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エンジンスワップは自宅でDIYにて実施!
2次元ワールドから飛び出した驚異のドーピングモンスター
ここ数年の間に世界各地でブームなのが、和製バイクのエンジンをスワップするチューニング。そんな海外勢の動向に呼応しつつ、日本国内ではより軽量な軽自動車とハイパーバイクの心臓部を掛け合わす異次元チューンが注目を集めている。
WEB OPTIONでは、これまでにもスズキGSX1300RやカワサキZX-12Rのエンジン換装車などを紹介してきたが、今回紹介するのはダイハツ・ミラジーノにカワサキのZZR1100エンジンを組み合わせたドリフトスペックだ。


製作にあたり、エンジンのドナーとされたのは1990年代のバイク最高速ブームを牽引したカワサキのZZR1100。中でも、D型と呼ばれる2世代目の逆輸入車(俗に言うフルパワー仕様車)だ。

そんな強心臓をミラジーノに移植したのは、エンジョイドリフターにしてユーチューバーでもあるダイセンペイント氏。主にバイクの動画を上げているが、思わぬきっかけでミラジーノ×ZZR1100の製作に着手したのだ。
「YouTube動画などで、バイクのエンジンをスワップしたクルマをよく見ていたんです。で、自分も何か作ってみたいと思って。そんな時、友人のところにこのミラジーノが転がっていて、2万円で購入したのがスタート地点。国内のバイクエンジン搭載車は、全てインジェクションだったので、あえてキャブエンジンのZZR1100を選びました」。

かつてはシルビアでドリフトもしていたダイセンペイント氏。その経験もあったため、エンジンスワップと同時にオーソドックスなFRレイアウト化も実施し、ミラジーノを生粋のドリフト仕様へと生まれ変わらせた。
そのため、エンジンの位置合わせのみならず、サスメンバーの製作やセンタートンネルの加工など大掛かりな作業が多数発生。また、ベース車がFFだったこともあり、4WD用のホーシング移植には、トレーリングアームやラテラルロッドのブラケット新設といった車両側の加工も必要になったという。

バイクのミッションからそのままプロペラシャフトへと駆動を伝えるため、スプロケを加工してアダプターを製作。現時点ではバックギヤがない状態のため、改良を思案中とのこと。ちなみに、スプロケのギアとセルモーターを使ってバックさせる機構を考えたものの、バイク用ではバッテリー容量が足りず断念したそうだ。

メーターはZZR1100純正をそのまま流用。ダッシュボードをカーボンで新たに製作し、このメーターに合わせたメーターフードもワンオフ製作しているため、コクピットの雰囲気はレーシーかつ自然だ。
なお、制御系に関してはZZRのハーネスやイグナイターをそのまま利用。ミラジーノの配線類は、ライトやウインカーなどを作動させる部分がステアリングコラム周辺に残される程度だ。

純正のATシフターを活用しながらシーケンシャルで変速できるよう、自らの手で作動リンクを設計&製作したというから恐れ入る。手前の縞板を使ったレバーはサイドブレーキ用だ。


排気環境もかなり独創的。運転席の真下からエキゾーストパイプがフロアを貫通して室内へと伸び、そのままバイク用のショートサイレンサーがリヤドアから顔を出すレイアウトとなる。これは完全に見た目優先とのこと。

センタートンネルを加工したことで、ノーマルよりも幅も高さも増えてしまった。そのため、取り付けられるバケットシートが限られてしまい、現在は細身のシュピーゲル製を組み合わせている。

必要だったわけではないが、室内もしっかりと見せられるようにドアパネルもカーボンでワンオフ。細かい部分も抜かりなく仕上げられている。

リヤのホーシングは4WD用を流用し、トレーリングアームのブラケットなどは全て新設。また、車高調も2WDと4WD用で取り付け部が違うため、ブラケットを加工して2WD用を装着している。

キャブエンジンに拘った結果、セッティング出しにはジェットの組み換え作業が必要になるわけだが、純正のエアクリーナーボックスを使用しているためキャブの脱着作業はひと苦労。キャブ仕様で作ろうと発想したことを後悔する瞬間だ。

作業中、最も大変だった出来事を尋ねたところ「プロペラシャフトとの関係でエンジン搭載位置はおのずと決まってきますが、それだとフレームとマフラーが干渉することが発覚した時ですね。とはいえ、駆動ロスを防ぐためにはエンジン搭載位置を変えるわけにはいかないので、フレームをスライスして補強、クリアランスを稼ぐという力技を繰り出しましたよ!」と製作時を振り返る。想像以上の魔改造が必要だったわけだ。

続けて「格安の車体だったんで、フレームのカットに躊躇はありませんでした。もちろん、強度も考えながら補強を加えているので、ドリフトしても折れてしまう心配はないと思います。仕事で重機の整備をしているので、その辺りの勘どころは持っているつもりです(笑)」とのこと。

ちなみに、エクステリアはコミックペイントと呼ばれる漫画調の塗装が施されているが、これは見よう見まねでチャレンジしたダイセンペイント氏による力作。ポスカを使って書き込んでいるため、濡れて擦ると剥がれてしまうのはご愛嬌だ。

完全ハンドメイドで生み出された魔改造ミラジーノ。速さの徹底追及ではない、根幹にあるのは楽しむこと。チューニングの原点がそこにはあった。
PHOTO&REPORT:渡辺大輔