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夢を、現実に。
湾岸最速のチューニングカーを生み出しては、公開不能な記録を樹立しつづけるトップシークレット。しかし、2007年に発表したV12ツインターボ仕様のスープラは違った。ナルド攻略をコンセプトに、世界に堂々と公開できる記録の樹立を目標に開発されていたからだ。そして2008年3月、ついにチューニングカー最速レコード更新という自身の壮大な夢を叶えるべく、スモーキー永田は南イタリアのナルド(正式にはナルドテクニカルセンター)へと挑んだのだ。【OPTION2008年4月号より】
最高速の聖地で輝きを増す金色の戦闘機
V12スープラのメイキング
V12スープラのパワーユニットは、2JZではなくセンチュリーに搭載される5LのV12ユニット(1GZ-FE)に、HKSのGT-RS改タービンを両バンクにマウントしたツインターボ仕様となる。エンジン内部は、エスコート製の5A-Gピストンに同社のB18Cコンロッドで強化し、さらにヘッドも燃焼室やポート研磨を実施。オリジナルのメタルガスケットも投入している。
さらに、ノーマルの5800rpmというローレブリミットも、L型用の強化バルブスプリングなどを流用することで7500rpmにまで引き上げられている。ラジエターは大容量タイプをリヤへと移設しているが、高速域では水温に不安があったためフロント側にも小型ラジエターを追加。これらの対策により、水温は85度前後をキープしたままオーバー300キロの世界へと突入できるというわけだ。
そんなV12ツインターボユニットの制御には、F-CON Vプロを2機使用して片バンクに1機のVプロを配するツイン制御システムを確立。結果、パワーは850psまで高められ、さらに2本のウエットショット式NOSを噴射することによって、ブースト圧1.3キロ時に実測943ps、トルクに至っては103kgmを発生するまでに進化しているのだ。
最高速に欠かせないミッションはJZA80純正ゲトラグ6速を使用し、輸出用の3.1ファイナルと275/40-19という大径のタイヤを組みあわせる。これで計算上は6速7000rpmで370キロ、7500rpmまでまわれば400キロを突破することになる。
また、空力を左右するエアロパーツも徹底チューンを慣行。オリジナルの「スーパーGフォース・ワイドボディキット」は、スモーキー永田のこれまでの経験から空力に有利な形状を最優先にデザイン。
車重は1700kgと超ヘビー級だが、スモーキー永田の「最高速なら車重は多少あったほうが安定する」という経験則から軽量化はあえて行っていない。むしろエアコンやオーディオといった快適装備をすることで、リラックスして最高速に挑めるメイキングとなっている。
しかし、これだけの最高速仕様をもってしても、ナルドの巨大な壁はスモーキー永田とV12スープラを苦しめることとなる…。
SPECIFICATIONS
■ENGINE:1GZ-FE(4996cc) HKS GT-RS改GT2835ツインターボシステム/ウエットショット式NOS×2/F-CON Vプロ×2/ORC709クラッチ/ゲトラグ6速ミッション/機械式LSD/ファイナル3.1
■SUSPENSION:アラゴスタ トップシークレットバージョン+ロベルタカップ/トラスト GReddyブレーキ キット(F8ポッド R4ポッド)
■WHEEL:ボルクレーシングGTF(F9.5J+4 R10.5J-15)
■TIRE:ポテンザRE050(F245/35-19 R275/40-19)
■EXTERIOR:スーパーGフォース ワイドボディキット
■INTERIOR:デフィ スーパースポーツクラスター/ブリッド セミバケ
ナルドの全容
最高速野郎を虜にする最高速の聖地
イタリア南部、プッリャ州のアドリア海に面する港湾都市・ブリンティジ。そこからクルマで約1時間ほど南下した所に、今回の舞台「ナルド・テクニカルセンター」は存在する。プロトティーポという民間企業が運営(※2008年当時/2018年現在はポルシェが所有)している大型施設で、1975年にフィアットが自社テストコースとして作ったのがはじまりだ。その後、1999年1月にプロトティーポ社が買い取り、現在に至る。
最高速テストを行うのは、メイン施設の「サークルトラック」。この場所以外にも13にもおよぶテストコース(クロスカントリーコース、オフロードコース、音量測定、スキッドパッド等)が存在するが、施設内に足を踏み入れると、撮影禁止区域が非常に多かったりもする。その理由は単純明快。敷地内には、フェラーリをはじめとするヨーロッパ有数の自動車メーカーが専用のピットを持っており、連日のように新型車の極秘テストを繰り返しているからだ。
V12スープラがアタックに使用するサークルトラックは、直径4km、1周13kmにも及び、車幅も1車線4m×4車線=16mという広さを誇る。また周回路の設定速度も、イン側で408.948キロ、アウト側では492.317キロと、想像を絶するスケール。それでいながらバンク角が非常に浅いため、ドライバーにもマシンにも負担は少なく、安全面に関しては申し分無しと言えるだろう。聖地という呼称は伊達ではないのだ。
ちなみに、このサークルトラックには推奨レコードラインなるものが3車線目に存在し、このレーンはR=2.013m(1周=12.648km)で400キロ以上を出せるような設計になっている。
実際に走ってみても速度感など全くなく、いつのまにか200キロ近く出ているような状態で「300キロ以上出てるのにステアリングはニュートラル位置のままだし、広いからコースサイドのカメラマンの顔も確認できるくらい余裕があった」と、スモーキー永田が驚いたほど。まさに、最高速ジャンキーにとっては夢のようなステージなのである。
●画像提供:Nardo Technical Center
エンジントラブルを抱えながらもオーバー350キロを何度も記録
最高速度は358.22キロ!
