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オーバーステア特性を熟知した匠の足回りセッティングが光る
最小限の手数で速さを発揮するサーキットベースマシン!
ポルシェの代名詞である911がRRを採用するのに対して、エンジンの搭載位置をミッドシップとし、パワーもややデチューンされたエントリーモデルとして位置付けられているのが、ボクスターとケイマンだ。
ケイマンはボクスターのクローズドボディ版であり、ボクスターの2代目となる987型から追加された。エンジンは水平対向6気筒の自然吸気で、当初は2.7Lの「ケイマン」と3.4Lの「ケイマンS」をラインナップ。2008年11月にマイナーチェンジが実施され、排気量変更とパワーアップを実現している。
また、トランスミッションもマイチェンを機に変更。前期型には5速MTと、ティプトロニックSと呼ばれる5速ATが設定されていたが、後期型は5速MTから6速MTに、5速ATからPDKと呼ばれる7速のDCTに変わっている。
今回取材した小林翔さんのケイマンは、後期型ケイマンSのPDK搭載車をベースとしたタイムアタック仕様。Attack筑波でのタイム更新を主眼に置いたチューニングが施され、吸排気の強化とECUチューンで最高出力はノーマル+30psの350ps程にパワーアップ。ただし、中身はあくまでストックのままで、驚異の筑波分切り(59秒970)を実現させている。
「自分が知る限り3.4LのNAストックエンジンのケイマンの過去のベストタイムは1分2秒台だったと思います。それを大きく上回り、GT4を含む市販されているケイマンの中で筑波最速タイムを記録しているところが自分の誇りです!」。
車両オーナーの小林さんがそう語るケイマンのチューニング手法は、軽量化と空力の改善、そして足回りの最適化という王道を追求したものだ。とくに足回りは、メインビルダーであるチェックショップ大塚さんの拘りが詰め込まれている。
「ケイマンって前荷重ばかりを意識した走り方だと余計に曲がらないんですよ。ブレーキを早めに入れて、クーッと戻しながら後ろ荷重を作ってからハンドルを入れていくイメージで、そこから立ち上がりの加速を重視した方が速く走れます。足はガチガチに固めないで、むしろちょうど良いソフトさを追求しないとダメ。この車両はJRZの3ウェイダンパーを使って、ストロークを確保しながらリヤの縮みをよくするバネレートに拘ってます」。
チェックショップが輸入元を務めるオランダのJRZサスペンションから、サブタンク付きの3ウェイ調整式ダンパー『12 31』を採用。減衰力は縮み側低速が12段、高速が21段、伸び側が24段で独立して調整が可能で、むやみにバネレートを上げず、ロールしながらもタイヤにしっかり仕事をさせる理想のセッティングを追求。TARETTのピロボール調整式アームも使用し、不要なアライメント変化も解消させる。
大塚さん自身が、ポルシェを使ってサーキット走行を何度となく繰り返す手練のタイムアタッカー。ケイマンの前後重量配分やレバー比を熟知し、さらにはドライバーのクセや走り方も考慮した上での緻密な足回りセッティングが、筑波で分切りできるケイマンの体幹を支えている。
ミッドシップに搭載されるエンジンは、いずれもペンシルベニアに拠点を置くFAB SPEEDのマフラーとフロントパイプ、SOUL PERFORMANCEのエキマニで排気効率をアップ。吸気系もイタリアのBMC製エアクリーナー、アメリカのIPD製スロットルボディで強化されている。ECUは横浜市都筑区のビークルエンジニアリングでセッティングを行なっている。
ホイールはアメリカの鍛造ブランドAGIO(アジオ)の3ピースホイール『TRB』を装着。サイズは前後ともに9.5J×18で、バネ下の軽量化を実現するとともに、色気のある足元を演出する。タイヤはアドバンA050を組み合わせる。
フロントキャリパーは鍛造削り出し6ポットのAPレーシングPRO5000Rを採用。ローターはポルシェ純正だが、それでも318φ×28mmの大径仕様だ。リヤは純正キャリパーとGiro Discの2ピースローターの組み合わせ。
室内にはワンオフの6点式ロールケージを装着。シートもレカロのプロレーサーRMSと本格派だ。ステアリングはOMPのバックスキン仕様だが、PDK車両は好みのハンドルに交換する上ではパドルシフトを後付けするのもポイントとなる。
「コーナー出口に向かって加速態勢に入ってもフロントが逃げて行こうとしないから、踏んでいける。絶対的なストローク量があるからか、段差に乗った時も、うまくいなしている感じがある。やっぱりニュルを走り込んでいる車種は、ストリートでの対応力が違うね。このクルマはパワーもそこまで圧倒的という程ではないけど、サーキットとストリートに両方対応できるバランス感がいいよね。」とは、インプレを担当した佐々木雅弘選手。
「ミッドシップと言ったって棒みたいに固い足で曲がらないのにアクセル開けたら、そりゃイン巻きします。ケイマンによく動く足を入れて、荷重移動を意識して速く走れるようになったら、911でも速く走れるようになれますよ。今はレーシングカーもみんなPDKだし、MTにこだわる必要もなし。ケイマン、サーキット走るのにいいベースです」と語るのはチューナーの大塚さんだ。
FRPの外板とポリカーボネートによるボディの軽量化、アメリカのVERUSエンジニアリング製フルエアロによる空力の改善も実現。総重量1635kgの車重は1200kg台までダイエットし、軽さと速さを手に入れた。このマシンは、987ケイマンの素性の良さを証明した好例と言えるだろう。
●取材協力:チェックショップ 神奈川県横浜市青葉区上谷本町713 TEL:045-979-4001
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