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磨き上げられた基本性能。
20年以上に渡り、スバルの主力エンジンであり続けたEJ型の後継機として2012年に登場したFA型。当初2.0Lでスタートし、のちに2.4Lへと排気量を拡大したFA型にはNAとターボが揃い、NAはFA20がZN6/ZC6に、FA24がZN8/ZD8に搭載された。そんなエンジンの素性やメカニズム、チューニングベースとしての潜在性能について、EJ時代から数多くのスバル水平対向エンジンを手掛けてきたボクサーパラノイアの桑原さんに話を聞いた。
国産2.0Lクラスにおける逸材。潜在性能はEJに匹敵する。
まずは知っておきたいEJ系とFA系の共通点
FA20/24についての解説を始める前に、まず触れておきたいと思ったのがEJ系との関連性。中でも、WEB OPTIONとして特に馴染み深いのはEJ20だ。ボア径92.0φ、ストローク量75.0mmで、国産エンジンとしては屈指のショートストローク型と言える。それに対して、同じ2.0LのFA20では86.0φ×86.0mmとされ、スクエアストローク型に改められた。
エンジンの基本的な特性を左右するボア×ストロークがこうも違うと、まるで別物に思えるかもしれない。しかし、エンジン設計における根本的な部分で共通点があった。
ボクサーパラノイア代表の桑原さんが話し始める。
「実はEJもFAも、ボアピッチが113mmで同じなのよ。恐らくそれは、エンジン生産の現場でEJと同じ工作機械が使えるようにっていうメーカー側の都合だと思うけど。逆に、FAを開発するにあたってボアピッチまで変える必要がなかったという見方もできる。すでにEJの時代に妥協点を追い込んで、ほぼ完成の域に達していたのかもしれない。そんな両方のエンジンをイジってきて思うのは、“EJを磨き上げたのがFA”っていうことだね」。
桑原さんがそう評するFA系エンジンの各部を見ていこう。
シリンダーブロックは剛性が劇的に向上
目の前にあるのは左右に分割されたFA20のシリンダーブロック単体。その各部を指さしながら桑原さんが解説する。
「まず大きく変わったのは、左右シリンダーブロックの合わせ面にノックピンが追加されたこと。これはポルシェの水平対向エンジンでも昔から採用されていて、パワーを上げていってもシリンダーブロックが変形しにくく、クランクメタルのトラブルからも解放される。同じ2.0L同士で比べると、ブロック剛性はFAの方が確実に高いよ。ちなみに、ウチではEJで600ps以上を狙う時に同じようなノックピン加工をしてるけど、FAには初めから付いてるってわけ。あとはオープンデッキ構造だけど、肉厚を稼いで十分なブロック強度を確保したり、リブ追加によってクランクキャップ剛性を高めたりもしてるよね。ブロック単体で見ると500psくらいなら普通に対応できると思う」。
また、メインボルトの径や本数はEJもFAも変わらないが、左右から交互に締めるEJに対して、FAは右から左へと一定方向に締める方式へと変更。これで、シリンダー毎で出がちなクランクメタルクリアランスのバラツキを解消している。
さらにシリンダーブロックの内側、クランクキャップ間にはクランクシャフトウエブの通り道に合わせて、鋳込みのスリーブごと機械加工による大胆なカット処理が施される。こうしてストロークアップしているにもかかわらず、ピストン裏側までクランクウエブが食い込む設計を含め、EJ同等のエンジン幅を実現しているのだ。
「つまりFAには、チューニング屋が行なうような加工がノーマルでも施されてる。それだけに大幅な排気量アップが難しい。というのも、EJのようにモジュラースリーブを圧入するだけでなく、その後にクランクウエブを逃がすためのマシニング加工が必要になるからね」。
ちなみに、ターボ用シリンダーブロックはよりハイパワーに耐えられるよう設計されていて、NA用とは別物だ。
純正の鋳造ピストンは鍛造品並みの強度を誇る
