「旧車を愛し続ける男の覚悟」3ローターターボのFC3SでD1GP制覇を目指す!

トータルバランスを崩さぬまま、費用対効果を最重視!

戦闘力アップの余地はまだ残されている

3ローターの20Bエンジンへ換装し、タービンはT88でMAX750ps。HKSの6速ドグはHパターン、そして18インチの265幅タイヤ。今や1000psオーバーが珍しくない競技ドリフトの世界においては、質素という表現がピタリと当てはまりそうな岩井選手のFC3S。

思えば、FC3Sに乗り替える以前の2度の単走優勝を経験したロードスターもそうだったし、シャルマンやスターレットも同じだ。非力なマシンを駆りながら、トップ勢に立ち向かっていく岩井選手のプライベーターならではの姿に共感を覚え、たまらず“判官びいき”してしまうギャラリーも多かったに違いない。

だからこそ、岩井選手は敢えて不利(と思われるよう)なマシンで挑むことに拘りがあるのか、率直な質問をぶつけてみた。

「そんなふうに、よく『古いクルマに拘って乗ってるのか』と言われるんですが、本当はそうでもなくて(笑) 自分が好きでカッコ良いカタチのクルマが旧車ばかりで、しかも新しいクルマを買える予算もないからこういう選び方になっちゃうんです」と岩井選手。

続けて「『ドリフトしやすいクルマなのか』ともよく聞かれますけど、正直、他のクルマに乗ったことがないから分からんのです(笑) 確かにホイールベースはシルビアと比べても短い(S15:2525mm、FC3S:2430mm)し、ハチロクと比べても25mmしか変わらない。だから深い角度を付けたときに耐えにくい苦労はあるけど、ちっちゃいクルマは取り回しやすいし、キビキビ動いてくれるのが好き。最初にドリフトを覚えたのもハチロクだったから、そこにルーツがあるのかもしれないです。それでFC3Sに乗り替えた時は、このクルマ乗りやすいな…っていうのが第一印象でしたよ」。

FC3Sに乗り替えたのは2019年のシーズン開始から。その時に乗っていた13Bロータリーに換装したNA6CEでの限界が見え始めていたのが理由だったという。

「単走は2回優勝できたけど追走で全然勝てないことが続いていて、ロードスターに行き詰まりを感じていたんです。決まった走りには強いけど、追走で大事な走りのバリエーションの幅が広くないような。パワーも500ps程度で、3ローター化の話も出たけどロードスターじゃエンジンルームに収まりきらなさそうで諦めていました。そんな時、三浦さん(TRA京都)がFC3S用のボディキットを作るという話をしていたんです。

エアロに合わせて車高を落として乗るとなっても、FC3Sはストラットだからロールセンターが多少下がっても何とかできそう。それに3ローターもいけるし、サポートしてくれている周りの人たちもありがたいことに賛成してくれたので」と岩井選手はその時の心境を振り返ってくれた。

FC3S乗り替えのキッカケにもなったパンデムのボディキットを外装にまとい、足元にはスポンサードを受ける前からずっと選び続けてきた赤いワタナベの8スポークRタイプを履く。フロントはスペーサーレス、リヤは性能面ではなくキャリパーをかわすのとツラを出すためのワイトレ25mmが入っている。

タイヤは2023シーズン途中からアンタレスのブリックRSへシフト。縦横のグリップバランスが優れ、ウォームアップ性能の高さとウェットでも信頼できるグリップ感が好み。今までのフロント225/45R17という細さに限界を感じつつあり、タイヤハウスに干渉しないギリギリの245/40R17へワイド化予定だ。

3ローターの20BエンジンにT88-H34Dタービンを合わせ、ハイオク燃料で750psを出力。デビュー当初はクロスポート仕様だったが、中間トルクが減りすぎたことを理由にメンテナンス性向上も兼ねてペリポートを塞ぎ、サイドのみの加工でブリッジポートへ変更した。製作はメイクヒロタ。

4ローター化は予算の都合で厳しいが、次戦に向けてより大きなタービンを投入してピークパワーを理想の900psまで近づけることを計画中。同時に、ECUもF-CON Vプロから最先端フルコンのLINKへとコンバート予定とのこと。

水温対策のためのリヤラジエター移設は、3ローター化によるフロントヘビー解消という理由も。ただし、油温の厳しさは相変わらずで、インタークーラー前のオイルクーラー2基掛けは必須とのこと。

FDFのアングルキットにより、ハブ位置がオフセットされ純正よりもトレール量が増えたのに対し、スーパーナウのアッパーマウントでキャスターを起こして調整。ロワアームで大きくなったキャンバー角は車高調のブラケットで調整し、フルカウンター時の操舵性の良さを保てるようキャンバーゼロを目安にセットしている。

大幅に切れ角を増やしているものの、FCの場合は狭いタイヤハウスとホイールの干渉が切れ角の限界となる様子(純正ではロアアームと干渉)。ホイールサイズが8Jなのもそれが理由だ。ラックはノーマルでフロント側のため無加工。

リヤのアライメントは、ドライブシャフトの前でサスメンバーを上下に吊るキャンバーリンクでの調整と、フロント側でナックルに繋がるトーコントロールアームと偏心カムで行なう。いずれも調整式は使わず、溶接による全長調整である程度の数値を決め打ちした状態でテストに挑んでいるが、調整幅の少なさに苦労する場面も多いそう。

車高調は同郷の326パワーからのサポートを受け、チャクリキダンパーの減衰セットを自分好みにオーダーした特注仕様を装着。現在は、傾向として縮み側の減衰が硬めのセッティングを選んで使用しているようだ。

デフはFC用よりも強度の高いトヨタ8インチケースをメンバー側のマウントをワンオフして装着。ドライブシャフトプロのFC3S用ドラシャを使い、全長はスペーサーによって解決する仕組みだ。

ダッシュボードは、軽量化のために純正同形状のFRP仕様をワンオフメイド。HKS6速ドグミッションはHパターンかつ重量もあるが予算を最優先した結果だ。サイドブレーキはシルビアのレバーを移植し、助手席側から運転席側へ引きやすいよう位置を変更済み。

「僕みたいなプライベーターにとっては、テスト走行のためにクルマを持ち出すことすらも予算カツカツで、『何もクルマの仕様が変わってないのに、ただ練習のために走る』なんて贅沢すぎて出来ないんですよ。だからこそ、走るたびに何か新しいセットが試せるように常に考えています」。

ただ、それに対して本人の予算がついてこないというのが大きな悩みのタネ。フロント、リヤタイヤのワイド化、4ローター化など戦闘力アップのための理想はあるものの、手掛けられずにいる状況だ。

しかし、直近ではタービンのサイズアップによるピークパワーの増大を狙い、285幅タイヤの導入も行なう予定とのことで、これからはより追走に焦点を当てた性能の底上げを狙っているとのこと。予選通過が1回に留まっている2024年シーズンの巻き返しをすべく、後半戦へ向けた準備を進めている。

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TEXT:Miro HASEGAWA (長谷川実路) PHOTO:Mitsuru KOTAKE (小竹充) /Daisuke YAMAMOTO(山本大介)

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