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エンジンとの相性は6速MTより確実に上だ
シフトチェンジに要する時間はコンマ2秒
日産というメーカーの枠だけに留まらず、日本を代表するスポーティカーであるスカイライン。現行型で13代目、60年以上もの歴史を持つクルマだけに熱心なファンが多く、それゆえ新型モデルが登場するとクルマ好きの間では決まって賛否両論が湧き起こり、お祭り騒ぎになるのが常だ。
中でも、名機RB26DETTを載せた最後の直6スカイライン、R34の後を受けたV35はルノーの軍門に下った日産によって、あろうことかZ33型フェアレディZとシャシーを共用し、直6に代えてV6エンジンが搭載されたことで、「こんなのスカイラインじゃない!」という悲鳴にも似た声がファンの間で上がったほどだ。
と、発売されるなり矢面に立たされたV35。「FM(フロントミッドシップ)パッケージで走りが良いですよ」と、いくら日産が失地挽回に躍起になったところでファンに響くことはなかった…。
天下のスカイラインにしてみれば、なんとも寂しい話だが、そんなV35にも「おおっ!?」と思えるモデルが追加される。発売翌年の2002年2月にラインナップされた350GT-8だ。
エンジンはV35セダンではこのモデルだけに搭載される3.5LV6DOHCのVQ35DE型。2000年代における日産の主力エンジンとして、下は2.0Lから上は3.7Lまでが揃う。
V35では、それをフロントミッドシップに搭載することで理想的な前後重量配分52:48を実現。ロングホイールベースやボディ四隅に配したタイヤと併せて、直進安定性、コーナリング性能、乗り心地などを高い次元でバランスさせている。
組み合わされるミッションは、新開発の世界初8速マニュアルモード付きCVT。セレクタレバーのポジションはP-R-N-Dの4つで、Dレンジから左にレバーを倒すとマニュアルモードに入る。
シフトアップ/ダウンはレバー前後操作の他、ステアリングコラム両側に設けられた本革巻きのパドルシフトでも可能。右側でシフトアップ、左側でシフトダウンとなる。適度なストローク量と確かなクリック感によって、リズミカルにパドル操作ができる。
エクストロイドCVT-M8と呼ばれるこのミッションは大排気量エンジン用に開発されたもので、FR車での搭載はV35以外だとY34型セドリック/グロリアのみ。ただし、Y34はマニュアルモードが6速だから、8速を載せるのはV35の350GT-8だけなのだ。
当時、日産上層部がどう考えていたのかは知る由も無いが、他車に展開しなかった(できなかった?)ことで、エクストロイドCVT-M8がV35専用ミッションとなったのは紛れもない事実だ。
そんな350GT-8だが、外装における他グレードとの相違点は、ヘッドライトインナーパネル&フロントグリルの色と右テールランプ下に装着されたエンブレムくらい。そのどれもが、注意して見なければ分からないほどの微妙な違いだったりするからいやらしい。
内装はダッシュボードの基本デザインこそ他のグレードと変わらないが、本革巻きスポーツステアリングホイールやアルミペダル、チタン調センタークラスターがGT-8専用品とされ、スポーティ感を高める。
イグニッションオンで文字盤が浮かび上がるファインビジョンメーターは、右から水温計、タコメーター、スピードメーター、燃料計が並ぶ。
シート表皮には他グレードのSセレクション同様、エクセーヌと合皮のコンビを採用。アクセントとして赤いパイピングで縁取られる。内装色はブラックのみの設定だ。
2850mmというホイールベースによって後席の足元は広々。ホールド性を考えたスポーツタイプで、マニュアル操作でのリクライニングも可能となっている。センターアームレストはトランクスルー機能付き。
オーディオはプレミアムセダンに相応しく、BOSE社と共同開発したスカイライン専用BOSEサウンドシステムを標準装備。ヘッドユニットにはAM/FM電子チューナーラジオ、カセットプレイヤー、インダッシュ6CDプレイヤーが備わり、最大出力200ワットの7スピーカーで鳴らす。
ユーロチューンドサスペンションを持ち、ブレーキも高剛性ローターにスポーツパッドが組み合わされるGT-8。標準装着されるホイールはレイズ製17インチだが、取材車両は18インチのプロドライブGC-05Fに交換。タイヤは225/45R18サイズのミシュランパイロットスポーツ3が組み合わされる。
日産純正オプションとして用意されるV.S.S(バリアブルサウンドシステム)スポーツマフラーを装着。ステンレス製でオーバルテールを持ち、車内でのスイッチ操作で音質を切り替えられるのがポイントだ。
現車をひと通りチェックしたら試乗。まずはDレンジでしばらく走ってみる。CVT=無段階変速機だから当然、変速ショックは皆無だし、CVTの滑り感もない。一定のエンジン回転数を保ったままでも、パワーローラーの傾きによる連続的な変速でスピードメーターの針がグングン上昇していく。
効率を考えると、CVTというものは「完成度が高いミッションだなぁ」と改めて思うし、アクセルペダルを小刻みに操作しても駆動力の変化として反映されるため、かつてのCVTのようにドライバーの意志に対してズレが発生することもない。
続いてセレクターレバーを左に倒し、マニュアルモードを選択。パドルで操作してみる。信号待ちから1速でスタート。鋭く駆け上がるタコメーターの針を視界の隅で認識しつつ6500rpmを目安に右手中指でパドルを弾くと、感覚的にはタイムラグなしでシフトアップが完了。
1速から2速、2速から3速…全く切れ目のない加速が続く。これは凄い! V35クーペで乗った6速MTよりも8速CVTの方が断然、印象が良かったことを白状する。
「丸形4灯テールでなければスカイラインじゃない!」等々、さんざん言われたV35セダンだが、その走りとグレードの希少性において350GT-8だけは別格だ。
■SPECIFICATIONS
車両型式:PV35
全長×全幅×全高:4675×1750×1470mm
ホイールベース:2850mm
トレッド(F/R):1500/1505mm
車両重量:1550kg
エンジン型式:VQ35DE(NEO)
エンジン形式:V6DOHC
ボア×ストローク:φ95.5×81.4mm
排気量:3498cc 圧縮比:10.3:1
最高出力:272ps/6000rpm
最大トルク:36.0kgm/4800rpm
トランスミッション:8速CVT
サスペンション形式:FRマルチリンク
ブレーキ:FRベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:FR215/55R17
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)