応度も異常なほど高い。こんな市販車、世界中を見渡しても無いでしょ。一生乗り続けるだろうね」。
第二世代を研究し尽くしてきたトップチューナー・小林真一の手によるその造作は、速さと美しさ、そして先進性を追い求めた先にある、理屈を超えた何かが確実に存在していた。その何かとは、紛れもなく「真のある愛情」に他ならない。
●取材協力:MCR 千葉県柏市大青田713-2 TEL:04-7199-2845
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