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天才プライベーターの野心作
完全なスタンス系かと思いきやFドリ仕様だった!
自宅のガレージで作り上げた改造車をイベントやサーキットに持ち込み、思う存分アピールする。それは多くのクルマ好きが憧れる究極のホビーと言えるだろう。吉田さんは、そんな贅沢な遊びを実際に楽しんでいる、一人のプライベーターだ。
福島県いわき市の閑静な住宅街にある自宅には、3台のクルマが収容できる美しいガレージを構え、溶接機やベンダーなど本格的な機材も完備。さながらプロショップの佇まいである。
気心知れた仲間のクルマしかイジらないというポリシーの元、これまでに数々のガレージビルドを完成させてきた吉田さんだが、そんな男による最新作がこの恐ろしいフォルムを有するK12マーチ。親友・鈴木さんの遊びグルマだ。
オーナーである鈴木さんは生粋のドリフターなのだが、「吉田さんが持っていた15インチの深リム(ワークVS-KF)を何かに履かせようと思って。でも、サイズがマイナーなPCD100の8Jだったんですよね。で、悩んだ末に選んだのがこのクルマでした」とのこと。
そこから吉田さんがメカニカルパートを担当するカタチでカスタムをスタートさせたわけだが、人間の欲望には限りがない。
「完成した15インチの深リム仕様は、2015年のスタンスネイションでアワードを頂きました。じゃあ次って感じで、今度は18インチの深リムを中古で購入したんですよ」とは鈴木さん。
そのホイールが現在のクレンツェ・ヴィシュヌだ。サイズはPCD114.3でフロント9.5Jマイナス27、リヤ11Jマイナス36。オーバーフェンダー仕様のビッグセダンでも厳しい設定だが、これをマーチにインストールする魔改造を敢行したのである。
まず、リヤはモノコックをバッサリと切断して40φのクロモリ鋼でパイプフレーム化しつつ、サスペンションは完全オリジナルのインボード式マルチリンクを構築。魅せることも徹底追求し、リヤサスメンバーは振り曲げ加工されたパイプを使っているほどだ。
このマルチリンクは、先にホイール位置を決め、そこから理想的な軌道ジオメトリーを割り出した上で各アーム長を設定しているため、考え方としてはシャコタン専用の究極系サスペンションシステムと言っていい。アライメント調整幅も尋常ではないほど広く作られており、あらゆるセッティングが可能だ。
ダンパーには、バイク用の別タンク仕様をツインで装備。見た目&価格優先でのパーツチョイスだが、意外と乗り心地も悪くないそう。
一方のフロント側は、ロアアームを延長&上げ加工して対応。また、ドライブシャフトの角度矯正のために、エンジン自体も30mmほど搭載位置をアップさせているというから恐れ入る。車高調には段差対策でロベルタカップも導入済みだ。
ハブはフロントが純正加工の114.3仕様で、リヤは「ボルド留めで安くて5穴の114.3だから」との理由からセレナ用を使っている。ブレーキは前後ともアルミで軽量のZ32純正を流用する。
ホイールは一度バラしてディスクをサテンブラックのパウダーコートへ、リムを艶ありのブラックでそれぞれリペイント。ピアスボルトもステンレス製の新品に変更し、オリジナルのクレンツェ・ヴィシュヌを作り上げた。
組み合わせるタイヤはナンカンNS-20(F205/35-18 R215/35-18)。サイズ的に、どんなに引っ張ってもビードが届かないため、ビードとリムの隙間に3mm厚のアルミフラットバーを溶接固定してストッパー代わりにしている。
室内も強烈だ。ロールケージはサイトウロールケージをベースにしたスペシャル。ステアリングおよびシートはインパクト重視で海外製のメタルタイプをセレクト。
油圧サイドブレーキやリヤラジエター化といった大技も確認できるが、これらについては「制作中にドリフターの血が騒いじゃって。そのための改造ですね。これでFドリしたら面白くないですか?」と、鈴木さんが笑いながら説明してくれた。
助手席側には、キノクニの38L安全タンクやロベルタカップ用のコンプレッサーが美しくマウントされる。ちなみに、ロベルタ用のエアタンクが見当たらないことを吉田さんに指摘すると「リヤに設けたフレーム自体をエアタンクとして利用しているんです」との回答が。言われてみれば配管がフレームに伸びている…天才か!
スイッチ系も自作のオンパレート。センターパネルにはイグニッション関連を集中させる。その上部に確認できる配管とコックは、ロベルタカップのエアパージ用だ。
センターコンソール部はミニクーパー風のデザインでスイッチ類を配置し、メカニカルな雰囲気を演出。ミッションは純正CVTのままだが、シーケンシャル風のゲートに改造している。
エクステリアはミネルバのエアロパーツをベースに構築。ボディカラーはスズキスペーシアの純正シルバーで、内装を含めて鈴木さんがペイントを担当した。フェンダーはホイールに合わせた片側100mmワイド仕様とし、各部をスムージングすることで塊感を強めている。
「拘ったのはリムとタイヤとフェンダーのバランス。どこか一部が主張しすぎないように考えながら作りました。まぁ、後ろから見ると鏡餅みたいなんですけどね(笑)」と吉田さん。
その発言を聞いた鈴木さんは「“気持ち悪い”って言ってもらうのが嬉しくて! ちなみに、このマーチは製作前にナンバーを切って、同時に輸送用の積載車を購入しました。クローズドのイベント会場かサーキットでしか乗らないですからね。でも、エアコン等の快適装備は残ってたりしますが(笑)」と付け加える。
プロのメカニックでなければ、チューニングショップに勤務しているわけでもない。鈑金溶接の知識もほぼゼロという状態から、独学で全てを学び、丸3年という途方も無い時間を費やして完成させた唯我独尊のK12マーチ。すでにSEMAレベルのクオリティだが、二人はさらなる進化を目論んでいたりする。
「パワー系は現状ノーマルだけど、近いうちにEFシビックのB16をターボ化して搭載しようと思ってます。ドリ車なんで(笑) エンジンもすでに用意してありますよ」。近い将来、サーキットで白煙を上げながら走るマーチの姿を撮影できそうだ。
PHOTO:土屋勇人
●Special Thanks:MINORITY WORKS