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JMCヘッドを搭載するS30Z北米1号機が完成間近
オーナーの拘りが詰まったガレージビルド!
CNCの切削マシンや3Dプリンターの普及は、今や旧車のカスタマイズを楽しむガレージビルダーに新しい地平を開いたと言っていいだろう。カリフォルニア州ベイカーズフィールド在住のジョナサン・ホーキンスも、自宅のガレージで愛車の70年式ダットサン240Zをいじる際、3Dプリンターを駆使している。
一例を挙げると、MOCAL製の水冷式オイルクーラーをエンジンルーム内に取り付けるステーは、3Dプリンターでオイルクーラーの形状にフィットするよう製作。アルミ筐体のオイルクーラー自体がかっこいいので「魅せる」アイテムとしても機能させている。
一方、ジョナサンがクレバーなのは、何から何まで自作することに拘っているわけではないところ。削り出しを含め、お眼鏡に適う高品質なアフターパーツがあれば躊躇なく利用するし、他に腕の立つビルダーがいればピンポイントで製作を依頼することだって厭わない。
イギリスにあるプロアロイ・モータースポーツが製作したアルミ製の燃料タンクが象徴的だ。そもそも燃料タンクなんぞ目的に適えば何でも良いはずだし、下回りにあるので目立つものでもない。だが、ジョナサンの選球眼が見極めたタンクは、精密な溶接痕とブラッシュドの素地感が実にセクシー。隅々まで拘り、時間をかけて作っていることが如実に伝わってくる。
そして、旧車向けに開発されている最新アフターパーツは、何も欧米の会社に限らず、我々日本のメーカーだって負けてはいない。
エンジンはL28型直列6気筒に亀有のストローカークランクを仕込んだ3.1L仕様だが、シリンダーヘッドは日本の鋳造メーカーであるJMCが生産したスペシャルヘッドだ。
横浜市都筑区にあるカワサキ空冷Zの専門店PAMSが企画し、JMCが製造したヘッドは、L型チューンの老舗である兵庫県姫路市のプロショップナカガワが監修。本来は後加工で行なうヘッドチューニングの手法を設計段階から盛り込んであるので、ポン付けでパワーアップが実現できる代物だ。
22年2月に発売された時から旧車の世界では話題沸騰となり、初期ロットは早々に完売。ジョナサンはアメリカでJMCヘッドを搭載した最初のカスタマーなのだ。
55φのITB(インディペンデント・スロットル・ボディ)はイギリスのジェンビー製。スロットルの開閉を電動化するアクチュエーターも備わり、ドライブバイワイヤを実現している。アクセルペダルは350Z(Z33)の純正を流用。
ダフィー・マホニーという別のプライベートビルダーがカスタムメイドした削り出しのブラケットを使用し、R35純正のダイレクトイグニッションコイルを装着。
カスタムメイドのラジエターは前方にVマウント。シュラウド上部を覆う導風板もアルミシートから作った。XRPの2本のホースをまとめるホースバンドも3Dプリンターで製作。
削り出しのスワールポットはフロリダ州にあるエンジニアリング・エブリシング製、同じく削り出しのサーモスタットハウジングはカナダにあるプロチューナーZ製。世界中に拡散するCNCメーカーがガレージビルダーのこだわりに応える。
削り出しのオイルキャッチタンクは、オーストラリアにあるショーンズ・カスタム・アロイ製。
リヤサスペンションのコントロールアームはアペックス・エンジニアード製。デフケースの保持と剛性アップを両立するT3のマスタービュバーも備わる。ファイナル3.9のR200ロングノーズデフにはOS技研のスーパーロックLSDを内蔵。ビレットのデフカバーはプロチューナーZ製だ。強化型ドライブシャフトはZ Car Garageのオリジナル商品。
T3のステアリングラックを使用すると同時に、Z Power Steering製の電動パワステモーターも装着。ビレット削り出しのペダルは、カナダのロンリードライバー製だ。
レア物のRSワタナベFALCONステアリングを備えるインテリアも、ジョナサンが隅々までこだわって仕上げた空間。センターコンソールと足元のヒールプレートはメタルシートからワンオフで作ってある。
MoTeCのC127デジタルダッシュをマウントするオリジナルのメータークラスターを3Dプリンターで製作。MoTeCのキーパッドも美しくインストールしている。
3Dプリンター製のセンターパネルには、Restomod Airの風量、吹き出し口、温度の調整ダイヤルを装備。充電用のUSBソケットやバッテリーのアースケーブルまで用意されているのだから恐れ入る。
トランスミッションはエスコートのベルハウジングを使ってニスモの6速クロスミッションを搭載。上部のカバーも3Dプリンターで作った。ビレットシフターはロンリードライバー製。
クラシカルなシートは、テキサス州オースティンにあるGTSクラシックス製のバケットタイプ。助手席の後方にブライルのリチウムイオンバッテリーを装備。固定してあるステーを介して電流が流れるようにし、キルスイッチも備える。
ミラーは、日本のバイクショップであるマジカルレーシングのカーボンミラー。オレゴン州のMDマシンで製作したビレットのマウントを介して固定している。
ホイールはRSワタナベのRタイプで、8.0Jプラマイ0×15インチ。ブレーキはストップテックのハードウェアをベースとするZ Car Garageのビッグブレーキキットが組まれる。
エクステリアは、亀有のフロントスポイラーとリヤスポイラーを装着し、メタルで製作したフロントスポイラー上部を埋めるカバーとスプリッターも備える。ペイントカラーはフォード純正のミッドナイトワインだ。
足掛け5年に渡って製作が進められてきたプロジェクトも、ついに完成間近。ジョナサンが理想とする「ディセプティブ(見かけとは違う)」な、最新パーツとクラフトワークを行き渡らせた240Zが今、覚醒する。
Photo:Akio HIRANO Text:Hideo KOBAYASHI