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ヴィンテージスタイルと最新技術の融合
850馬力オーバーの水冷930ツインターボ!
「ナイン・イレブン」と発音されるポルシェ911は、 アメリカにおいてもやはり特別な存在だ。70年代中盤に、デイトナやセブリングなど名だたるレースシーンで活躍したことで、911は勝利と成功の象徴となったのである。
今回紹介するのは、いわゆる空冷時代に登場した911初のターボモデル、1976年式のタイプ930だ。そのボディシェルに、アメリカで最も注目を浴びるトップチューナーのひとり「ビシモト」は、なんと911初の水冷モデルであるタイプ996由来のM96ツインターボをコンバート。「クラシックなボディに最新テクノロジーを投入し、速くて、軽くて、美しい911を生み出す」というコンセプトを具現化した。
タイプ996だけでなく、初代ボクスター/ケイマンにも搭載された水冷M96ユニットは、入手しやすいという点においても絶好の素材。ビシモトは独自設計のカムや強化スプリングなどを採り入れたメカチューンを敢行。
さらに、本来は左右バンクの排気直後に備わるツインターボをキャンセルし、ターボネティクス製のBTX5857タービンをリヤエンドに配置。ご覧の通りツインターボが向かい合うような形でレイアウトされ、あえてリヤバンパーをカットすることで、それを「魅せる」手法を採用した。この一度目にしたら忘れられないビシモトならではのスタイルは、既に多くのポルシェフリークの知るところとなっている。
また、飛び級で大学へ進学し、石油化学を専攻したという秀才の一面も持つビシモトは、M96ツインターボにさらなるパワーを与えるため、AEMエレクトロニクス製のウォーター/メタノールインジェクションシステムも導入。これは水で希釈したメタノールを圧縮空気に吹き付け、吸気温度を下げて充填効率を高めるシステムだ。
条件次第ではもっと上を狙えるというパワーは、ドライバビリティとのバランスを考慮して850ps付近をターゲットに設定。AEMシリーズ2 ECUを核とするCAN-BUSシステムを構築し、スロットルバイワイヤのリニアリティも徹底的に追求されている。
エクステリアは、よりスリークでクラシカルなラインへの回帰がテーマ。大きなラジエター冷却口を備えたフロントバンパーや、大型インタークーラーを包み込むホエールテールウイングなどは、74年からアメリカで開催されていたインターナショナル・レース・オブ・チャンピオンズ、通称IROC(アイロック)からインスピレーションを得たディテールである。なお、ビシモトは愛車のカラーに好んでブルーをチョイスする。
足回りはオリジナルのコイルオーバーコンバージョンサスペンションを軸に構築。ブレーキは996用カスタムブレーキで強化済みだ。
ホイールは、ケン・ブロックとのコラボレーションやネオクラシックテイストのデザイン性で注目を集めるホイールブランド『Fifteen52』のOUTLAWシリーズを装着。初代911に純正採用されたことで知られる、往年のFuchsホイールをモチーフに採った鍛造2ピースホイールで、サイズは17インチ。そしてナットは日本のCRUIZEが手掛ける冷間鍛造アルミ製のポルシェ専用品が使用されている。
室内は、クロモリ製のロールケージで囲まれたスパルタン仕様。タコメーターは11000rpmスケールのビシモトオリジナル仕様だ。トランスミッションはタイプ997用の6速MTがドッキングされており、シフターもそのまま流用されている。
ドライバーズシートの背後にはECUを装備。M96はバリオカムおよびバリオカム・プラスと呼ばれるバルブタイミングやリフト量の可変機構を備えており、ましてウォーター/メタノールインジェクションも追加するとあっては、その制御に高度なノウハウを要することは想像に難くない。
見た目はクラシカルでも、中身はスーパーモダン。そんなレストモッドの流儀も感じさせるビシモト930ツインターボは、これからのポルシェチューンに、ひとつの潮流を生み出すに違いない。
Photo:Akio HIRANO TEXT:Hideo KOBAYASHI