純正ピストンは4000番台のアルミを素材とした鋳造品。樽型断面を採用し、ピストンクリアランスはたったの15ミクロン(1000分の15mm)に設定される。「FAはEJよりもピストンクリアランスが狭い」と言う人もいるが、桑原さんによれば、「どっちも15ミクロンで変わらないよ」とのことだ。
続けて、「高シリコン配合のアルミ素材でピストン自体の膨張を抑えているとはいえ、運転中は常にボア径よりもスカート部の方が拡がってる状態。それでもスバルのピストンはスカート部が弾性変形しながら回るし、さらにエンジンオイルでフローティングさせるという天才的設計も見られる。スバルとしては、どの鍛造よりも強い鋳造ピストンだと思うね」。
ちなみに、純正ピストンは油温100度で常温時に対して0.016mm(16ミクロン)膨張するというデータがあり、「運転中はボア径よりもスカート部の方が拡がっている」という数値的な裏付けにもなっている。
一方、A2618材あたりを素材とした鍛造ピストンは、鋳造ピストンに比べて膨張率が10倍程度。中身が詰まっている分、膨張率も当然大きくなる。
「だから、ピストンクリアランスは一律で何mmとは言えない。もし15ミクロンという数値だけを信じて鍛造ピストンを組んだら、油膜切れですぐにカジっちゃうのは目に見えている。使うピストンが鋳造品か鍛造品かによって最適なピストンクリアランスを見極めるのがチューナーの仕事だよね」。
NAはコンロッドが弱点 ターボ用は400馬力に対応
FA20がデビューした時に話題になったのが、大端部と小端部の中心が同一線上にないオフセットコンロッドの採用。FA24では一般的なストレート形状へと改められたが、これはエンジン組み立て時の作業手順(ピストンの組み方)が変わったことによるものだ。
また、その形状から、オフセットタイプはストレートタイプに比べて強度的に劣る印象を受けるけど、「形状の違いによる強度差は考えなくていいレベル」というのが桑原さんの見解だ。
「経験上、NA用純正コンロッドは300psを超えると曲がり始める。たとえ折れなくても、曲がったらメタルが偏当たりするし、その先はいくらも保たないでブローするのが確実。これがターボ用になると、肉厚が微妙に増していたり部分的にリブ補強が加えられたりして、強度や耐久性が格段に向上してる。400psは楽に許容するから、ボルトオン過給機仕様では強化品として使えるんだ」。
「かつてFA20にHKSのGTスーパーチャージャーを装着し、リストリクターなしでECUセッティングを施したところ、試運転で1kmも走らないうちにエンジンブローに見舞われたことがある。コンロッドのうち1本が折れてブロックを突き破り、残りの3本も曲がっていた。」
「そこで、ターボ用純正コンロッドをバランス取りした上で流用。90mmプーリーでブースト圧は1.2キロにセットしてたから、速さはGTIIIタービンのポン付け仕様と同じくらいだった。1〜2速ではホイールスピンが止まらないほど痛快なパフォーマンスを約束してくれるよ」。
オイル流路を見直したシリンダーヘッド
EJとFAでは、シリンダーヘッド周りのメカニズムにも多くの違いが確認できる。
例えば、バルブ駆動方式。EJはカム山がダイレクトにリフターを押す直打式だったが、FAではカム配置の自由度を高めながら、フリクションロスの低減も狙ってロッカーアーム式が採用される。また、カム駆動に使われるのも、EJのタイミングベルトに対してFAではタイミングチェーンとなる。
「大きな見どころはエンジンオイルのリターン流路。ヘッドの前後から、オイルが直接オイルパンに落ちるように設計されてるんだ。EJは流路出口までの角度が悪くてヘッドにオイルが溜まりやすかったんだけど、FAではそれが見事に解消されたってわけ」。
チューニングベースとしてはEJ同等以上のポテンシャルを持つFA。桑原さん曰く、「特に排気量が大きいFA24ベースなら何でも来い!!って感じ。ボルトオンターボで500psを狙うこともできるし、ベースエンジンとしての可能性は抜群に高いと思うよ」とのことだった。
⚫︎取材協力:ボクサーパラノイア 群馬県前橋市力丸町187-3
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