3月16日午前6時。決戦の時。朝日がうっすらと顔を覗かせる南イタリアの朝に包まれる中、至宝のV12ユニットは目を覚ました。コクピットには、いつになく深刻な表情のスモーキー永田が佇んでいる。
1周約14kmという広大な「ナルドリング」で、自身がドイツ・アウトバーンで記録した341キロという最高速度の更新は絶対条件。スモーキー永田の闘志がマシン越しに伝わってくる。
そしてコースイン。与えられた時間は、泣いても笑っても2時間(占有時間)だけだ。思い残す事など何もない。自分の夢を掴むために踏み抜くだけだ。
決意のフルスロットル。V12の甲高いエキゾーストサウンドがナルドを覆い尽くす。
が、しかし…、現実は想像以上に厳しかった。なんと350キロを超えたところでオーバーヒートが発生。回転数も7500rpmまで回るどころか、5800rpmでストップしてしまったのだ…。
「350キロを超えたあたりで、アクセルが重くなってきて加速も鈍っちゃうんだ。水温も107度まで一気に上がっちゃったし…。日本でさんざんテストしたんだけどな」。そう言い残し、再びコースイン。
…無情と表現すべきだろうか。その後、何度トライしても結果は変わらず、353.88キロ、356.87キロ、358.22キロ、355.11キロ、356.21キロ…と、350キローオーバーを連続で記録するものの、目標である380キロには届かなかったのだ。そして、そのまま2時間のアタック時間が終了した。
結果、公式のMAXスピードは3本目に記録した358.22キロだった。
「シフトアップのタイミングやアクセルの踏み方を色々変えてみたけど、6速の時に高回転が吹けなくなって、5800〜5900rpmで止まってしまう。水温の上昇もそうだけど、もっと違うところに原因がある気がする…」。自分を責め続けるスモーキー永田。続けて「ごめんなさい、本当に悔しい! でも、走ってみたらパワーとか水温とか様々な問題点が見えた気がする。このままじゃ終われないから、もっとマシンを進化させて再チャレンジします!」。
この結果をどう受け止めるかは読者それぞれの判断に委ねるが、たった2時間の間に350キロオーバーを連続で5回も叩いた事実、最後まで諦めずにマシンを信じて踏み続けた闘志、そして記録を達成できずスタッフ全員に何度も謝るその姿には、カメラマンやビデオ班を含めて現場にいたスタッフ全員が強く心を打たれていた。
スモーキー永田はリベンジを誓った。そう、トップシークレットの380キロオーバーチャレンジはまだ続くのだ。そしてそれは、かなり近い将来に実現するであろう“最高速ジャンキー”からのマニフェストとして受け止めたい。
アタック時の走行ログデータ
これは高性能GPS型ロガー機「V-BOX」のログデータを切り取ったものだ。230キロからアタックを開始して最高速地点となる358キロまで急激に山が立ち上がっている。300キロオーバーの領域でもまだ加速していることを考えると、たらればの話になってしまうが、トラブルさえなければ360キロどころか380キロ到達も夢ではなかったかもしれない。
●問い合わせ:トップシークレット 千葉県千葉市花見川区三角町759-1 TEL:043-216-8808
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