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パッドの“焼き入れ”や“面取り”を侮るなかれ!
ブレーキ界のご意見番「イマージュ伊藤氏」が熱く語る
チューニングパーツは装着するだけですぐに効果を発揮するものだけでなく、最高のパフォーマンスや高フィーリングを発揮させるためには、“儀式”(特別な作業)が必要な場合もある。
分かりやすいところで言うと、メカチューンが施されたエンジンや強化ミッション、新品のLSDなど金属パーツの“慣らし”がそれ。ハイグリップタイヤがアタック前に行う、“皮むき”というのも聞いたことがあるはずだ。
実はブレーキパッドもそのひとつで、本来の性能を引き出すためには“焼き入れ”と呼ばれる儀式が必要なのだ。
「昔の走り屋ならパッドの焼き入れは常識だったけど、最近は知らないって連中も多くて。思ってた効きと違うと言うから『ちゃんと焼き入れはした?』と聞くと、『何ですかそれは?』と言われちゃうんですよ」と嘆くのは、マムシの愛称で知られるスポーツブレーキ界のご意見番イマージュの伊藤さん。
というわけで今回は、改めてブレーキパッドの正しい選び方と使い方を伝授していただこう。
まず、ブレーキパッド選びで多くの人がやってしまうのが、“高価なレース用=最高”という思い込みではないだろうか。もちろんそれは間違いではないのだが、あくまでもサーキットでならという話。耐熱温度が800度というようなレース用パッドをストリートメインで使っても、効かない、鳴く、ローターの異常摩耗などのトラブルを引き起こすこともあるのだ。
ブレーキパッドの命である摩擦材は、目的に合わせて様々な金属や鉱物、繊維、化学物質などを樹脂で固めたもの。ステージに応じたローター温度を把握して最適なタイプを選びたい。一般的なローター温度の目安はストリートで180度、ミニサーキットで400〜500度、国際格式のサーキットで800度と言われている。
スポーツパッドを装着したらぜひ実践して欲しいのが、パッドとローターを強制的に発熱させる焼き入れだ。その方法は色々あるが、最もシンプルで簡単なのはブレーキを引きずったまま山道を下ること。
まず、ローター温度300度以上を目安に行うのが“当たり付け”で、パッドとローターを馴染ませるためのもの。できれば非接触式の温度計を用意したいが、無ければパッドから煙が上がるくらいが300度前後。踏み代が深くなってフェードしたなと感じたら、ブレーキペダルから足を離してクーリングすれば作業は完了となる。
当たり付けレベルなら平地で加速しながら左足ブレーキでも可能。しかし、電子制御スロットルタイプのクルマの中には、安全制御が入ってしまうものもあるようだ。
さらに、ローター温度を500度以上まで上げるのが“焼き入れ”となる。目安としてはローターがほんのりオレンジ色になるくらいで、昔の走り屋はタバコに火が付くかどうかで判断していたとか。
上が焼き入れしたパッド、下が新品のパッド。摩擦材の側面が白く変色しているのに注目だ。しっかりと焼き入れを行うと、初期でガッと効くのではなく、ペダルを踏んだ奥の方で微妙なブレーキの効き具合を調整できるタッチとなる。これこそが極限域でマシンの挙動を制御するために、レーサーがブレーキパッドに求めるフィーリングなのだ。
ブレーキパッド交換時に、パッドの能力を引き出すためのプラスα作業も知っておきたい。摩擦材の角を落とす面取りは、ローターとの引っかかりを防ぐためで初期馴染みや鳴き防止のため。プロはベルトサンダーで行うが、平型の棒ヤスリでもOKだ。
ローター表面の状態も、パッドの能力を引き出すには重要。上の新品に対し、使用したローターの表面が青いのはカーボンの膜が発生しているから。これは滑りの原因となるので、パッド交換時には紙やすりで表面を研磨してやりたい。
それが面倒だという人向け(!?)に、イマージュではローター研磨専用のパッドも用意しているのだ。
「制動という字のごとく、本来スポーツパッドは止めるよりも動きを制するために開発されたものです。安全性に関わる重要なパーツですから、しっかり理解して用途に合ったものを選んでください」と、イマージュの伊藤さんは力説する。
イマージュでは豊富なラインナップに加え、特殊な用途やレアな旧車や外車用のワンオフにも対応しているので、ブレーキに関する悩みがあれば相談してみることをお勧めしたい。
PHOTO/REPORT:川崎英俊
●取材協力:イマージュ 長野県北佐久郡御代田町大字御代田1052-6
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