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唯一無二であり誇り高き孤高のマシン
RX-8最終モデル「スピリットR」のMTモデルと向き合う
それは新世代のスポーツカーだろうか? それともセダンの突然変異種なのだろうか?
今さら言うまでもないが、RX-8はとても変わったクルマだ。グローバリゼーションの時代と叫ばれて久しいが、世界を見渡すと世界中のクルマが個性を失ったように感じる。
例えば「Cセグメント」と呼ばれるミドルサイズのハッチバックは、ドイツ車だけでなくフランス車も日本車も全てゴルフに準じたサイズとプロポーションになってしまった。また、頑なにエンジンとFRに拘っていたBMWは、今や電気自動車もあればFFだってラインナップする。3列シートのミニバンだってある。「ブランドの個性」が声高に叫ばれるのに反して、実は同じような方向を向いた商品ばかりが氾濫しているのが現在の自動車界だ。
しかしRX-8はどうだろうか? 販売当時、世界唯一のロータリーエンジン搭載車だった。ドアは4枚で純粋なクーペではない。最近流行のクーペ風セダンでもない。しかもドアは観音開きで、後部ドアも開くとBピラーレスの大開口部となる。
唯一無二。他のどのクルマとも似ていない心臓とパッケージングが、このクルマを孤高の存在に立たせた。
「RENESIS(レネシス)」と呼ばれる(現時点においては)最終世代のロータリーエンジンは、ターボでドーピングしたRX-7のように有り余るほどのパワーはない。しかし、まるでモーターのように心地よく吹け上がる感覚はレシプロエンジンでは絶対に味わえないものだ。
レブリミットである9000回転まで突き抜けるように回る感覚は、現代の市販車ではほぼお目にかかれない快感でもある。このフィーリングを味わえるオーナーは、なんと幸せなことだろう。
クーペに比べればアクセスしやすく、広いとはいかないまでも実用的なリヤシートを備えているので、パッケージングはその気になればファミリーユーザーだって所有できるもの。しかし、ひとたび運転席に収まればそこはコクピット。着座位置こそやや高い(とはいえミニバンや普通のセダンに比べれば十分に低い)が、ドライバーを包み込むようなコックピットレイアウトとスポーティなデザインのメーターが走りへのマインドを盛り上げてくれる。
物理特性は、クルマの挙動に大きな影響を与える。その特性上コンパクトに作れるロータリーエンジンをフロントミッドシップに納めたこのメリットは、街中で、それこそ交差点を曲がっただけでも感じることができる。
自分を中心にフロントがスッと向きを変える動きは、重心が車両の中心に近いミッドシップの後輪駆動ならではと言えるだろう。今回の撮影では久々にRX-8を楽しんだが、そのハンドリングの魅力が全く色褪せていないことに驚いた。
コーナーに入る。減速と同時にヒール・アンド・トゥでシフトダウンする。今時の燃費重視のスロットル特性と違いアクセルにリニアに反応するエンジンと優れたペダルレイアウトのおかげで、回転合わせは気持ち良いほどバッチリ決まる。流石である。
もはや、唯一無二のスポーツカーなのか、それともセダンの突然変異種か?というプロファイルなんてどうでもいい。RX-8はRX-8以外の何者でもないのだから。
REPORT:Takahiro KUDO