目次
X1/9の寸法を崩さずフレームごと3S-GTEを移植!
試行錯誤の末に誕生した魔改造マシン
AW11を思わせるシルエットのこのクルマは、イタリア産のベルトーネX1/9。フィアットX1/9の製造・販売権を、製造者であったベルトーネが引き継ぎ生産を続けたモデルで、昭和時代、とくにスーパーカーブーム全盛期によく見られた身近な舶来スポーツカーの代表格だった。
そんな往年の名車をベースにした魔改造チューンドが今回の主役だ。フルリフレッシュと同時に各部の補強やワイドボディ化を敢行、さらに2代目MR2(SW20)の3S-GTEエンジンやサスペンションを移植して、現代でも通用するハイスペックとして仕上げられているのだ。
なお、ジムカーナ競技に参加するつもりで製作しているそうだが、エアコンまで備えたフル公認のストリート仕様という点も見逃せない。
メイキングを担当したのは千葉県にある“ハングアウト・カスタムス”。代表の山崎さんは元NATS(日本自動車大学校)の教員で、カスタマイズ課の学生にボディワークや公認作業などを指導してきた、筋金入りのカスタムビルダーだ。
知人が途中まで作業していたものを引き継いだそうだが、各部の造作に無理があったために大半をリメイク。とくにエンジンスワップの方法は「とりあえずX1/9のエンジンルームに3S-GTEを載せました」というノリだったため、剛性を確保したまま違和感なく3S-GTE化するための策を模索。その結果、SW20のエンジンルームをフレームごとX1/9に移植するという大胆な発想を思い付き、作業を進めていったという。
様々な苦労を経て完成した3S-GTE仕様のエンジンルームは、美しいの一言。本体内部やタービンは純正だが、ブーストアップチューンを敢行し、300psを手にしている。
エンジンマネージメントは、ドナーとなったSW20で使われていたトラストのeマネージ(サブコン)が担う。
排気管長を伸ばしてトルクを確保するために、リヤエンドでUターンするレイアウトが採用されたマフラーは完全なるワンオフ品。通常時は触媒がセットされたタイコを経由して排気が行われるが、競技時にはUターン路を通さない完全なるストレート仕様として使うそうだ。
サスペンションは、前後ともほぼSW20のシステム(ストラット式)を流用して構築。これはアフターパーツが手に入りやすいSW20用をベースとすることで、メンテナンスやチューニングの幅を広げることが目的。車高調はテインベースだ。
元々、X1/9の燃料タンクはリヤに設置されているが、前後の重量配分を改善するためにフロントトランク内へと移設。剛性アップを目的に、タワーバーは複雑なパイプワークでフロント周りを覆い尽くす。
室内には乗員保護とボディ剛性アップを狙ったダッシュ貫通式のロールケージをインストール。メインメーターは懐かしのスタックST8100だ。ミッショントンネル付近からステアリング脇まで伸びている棒は、サイドターン用の油圧サイドブレーキの操作レバーだ。
競技仕様ではあるものの、エアコン・パワステ・パワーウインドウといった快適装備は全て稼働するのも山崎さんの拘り。
エアコン操作パネルは軽トラック(ハイゼット)からの流用。12Vのシガーソケット電源などもセットされており、輸入クラシックカーベースとは思えないほどの快適性が担保されている。
ペダル類はオルガン式がセットされ、その奥には電動パワステのユニットが確認できる。ステアリングラックはホンダビート用を前後逆で組んでいるそうだ。
エクステリアの大部分はこの車両のためにカスタムメイド。トレッドを広げつつ5ナンバー枠を維持したいという思いから、車幅は規格ギリギリの1690mmで仕上げられている。
フロントフードにはラジエターコアを通過したヒートエアを排出するダクトが設けられ、エンジンルームにはシュノーケルでフレッシュエアが導かれる。
X1/9のアイデンティティのひとつでもあるリトラクタブル式ヘッドライトはもちろんキープ。
こうして作られたベルトーネX1/9は、スターダストファクトリーの協力を得て、ストリートチューンドとしては完璧な状態での公道デビューを遂げた。今後は、いよいよ競技参加に向けたセットアップを進めていくとのこと。日本とイタリアの混血チューンド、ジムカーナ場やサーキットで優雅に疾走するシーンを見られる日はそう遠くないだろう。
PHOTO:金子信敏
●取材協力:ハングアウト・カスタムス MAIL:hangout.customs@gmail.com