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HKS愛がほとばしる走り屋親子の情熱
父の青春である90年代の時代感を息子が20年代の形へとトランスフォーム
アメリカ西海岸でストリートレース人気がピークを迎えた90年代に、血気盛んな思春期を過ごしたスティーブン・アグワヨ。愛車をチューニングしてはローカルのストリートやソノマのレース場へ繰り出し、スピードバトルに興じてきた。
そんなスティーブンの背中を見ながら育った息子のスティーブン・アグワヨ二世も、立派なクルマ好きに成長。ある時、そんな息子が思いもかけない提案を持ちかけてきた。当時発売されたばかりのHKSのGRスープラ用ワイドボディキットを手に入れ、一緒にワイド仕様のスープラを作ろうというのだ。
息子からの提案がシンプルに嬉しかったスティーブン。HKSをチョイスした背後には、親の青春時代に対する子供なりのオマージュも感じられ、もちろんその提案を喜んで受け入れた。
ワイド化が前提となると、まずは車高とタイヤ・ホイールのサイズ選定が鍵となるが、二人で意見を出し合い、足回りにはユニバーサルエアのエアサスと、エアリフトのマネージメントを使うことを決定。
エアタンクをラゲッジルームにカスタムインストールする発想は、いかにも若者らしいジュニア・スティーブンから生まれたものだ。ロールケージのスパルタンなイメージと、エアサスの華やかなイメージが共存するところが新しい。
対してホイールは、スティーブンの幼なじみがデザイナーを務めるハイエンド鍛造ブランドのDPE(ダイナミック・パフォーマンス・エンジニアリング)に依頼。削り出しによるカスタムメイドの3ピースメッシュデザインと、フロント10.5/リヤ12.5のカスタムサイズを実現した。それはパパ・スティーブンが長年培ってきた経験や人脈の賜物と言うべきだろう。
そして、若かりし日々にはパワーウォーズに明け暮れてきただけに、パパ・スティーブンは外見の変化だけで満足するわけもなく、BMW製のB58B型3.0L直列6気筒エンジンには、HKSのGTIII-4RタービンをFull Raceのターボマニホールドを介してトップマウント。
なお、タービンにはパープルのタービンファンネルとHKSロゴが入ったヒートシールドを与えているが、これは「最新のスープラをオールドスタイルでまとめたかった」という強い拘りを実現するため。イギリスのウェブサイトで未使用新品を発掘することができた。
さらに、HKSのSQVブローオフバルブやチタンマフラーも使用した他、地元のHumbleエンジニアリングがワンオフで製作したチタン製のダウンパイプ、エキゾーストパイプ、チャージパイプも投入。エンジンの内部パーツや水冷式のインタークーラーはノーマルを維持しており、吸排気系を見映えも意識して強化したファインチューンといった印象だ。
ECUチューニングはソフトウェアの書き換えでパワーアップに導くECU-TEKを使用。A90スープラやBMW各車に強みを持つPaynパフォーマンスエンジニアリングがチューニングを行い、最高出力は608ps、最大トルクは77.97kgmを実現した。
これは、オーソドックスなフローティングメタルを採用するGTIII-4Rの想定パワーにきっちり合わせ込んだ結果で、スティーブンは「将来的には1500psを目指したい」と途方もないターゲットを口にする。
インテリアメイクも抜かりなし。ノーマルの赤内装に雰囲気を合わせるべく、MOMOのステアリングとスパルコのシートは表皮を張り替え。それぞれHKSのホーンボタンや刺繍も施すなど、徹底している。手元で瞬時に車高調整が行えるエアリフトのコントローラーを装備。
エクステリアは、プロジェクトの発端となったHKSのワイドボディキットをベースに、パンデムのカナードとスプリッターをドッキング。サイドスカートにはC5コルベットのエアベントを流用装着した。GTウイングはステーを簡単にチルトできる取り付けを行なったので、ハッチゲートの開閉も邪魔しない。ドアミラーはEVSチューニングのGTLMエアロミラー。
“HKSラブfrom”アメリカをエアロでもエンジンでも表現したアグワヨ親子のワイドスープラ。2021年のSEMAショーではユニバーサルエアのブースを飾った。だが、決してそれがゴールというわけではない。二人のスティーブンが描くストーリーは、まだ走り出したばかりなのだ。
PHOTO:Akio HIRANO/TEXT:Hideo KOBAYASHI